嘆きのoltremare -蒼蓮華伝-

柚妃@うさまらーさんと仲良くなりたい
@weisswinde

2つのネックレスと淡い兆し

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「な、奈々さん…」



振り向けば、買い物袋を下げた久々に顔を合わせる母の姿が蓮華の瞳に映る。



「蓮ちゃんが戻ってきてるってツー君が言ってたけどホントだったのね。」




穏やかな声は楽しげに会話を進める…蓮華の動揺に気づくこともなく。




「……はい。6月の終わりにこっちに来ました。」




平常を装おうとしているが、微かに震える手は雲雀の袖を掴んでいる。




「あら?蓮ちゃん、そちらは?」


「い、委員会の先輩…」


「雲雀恭弥です。蓮華さんには僕の委員会の手伝いをして貰っています。」



自分が話題に出されたためにさり気なく蓮華と奈々の間に入る。礼儀正しく挨拶をする雲雀が敬語を使ったのは蓮華の親に自分の印象を良く見せるためだがその珍しい光景に対し、蓮華は反応を示す余裕すらない。



「蓮、そろそろ見回りに戻るよ」



「あ、うん。」



「では、失礼します。」



「蓮ちゃんをよろしくね。じゃあ、蓮ちゃん時間がある時に家に戻っていらっしゃい。恭弥くんも一緒に。」



「……はい。」



雲雀は奈々に一礼すると蓮華の手を引く。それに従うように蓮華もまた守られる宛のない約束を交わしながらその場を立ち去った。



見回りを再開するのかと思いきや、携帯でどこかに連絡を入れる。しばらくすると一台のタクシーが自分たちの前に止まった。



手を引かれ、タクシーに乗る。互いに何も話さないが、ただ雲雀はずっと蓮華の手を握っていた。

タクシーはマンションの前で止まり、2人が降りると走り去っていく。蓮華の部屋に着くまで沈黙は続いていたが、それでも蓮華の手は雲雀に握られたままであった。



鍵を開け、雲雀を招き入れると雲雀は後ろ手に扉を閉める。靴を脱ごうとした瞬間に手を引かれ、彼の力と重力に従い雲雀の方に倒れ込んだ。



「!!」



「……大丈夫かい?」



この声の彼の口癖が‘咬み殺す’であるなんて信じられないほどに。蓮華の頭を撫でる手は普段トンファーが握られているなんて信じられないほどに優しい。



すがるように雲雀の背中に回された腕。漏れ出す嗚咽、頬を伝う涙は何のために流されているのか当人であるはずの蓮華ですらわからなかった。ただ流れる涙はなかなか止まらない。その間も彼は何も聞かず、ずっと蓮華の肩を抱いていた。




漸く涙がおさまり、嗚咽も止まる。ゆっくり体を放すと雲雀は蓮華の様子を窺うように視線をむけた。



「蓮?」



「ごめっ……」



散々泣きはらしたことに漸く気付いた蓮華は申し訳無さそうに頭を下げる。その目元はまだ涙に濡れていた。




「落ち着いたかい?」



「うん」



親指の腹で目元の涙を拭う。

まるで恋人同士のような距離に今更頬を赤らめる蓮華。

頬の熱を誤魔化すようにリビングへ足を進める彼女をもう一度抱きすくめたい衝動にかられた雲雀だが、なんとかその欲を抑えると彼女のあとを追うようにリビングへ向かった。




「………嫌いじゃないの…」



「…母親がかい?」




前にはティーカップ。口に広がる褐色は薔薇に似た香りを飲み込むと聞こえた蓮華の小さい声。



「……ん。あの人優しいし、一般的な‘母親’のイメージそのものみたいな人だもん。ただ、私にはそんなあの人を母親だと思える記憶を持ってないから……話すの苦手なの」




深くは聞かなかったが、彼女は生まれて直ぐに母親の元から離されて育ったらしい。双子の片割れである沢田綱吉とは、双子故の繋がりや感覚的な結び付きによって姉弟と認識できるのであろう。言葉を使わなくても意志疎通が図れる二人の関係は科学的に説明はできないが、何よりもその身で関係を感じられる存在だといえるのかもしれない。


一方、母親である奈々とは血の繋がりだけで直接の接触も間接的な接触も乏しかった故にその関係を感じにくいのだろう。


これで蓮華が自宅があるのにわざわざマンションを用意したかも弟以外と関わりを持たなかったことも理解できた。




「別に今無理に意識する必要ないよ。一緒に暮らしているわけじゃないんだから、蓮にその気があるならゆっくり関わっていけばいい。」



「……ゆっくり?」




「そう。時間のかかることだからね」



「……うん。」




肩の荷が下りたように淡い笑みを浮かべると手に持っていたカップを傾けた。




赤く焼けた空を見て、蓮華は悲鳴をあげる。何事か珍しく瞠目した雲雀がその理由を問えば、買い物をしていないと嘆いた。雲雀が呆れ顔になったことはいうまでもないだろう。



「今日は何かとろう」



「でも、私、並盛のそういうお店知らない」



「僕がとるから蓮はそんなこと気にしなくていいよ」



「う、うん」



携帯を片手にリビングを出る。

‘出前’と思い浮かべたとき、いくつかの候補が浮かぶ。蓮華と食事をともにするようになる前は出前かコンビニ弁当などで済ませていたからだ。


並盛で一番美味しい寿司屋といったら、やはり竹寿司だろう。しかし、竹寿司はあの山本武の自宅。仮に出前を取って彼が届けに来たら、彼女が自分にすら教えることを躊躇した秘密が彼に知られてしまう……。



「もしもし、竹寿司に行って特上二人前を包んで貰って蓮の部屋まで届けて」



「へ、へぃ」



用件だけ伝えると電源ボタンに触れる。そして、携帯を下ろし、ゆっくり眼を閉じた。その表情は酷く険しい。


山本武だけではない。蓮華が自分以外の男と関わっていると考えるだけで苛立ちが止まらなくなる。それが何故なのか理解してしまっていることが尚質が悪い。



深く刻み込まれた眉間の皺。それに何かが触れる。驚いて目を開ければ目に映ったのは白く長い指。顔を上げれば目に映るのは心配そうに揺れる蓮華の瞳。



人一倍警戒心が強いと自負していた自分がここまで間近にいる彼女に気付かないとは……。



「いきなり近付いたら危ないでしょ」


「えっ……何回も声掛けたけど」



声をかけても全く反応を示さなかった明らかに様子のオカシい雲雀に何か問題でもあったのかと心配で声をかけたのだろう。 揺れる瞳に映るのは雲雀だけ。

そんな風に感じるだけで広がっていたどす黒い感覚は消え去ってしまう。自分はなんと単純になったのだろうかと嘆きたくなる。だが、それすらどうでもよくさえなってくるから不思議だ。




「何でもないよ」




まだ納得がいかないという表情の蓮華を意識を別に向けさせるようにリビングへ戻ると話題を提供する。



「さっきのは付けないの?」



「え…さっきのって、ネックレス?」



視線をテーブルに向ければ今し方まで眺めていたであろうネックレスが箱の中で輝いていた。ゆっくり箱からそれを取り出すと後ろから彼女の首にかける。




「うん。似合うね」




満足げに笑みを浮かべれば軽く頬を赤らめた蓮華が‘ありがと’と口にしながらはにかんだ。その笑顔があまりにも綺麗で柄にもなく頬を赤らめ、しかし、その視線を逸らすことができなかった。




完全に魅入られていくのは自覚していたが、抗うこともせず、その流れに身を委ねる。彼女に関われば関わるほど深みに嵌ることはわかっていたはずなのに………。






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