嘆きのoltremare -蒼蓮華伝-

柚妃@うさまらーさんと仲良くなりたい
@weisswinde

2つのネックレスと淡い兆し

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夏の日差しは容赦なく人々の体力を奪う。この年の尋常でないほどの暑さはそれから訪れる過去最悪に物悲しい季節を予期して前触れた為だったのかもしれない。





団扇でパタパタと風を起こす少女。しかし、その暑さから逃れることはできない。



「帰っても良い?」



「……何言ってるんだい」



「この暑さじゃ、作業効率も悪いし、健康被害も出かねないわ。エアコン直るまで風紀の仕事中止しない?」




正論だ。夏休みも三分の一が終わり、異常なほどの気温のせいで、ニュースでは熱中症による被害状況が連日のように伝えられている。エアコンが壊れたのは昨日の帰りのことだ。この猛暑続きのために修理の予約もなかなか取れず、無理やり予約を入れてもあと2日は待たねばならない。明後日には修理されるであろうが、このままでは自分たちも夕方のニュースの話題になりかねない。

持ち帰られそうな仕事を鞄に詰めると、早々応接室から退却した。







蓮華と出会ってひと月が経った。

はじめは彼女の持つ底知れぬ強さに興味を持って、風紀に入れた。はじめは本当にそれだけだったが、共に過ごして数日の間で確実に自分の中で大きな存在になっていく。人に関心を持つことすら稀な自分が蓮華によって完全に魅入られてしまったらしい。

そして、彼女と共に過ごす間に彼女の持つ‘闇’にも触れた。恐らく、その闇の全てを話してくれたわけではない。でも、打ち明けてくれたことが例え僅かでも、彼女に必要とされていると思え、それだけで嬉しくてたまらなかった。




「ねぇ、恭弥聞いてる?」



「……」



「聞いてなかったでしょ?」



「…ごめん」




最近、こうしてボーっとする時間も増えた気がする。蓮華は話を聞いてもらえなくて少し膨れるが決して離れたりはしない。



「…で、何の話だったの?」



「あ、これを預かってて欲しいなぁと思って。」



「これ?」



手の中に収まる小さなそれを目にした瞬間に瞠目する。それは恐らく、彼女のマンションの鍵。



「…えっ」



「前に、私部屋で倒れたでしょ?その時からちょっと考えてたんだけど、やっぱり鍵預けるなら恭弥かなぁって。」



「僕が預かっていいの?前科あるのに……」



そう…彼女は眠っていたから知らないが、自分のしたことを自分で否定する事なんてできない。



僕はあの時……。



今でもあの感覚がまるで今し方の出来事の様に蘇ってくる。その度に彼女の柔らかい唇や甘い香りが欲しくてたまらなくなる。

だけど、その気持ちも押されて無理やり得たらその後に待つのは最悪の結末。今、自分の側に居る彼女を失う事は何より嫌だ。


気持ちに気付いたのはもうかなり前だ。人にこんな風に想いを傾けることなんてなかったが、こんなに弱気になるものなのだなと思う。あの泣きじゃくる蓮華を抱きかかえながら自分の想いを伝える事を躊躇した。彼女を戸惑わせるというのはただの建て前で、正直なところは彼女を失うという焦燥感故だ。




だが、まさか、マンションのスペアキーを渡されるなんて思ってもみなかった。



「あの事は本当に気にしないで。悪意があった訳じゃないんでしょ?」



「そうだけど」




そうだけど、全く何もしていないわけじゃない。知らないとはいえ、自惚れてしまいそうだ。



いや、もしかしたら、僕は‘男’という認識をされていないのか



‘蓮は、僕のことどう思っているんだろう’



考え出したら、彼女の気持ちが知りたくなった。しかし、それと同時に気持ちを知ることが怖くなる。胸に広がるもどかしさを解消する術をまだ自分は知らなかった。



「……ん?」



遠くから聞こえる太鼓ばやしと笛の音に蓮華は不思議そうに首を傾げた。



「気になるの?」



「うん。アレ、なぁに?」



「神社の夏祭りの練習じゃない」



‘夏祭り’と口にしてもピンとこないらしく、やはり首を傾げたままでそんな姿を見ると彼女が日本から離れた国で育ったのが窺える。



「納涼祭も兼ねてるけど、毎年並盛神社の参道に夜店を出したり、花火上げたりする…典型的な縁日だね」


「………」



どうやらかなり、興味を持ったらしい。言葉こそ何も口にしなかったが、目はキラキラとしている。



「来たいの?」



「……うん。ダメ?」



「別に良いよ。どっちみち、風紀は仕事だからね」





一瞬にして暗くなる蓮華の顔。前はもっと大人びていた彼女が自分にこんな表情を見せてくれるようになった。それが嬉しくてついついこんな言い回しをしてしまう。



「君は自由に過ごしていいよ」



そして、後に見られる彼女の笑顔に惹かれるんだ。








その夏祭りであんな事がおこるなんて、その時、夢にも思わなかった。




蓮華はどうだったんだろう。




たまに見せる弟を見る悲しそうな目も憎しみを出さないように誤魔化す笑顔も……いつかはああなる事を知っていたからなんだろう。




でも、少なくともあの夏祭りの日におこるなんて思っていなかったはず。





だから…覚悟がしきれていなかったから、彼女はあんなに傷ついたんだ。




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