嘆きのoltremare -蒼蓮華伝-

柚妃@うさまらーさんと仲良くなりたい
@weisswinde

2つのネックレスと淡い兆し

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夕刻に漆黒の男の隣を歩けば、モーセの十戒を連想できるように人の波は一気に道を作り、街には緊張が走る。



街の見回りは雲雀にとって日課だが、彼女をつれて歩くのは珍しい。端から見れば‘放課後デート’。雲雀は見回りが目的だが、蓮華は買い物が目的なのでデートに近いのかもしれない。



街中で擦れ違う殆どの男は振り返り、自分の少し先を歩く彼女に視線を向ける。それに苛立ち、その輩を睨み付ければ一目散に逃げていった。




「じゃあ、私、ここで」



声を上げた蓮華の進行方向は右折している。あくまで彼女は別の理由で街に出てきたのだから、見回りに来た雲雀とは別の道へ向かうのは当然だ。しかし、先程の様子を見る限り、今ここで自分と離れたらその腕に付いた所有印も無意味に男たちに声をかけられるだろう…間違いなく。そう思った瞬間に蓮華を一人で歩かせたくはなくなった。




「……僕も行く」



「えっ、でも、多分人多いよ」



「…行く」



「分かったけど、暴れちゃダメだからね」




承諾を得て、今度は並んで歩く。

彼女の向かう先は女性に人気の雑貨屋らしい。先日、廊下で転倒した際、置物を壊してしまい、その代わりを買いに来たのだとか。



店内は程良い人数の女子が小物を手に取っていた。蓮華曰わく、今日は人が少ないらしい。それでも群れを見れば苛々は募る。




「恭弥はどっちがいいと思う?」



イライラの限界が近付いた頃、蓮華が二つの置物を持って現れた。毒気を抜かれ溜息を漏らすと蓮華は雲雀の様子に首を傾げる。どうやら、雲雀の様子を見て声をかけたわけではなく‘素’だったらしい。





(ねぇ、あの人格好良くない?)


(ホントだー。隣の子、彼女かな?彼女も美人だよ)


(スッゴくお似合いだね)



聞こえてくる小声に苛つきながらもその内容には不思議と苛立たない。それどころか、自分の機嫌が直っていることに驚かされた。

自分は意外に単純なのだと自嘲しながら彼女に視線を向ける。一つのショーケースの前で立ち止まり飾られているソレをジーッと見つめていた。



ソレはシンプルなクロスのネックレス。

ただ値段は98の後に0が2つ。買えないわけではないが中学生には些か手が出しにくい額だ。



「……欲しいの?」



雲雀の気配を感じ取れないほど見入っていたらしく、ひどく驚きながら顔を上げた。



「……別に。」



その返答を返しながら視線はずっとネックレスから離れず、返答が偽りであるのは明らかであった。



「買ってあげようか?」



「は?な、なんで…」



「欲しいんでしょ?」



要らないという意思表示のために雲雀の方を向くと既に店員に声をかけているではないか。慌てたところで既にもう雲雀はその意志を汲む気はない。



「私、自分で買うからっ」



「なんで」



「いや、買って貰う理由ないもん」



「僕が買ってあげたくなったから」




明らかに気の乗らない蓮華だが、既にネックレスはショーケースから出されようとしている。もう、拒んでも無駄と感じ、自分で買うと申し出たが、雲雀はムスッと顔をしかめた。



「蓮のは僕が買う。その代わり、蓮はそれ買って」



指指すのは蓮を釘付けにしていたネックレスの右隣に飾られている少し大きめの男性用のクロスのシルバーネックレス。



「え、恭弥これ付けるの?」



「悪い?」



「いや、悪いっていうか、むしろ似合うと思うけど、恭弥無理してない?付ける機会無いでしょ?」




雲雀のルックスだったら、間違いなく似合う。っていうか、見たいが、それについては見なくても想像できる。全く問題はない。問題はそこではないのだ。自分が知る限り雲雀は学ラン姿。故に風紀の乱れを嫌う雲雀がアクセサリーを付けるとは思えなかったのだ。



「僕だって、いつも制服を着てるわけじゃないからね。」



「…でも」



「それに君がくれるなら制服でも付けるよ」



「なっ」



「僕は並盛の秩序だからね。」




‘恭弥は気を遣っているの’



そう言い聞かせながらもまるで恋人への囁きのような言葉に俄かに頬は赤らむ。だが、その感覚に嫌悪はなく、しかし気恥ずかしさを隠すために蓮華は店員の方へと歩いていった。




会計を済ませたそれらは互いの手の中にある。細長い箱に収まったネックレスをジッと見つめていると真上から声をかけられた。



「そんなにイヤだったの?」



「……」



「蓮?」



箱を見つめたまま反応をしめさないままの蓮華に対し、自分のとったかなり強引な態度を若干後悔しながら彼女の顔を覗き込んだ。


箱を見つめる表情に負の雰囲気はなく、ただ箱に釘付けになっていると言った方が正しいだろう。



「蓮」



「あ、ごめん。何か話した?私、ボーっとしてて」



「別にいいよ。イヤじゃなかったなら」




何処か拗ねたよう視線を逸らす雲雀の姿は既に見慣れた。零れる笑みを悟られぬように蓮華も視線を逸らす。



「今まで色んな人から色々な物贈られたけど…」



彼女の顔ならそういう遍歴があっても不思議はない。わかってはいてもこみ上げてくるどす黒い何かは思考を侵蝕していく。




「正直、桁が違う物も貰った…まあ、大体突っ返したんだけど………コレは返したくないなぁって」



「あんなに強引に渡されたのに嫌悪感も無く、手放したくないって思ってることが不思議だったんだけど、私見た目以上に嬉しく想ってるみたい」




本当は視線を外したのは照れ隠し。まるでラブコメだがやっぱり悪い気はしない。

こんなにベラベラと自分の思ったことを口にするなんて考えられなかった…昔の自分では。



雲雀に話したことは蓮華の背負い込んでいた何かを軽くしたのだろう。限りなく普通の女の子のように居られる場所を得られた蓮華は前よりも年相応であった。



こんなに直球な讃辞を受ければ流石の雲雀も瞠目を隠せない。彼女に視線を向ければ、頬に軽く朱を掃いたような彼女の横顔が映った。




「…ホントに「蓮ちゃん?」」



雲雀の声を遮る声は明るく穏やかで温かい声。その響きに心が安らぐはずのその声に心が乱されたのは呼ばれた本人。




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