嘆きのoltremare -蒼蓮華伝-

柚妃@うさまらーさんと仲良くなりたい
@weisswinde

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「……キョーヤは、もう私が普通の子じゃないこと……知ってるよね?」



「……………」




知っている。静かに頷く雲雀は数日前の腹心の報告を思い出す。




「あのマンションの沢田の部屋は入居2日前に一括で‘買い取られて’います。支払いに来たのは沢田1人だったそうです。」




前々から不思議には思っていた。自宅が並盛にあるにも関わらず、高額なマンションに住んでいて、しかも家族との接触は学校で弟と会っているだけだ。



もっとわからないのは元々彼女が海外にいた理由だ。情報によると定期的に日本に来ていて、戸籍は日本だが小中学校の在籍記録は今回が初だ。来日も数日と短期間…体が弱かったという感じでもなさそうだし、何より弟さえ明確な理由を知らない。



気にしないようにしていただけで実際はかなり不可解なことが多いのだ。




「君は弟達とは違う財源で生活してるよね」



「やっぱり、マンションの事、聞いてるんだね」



「それだけじゃないけど」



「なんで今まで言わなかったの?」




沈黙の後の雲雀の返答に首を傾げた。明らかにおかしかったことに自覚はある。だからこそ、気付いていたのにそれを問わなかったことが不思議で仕方なかった。




「君が聞かれたくなさそうだったから。」



流石にその返答には唖然とするしかなかった。気になったら即行動だろう彼がそんな風に気を使ってくれるとは思っていなかったからだ。




「…………私は、私の稼いだお金で生活してるの」



「アルバイトしてるってことかい?」




瞠目する雲雀は蓮華を静かに見つめた。中学生がこんな高級マンションに住むために働いているとしたらその職業は限られてくる。


良い方面で考えられるのは芸能活動だが、蓮華の性格上それは否定された。それにもし、そんな活動をしていたとしたら、他の生徒が騒ぎ立てていただろう。



悪い方面で考えられるのは……………。



「………売春」



「……どうせなら、もっと説得力のある嘘つきなよ。

君がそんな真似できる訳ないでしょ。」



当人が口にした言葉を聞き手が否定する。実に滑稽だが、それは雲雀が真っ先に頭から除いた仕事だからだ。

確かにどちらかと云えば‘悪女’タイプなのだろうが、その手のことに硬派でプライドの高い彼女がお金のために体を売ったりはしない。っというか、できないだろう。



「売春の方がまだマシかもよ?」



「……」



「私が‘人の死’に関わる仕事してるっていったら?」



茶化すつもりで口にした真実を雲雀はいともたやすく見抜く。何も言わず伸ばした彼の手が蓮華の頬に触れようとした瞬間、彼女は拒絶の声をあげた。


「……蓮…?」



強い拒絶に流石の雲雀も伸ばしかけた手を止める。瞠目した灰銀の瞳は震えを隠すように肩を抱く蓮華の姿を映していた。



「………貴方の手も穢れるわ。」



彼にはタトゥーを見られてしまった。しかも、雲雀はツナ達とも若干とはいえ関わりを持っている…………いつか、時がくれば自分の事が明るみになる。このまま、普通に暮らすことは近いうちに出来なくなってしまう。それが分かっているからこそ手放したくなかった。



この温かい日だまりのような穏やかな場所が大好きだったからこそ………雲雀を巻き込んではいけない。



ここ数日悩んで漸く出した結論。





‘彼に自分の正体を話して、彼から離れる’




ゆっくりと抱いていた自分の肩を離すと雲雀を見据える。多くの男達を魅了する深緑の瞳は少し熱に潤んでいるが、その眼差しは強い決意を示す。見つめられた雲雀に緊張が走ると同時に何ともいえぬ焦燥感に襲われた。



「……蓮」



「私、人殺しなの。しかも、1人や2人じゃない。自分でも覚えてないくらい……いっぱい」



「…………」



「キョーヤは私と一度手合わせしたから私の力量、分かるでしょ?私の手、血で汚れてるの。」



雲雀は黙ったまま蓮華の話に耳を傾ける。そして、蓮華は必死に気丈を演じ続けていた。



流れる沈黙。



先に動いたのは雲雀。



「やっ!!離してっ!!」



「…………ヤダ」



キツく抱き寄せられ、抱え込まれる。ジタバタと暴れようとするが、頭と背中に腕を回されしっかりと抱きしめられているために殆ど身動きがとれなかった。



「話、聞いてなかったの?」



「聞いてたよ。君が人殺しをしなきゃ生きられない環境で育って、どうしてもその道を通るしかなかったってことはわかった」



「誰もそんな事言ってない!!」



「でも、間違ってない……でしょ?」




‘違う’その言葉が出ないほど動揺を見せる。普段ならもっとうまく誤魔化すだろうが、今の体調と雲雀の鋭い指摘によって余裕の‘よ’の字すらないだろう。

そして、悪循環のようにそんな状態は蓮華の嘘を見破るのをたやすくしていた。



「離して…私、ひと……ごろしなんだよ…?」



「だから何?僕にはそんなこと関係ないよ。君は望んでそんな事しない。そんな環境に置いた周りの人間を咬み殺しても、僕の君に対する見方は変わらないよ。


君は、君以外の何者でもない。

そんなことより、僕にとって問題なのは‘今君を離す’ことだよ」



気丈に振る舞う彼女の仮面を言葉によって奪い取り、本心すら見抜いていた。

今、彼女を離せば、彼女は自分の前から姿を消す。手を伸ばしても届かない場所に彼女が行くことの方が雲雀にとっては重大な問題なのだ。既に自分に芽生えた彼女に対する感情を自覚しているからこそ、みすみす手放す真似などしたくない。




「君、今1人にしたら居なくなる気でしょ?そんなことさせないよ。」



「やっ!!お願い、キョーヤ、離してっ…」



まるで駄々をこねる子どものように泣きじゃくる蓮華の頭を優しく撫でた。聞こえる嗚咽は普段の彼女から想像もできないくらい幼さを感じる。



「落ち着いて、蓮。僕は君が何を好み、何を嫌うかある程度なら理解してるから。」



「…だってっ…」




‘大丈夫だから’



そう声をかけながら抱きしめる体は先程よりも熱い。また熱が上がってしまったのだろう。先程まで雲雀を遠ざけようとしていた彼女の手は雲雀の服をぎゅっと握りしがみついていた。




「君は穢れてなんていないよ。君は‘睡蓮’の花言葉を知らないのかい?



それでも、君が穢れていると言うなら、僕は穢れてもいい。元から綺麗なわけじゃないからね」



「……恭弥…」




腕の中に閉じこめた蓮華からもれた声。弱々しくていつもの彼女ではないが、本当の蓮華に触れられたことが雲雀は嬉しかった。



どの位時間が経ったのだろうか。

上がり過ぎた熱と泣き疲れたためか蓮華はいつの間にか眠りに落ちていた。

その眠りは彼女のそれまでの過去を癒すように穏やかで妨げられることはない。




が、しかし。この状況が蓮華への気持ちに気付いた雲雀の理性にとってかなり酷な状況だと彼が気づくのは数分後のことだ。







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