嘆きのoltremare -蒼蓮華伝-

柚妃@うさまらーさんと仲良くなりたい
@weisswinde

乱戦

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「蓮華っ!!お止めなさい!!」


「っ!!」




響くのは別の声。姿は捉えなくともその声を判断したのか、異様に動揺の色を見せる蓮華。



木から飛び降りたそれは小さな体。

着地したのは綱吉の首を放し、立ち尽くす蓮華のすぐ側。







「……風…」



「……いきなり居なくなるのでビックリしました。随分探したんですよ」



「……」




黒髪を少し後ろで三つ編みにした赤いチャイナ服の赤ん坊。響く声音は柔らかいが雲雀に酷似している。そして、面立ちは幾分か優しく、幼いがどことなく雲雀に似ていた。




「心配…しました」



優しい彼の声は、確実に蓮華から冷静さを奪う。俯いたまま蓮華は言葉を発しない。

ずっと様子を窺っていた雲雀だったが、風の登場に動揺を見せる。まさか、彼女が口にしていた‘フォン’がリボーンの様な赤ん坊だとは思わなかったのだろうが、蓮華の動揺を見ればその事実を疑う余地すら感じられなかった。

同時に雲雀の胸に焦燥感が走る。見た目は赤ん坊といえど、蓮華が惹かれた相手だ。彼の言葉はかなりの影響力を持つ。他の誰よりも強敵になりえる存在だ。

それ以上に、彼は何をしに来たのだろうか……思考を進めれば進めるほど嫌な予感だけが広がっていく。





「…蓮華…迎えに来ました」




想像と同じ展開に険しい眼の雲雀は赤いおしゃぶりの赤ん坊を睨みつける。彼女は相変わらず黙ったまま。



「蓮華、貴女は此処に居てはいけない。傷付くだけです……一緒に帰りましょう」



「……」



蓮華はゆっくり顔を上げた。まるで宝玉の様に美しい瞳は哀しげに風を静かに見据える。




「………貴方の本当の目的は何?」


「蓮華」


「……貴方が山に籠ろうと言ったのは一年半前だった……その時期だったのは……何故?

貴方は私がジャポーネに居るのを知っていた……気づいていたはずよ。このタイミングで現れたのは私を迎えに来たのではなく黄色のおしゃぶりの赤ん坊達を助けるため……私の為じゃない



ホントは気づいてた……黄色のおしゃぶりの赤ん坊がジャポーネに行ったって知ったときから。


それでも貴方を信じたかった……」



「違います!!私は蓮華の為に来ました…貴女がこれ以上傷つかせないために来たんです!!」



冴えた瞳は風を射る。淡々と口にする言葉には感情が込められていない冷たい言葉。否、まるで感情を殺して喋っているようだ。必死に喋る風を感情無く視線に映すだけの瞳。




「私を思うなら私の望みを知っているはずでしょ」



「知っています!!でも、アレだけ大切に想っていた弟を傷つけたら蓮華の心は壊れてしまう!!」



「私は沢田蓮華である已然に私は‘蒼蓮’。身内からマフィアが出るなら私が尻拭いをする」



「貴女は何の為にマフィアと戦っていたんですか!!」



確信を突く言葉が蓮華の偽りの仮面を取り払う。向けられる銃口は嘗て自分を救ってくれた者へ。



「蓮華…」


「どうして、邪魔するのっ!?悪いのはマフィアでしょっ!!」




女性の涙は強いとよく聞くが、彼女の涙はまさに最強だ。彼女の力量のすべてを知った訳ではないがかなりの力を持つのに、涙を流す蓮華はただ儚くたおやかで男の庇護欲を誘う。


黙る風に蓮華は落胆する。やはり彼は自分の為に来たわけじゃない……そう思えば全てがどうでもよくなる。



いや…本当はもっと前から……




自分が必死に護りたいと望んだあの弟はもう居ないのだから

……




「嘘吐き……大嫌い…」




再び風に視線を向け、言い放つと踵を返し、綱吉の真横をすり抜けるように走り出した。



「蓮華!!」




風の静止の声は虚しく響く。彼女が走り去った後、先程までまるで感じなかった人の動きや雑踏が彼女を追うことを拒むように流れ出した。



「助かったぞ、風」


「……先程も言いましたが、貴殿方は序でです。それなのに可愛い愛弟子に嫌われてしまいました。どうしてくれるんですか?」



溜息交じりに蓮華が走り去った方を見つめ、愛弟子の姿を探すが、もう既に影すら見つけられない。



雑踏の中の静寂。そんな中、静かにその場から踵を返す影



「ヒバリさん」


「ヒバリ、あの女とは関わらない方がいいぞ」



明らかになった蓮華の正体。マフィア専門の殺し屋……確かに関わらない方がいい人間だろうが、雲雀にとっては今更だ。リボーンには視線を向けることもなく、真っ直ぐに視線を向けたのは、彼女に不似の片割れ。



「………ねぇ、君は蓮がたまに辛そうな目で君を見ていたのに気付いていたかい?」


「!!」


「……僕は知ってた。蓮の哀しそうな視線も彼女がそういう仕事をしていることも」



転入当初から彼女の行動には疑問があった。弟が好きで好きで仕方ないはずの彼女は、その弟に連絡手段すら与えていなかった。そして、蓮華は獄寺が弟を呼ぶ度に視線を反らしていた。今、この状況になり、客観的考えれば、彼女の不可解な言動も態度も理解できる。そして、蓮華の心の葛藤も。







気付けば、雲雀は走り出していた。宛もなくただ感覚で探し回っている。 ハッとして、携帯のリダイアルを押すが、呼び出し音が流れるだけ。溜息を吐きながら先程まで居た境内に戻ると異変に気付く。



「………誰もいない……」


先程は、風紀に見張らせ、人を入れさせなかっただけで、もうその命令は解除している。喧嘩があった境内ならまだしも、参道から少し離れているとはいえこちらの境内に人がいないのは不自然だ。


その時、ガサッと腰丈奥から物音がする。

音を立てずに近付くと体を小さく丸めて踞った蓮華がそこに居た。




「……蓮」



「ッ!!」



名を呼べば、体を震わせ、耳を塞ぐ。そして、俯いたままこちらを見ようともしない。

そんな彼女の隣まで歩み寄ると膝をつき、震える体を抱き寄せた。

ビクッと体を震わせるが、暫くすると耳を解き、顔を上げる。



「……きょう…や…?」



虚ろな瞳に微かに光が灯る。

目に溜まる真珠玉のような泪は静かに頬を伝った。

苦しかったのだろう……否、今も苦しくて苦しくて仕方がないのだろう。大好きな弟に、憧れを抱いていた相手に裏切られ、その現実を目の前…痛感させられても、虚勢を張り続けたのだ。



「………わたし…」



「ん?」



「……きえちゃいたいよ…」




消え入りそうな声で溢したのは悲痛な願望。雲雀の腕の中で小さくなっている彼女をきつく抱き締めた。



(消えさせはしない)



「大丈夫だよ……大丈夫。」




一体、何が大丈夫なのだろう。そう思いながらも縋るように涙を流す蓮華に言い聞かせる。



‐‐この誰よりも強く、誰よりも脆い少女の心を護りたい……初めて、そう思った‐‐



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