嘆きのoltremare -蒼蓮華伝-

柚妃@うさまらーさんと仲良くなりたい
@weisswinde

この小説は夢小説 (名前変換ができる小説) です。
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「……恭弥」



「何?」



「もう一つ話しておきたいことがあるんだけど……」



生徒総会を終え、クーラーの効いた応接室に戻ってすぐだった。蓮華の顔を見れば、あの熱を出した日のような表情をしている。

少し戸惑いを含んだ双眸には雲雀の姿だけが映っていた。



「どうしたの?改まって」



「あのね……‘風’のこと…なんだけど」




‘フォン’……その名前を反芻しながら、雲雀の表情は一気に曇った。それは、恐らく彼女の‘想い人’の名前。



最近は蓮華との距離が縮まったことによりあまり感じることの無かった胸に広がる不快感が一気に雲雀の胸を圧迫し出す。



「……私の命の恩人で、武術の師匠で、私の……」



「蓮」



「最後まで聞いて。

私の初恋の相手……だと思ってた人」



胸に広がる息苦しさ。彼女が言葉を連ねることを拒むように彼女の名前を呼べば、それを遮られた。


聞きたくない。蓮華が自分ではない誰かを想っているなんて……。

そして、彼女が連ねた言葉に一瞬思考が止まる。



「……だと思ってた?」



「……うん。情けない話、自分でもよくわからないんだ。ただの憧れでホントに恋だったのかなぁ…って最近思うの。」



その言葉に息苦しさは弱まる。少なくとも今その‘フォン’に彼女が恋愛感情を向けているわけではないとわかった。しかし、疑問は何故今その男の話題が挙がったかだ。



「……で、その男がどうしたの?」



「私が此処にいたらもしかして、恭弥と風が会うことになるかもしれない。だから、先に伝えておきたいの」



「……何を?」



「……………恭弥と風ね……似てるの、顔と声が。」



流石に瞠目する雲雀。当然だ。だって、いきなり、自分が初恋の相手(仮)に似てると言われたのだから。



「……………」



「でも、私は似てるからってアナタ達を重ねたりなんてしてない。私が此処に居たいと思ったのは恭弥だからだよ。……後になって、隠してたとか言われたくない。疚しい気持ち、無いから先に伝えたかったの………それでも、重ねてるんじゃないかって思うよね?」




雲雀は動きを失っていた。正直、キャパオーバーだったのかもしれない。いきなりの告白に考えたいことがあったが、次々と連ねられたせいで完全に置いて行かれてしまったのだ。だが、一番に考えたくなったことを彼女が否定してくれた。視線を向ければ彼女は自嘲のような哀しげな笑みを浮かべている。



「蓮」



「………恭弥?」



「別に僕は気にしないよ。ちゃんと分けて認識してくれてるんでしょ?」



「うん」



「蓮は認識が曖昧で僕とその師匠を重ねていたら、まずそれ自体を口にしたりしないし、もし君の師匠に会いそうになったら全力で阻止することを考えるでしょ」



「……うん。」



「君がそうやって話してくれたってことは、何より疑う必要がないと思う」




雲雀の言葉を聞きながら俯く蓮華は雲雀の袖をギュッと握る。その顔を覗き込めば、受け入れられた安堵感と今まで黙っていたという罪悪感に歪んでいた。


彼女は咎められたがっているのかもしれない。咎めを受けて、自分への罰にしたいのかもしれない。



(……きっと、まだ心の何処かで僕に自分の事を話したことを後ろめたく思っているんだね……)




「大体、君を風紀に繋いだのは僕だ。君が気に病むことじゃない」



「でもっ 」



「……そんなに僕に黙ってたこと悪いって思ってるなら……」



「!!」



言葉と行動はほぼ同時。ソファに腰掛けている蓮華の膝に頭を乗せ、横になると彼女を見上げた。雲雀の行動を全く予期していなかったらしい彼女はまるで鳩が豆鉄砲を喰らったように目を見開いて動きを失っている。



「……これで赦してあげるよ」



蓮華の頬に手を添え、そう口にするとゆっくり目を閉じた。




蓮華はゆっくり我が物顔で自分の膝を枕に眠る猫……猫科動物を見据える。


黙っていれば並中のイケメンランキングの1位である山本武にも負けないだろう容姿を有したその少年。

我儘で不良のトップで突拍子もないことやったり、言ったりするし、気に入らない輩は片っ端からトンファーで滅多打ちにするけど、蓮華にとっては自分を理解してくれた掛け替えない存在だ。



そっと、黒紫の髪に触れれば、見た目以上に柔らかく触り心地が良い。彼の隣は居心地がいい。だからこそ、手放さなければならなくなる‘その瞬間’を怖れてしまう。

彼の持つ自分だけを包み込んでくれる優しい腕に感じる安堵とそれを失う事に対する恐怖は常に蓮華の中にある。




「……私が…普通の女の子だったら良かったのに……」




自然に口から漏れたのはそれで一度も口にしなかった本音。ホントはずっと前から思っていたことだ。口に出したら再認識してしまいそうだから口にしないようにしていた。



自然に流れ出す涙。



彼女はそれを止める術を知らない。静かに眠る彼に悟られまいと声を抑える事しかできなかった。







優しく髪を撫でる蓮華の手が心地よい。別に蓮華に怒ったりしていない。が、以前味わったこの感覚を再び味わいたいが為に彼女の断罪を望む心を利用したのだ。



しかし、彼女にこんな風に触れられるのは自分だけなのだろうか。真相はわからないが、ただそれが自分だけであって欲しいと望む。

だが、それも望むだけ。強いりはしない。ただ、こうして彼女の隣に居られるだけで満たされていたから。





だから、彼女がまだ自分に隠し事をしていても目を瞑っている。









「……私が…普通の女の子だったら良かったのに……」












………僕は知らない。



彼女が何のために並盛に来たかを………



悲しそうな辛そうな顔で弟を見据える理由を……




僕はまだ知らない。






Continued.


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