嘆きのoltremare -蒼蓮華伝-

柚妃@うさまらーさんと仲良くなりたい
@weisswinde

戸惑い

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その日の雲雀は何に対しても反応を示さなかった。草壁の報告にもどこか上の空で、あろうことか仕事を委員に押し付け帰路に着いたのだ。

原因はわかっていた。いつも彼のそばにいるはずの彼女は今日はいないからだ。委員の報告によれば午前中に早退したとのことだが、その前に雲雀とトラブルを起こしたらしい。


比較的温厚で雲雀に滅法甘い蓮華が雲雀とトラブルを起こすなんて考えられなかった。


雲雀が蓮華に惹かれ始めているのは明らかだ。つまり、その少女と喧嘩をしたことで有り得ないほど凹んだ彼はいつになく人間的で、そんな彼の変化に不謹慎ながら笑みをこぼす草壁は雲雀の残した仕事に取りかかった。










部屋のベッドに身を投げて一体何時間位経ったのだろうか。日はどっぷりと沈み、夜の帳が降り空には夏の星が輝きだしていた。体を起こせばだるさがそれを邪魔する。



昼に応接室に現れたのは待ち人ではなく気弱そうな彼女の弟。蓮華が来ないのは報告からわかっていたが、彼が持ってきた彼女の事情に全てのやる気を殺がれた。



‘自分と距離を取りたがっている’………嫌われたのだろうか。



‘嫌われたくない’


―初めてそんな風に想える相手だからこそ、大切にしていきたいと思っていたのに……



彼女に誤解されることを…いや、夜這いと言われれば否定しきれない感情を持って蓮華に触れてしまったのは事実だ。


しかし、彼女の部屋の扉を開くまではそんな気持ちはなかった。


あの脚のタトゥーの事も言われたくはなかったのだろう……。

沢田綱吉は彼女が自分を嫌っているわけではないと言っていたが、距離を置かれれば結局は変わらない。声をかけることも、謝ることすらできないのならば関係の修繕も望めないからだ。



「………」



気晴らしに風に当たろうと窓に近付く。目に入ったのは向かいのマンションの6階。

部屋の明かりを逆行に見えた姿に瞠目させられた。

袖のない服を纏ったシルエット。右手を右耳の近くに当てていることから電話中らしい。ベランダの手すりに腕を置いて話していたが、壁に寄りかかるような体制になったことにより、その表情が明らかとなる。


どこか気だるそうに髪をかき揚げる表情はとても13歳には見えないほど‘女’を感じさせた。細められた目は昼間の彼女を思い出す位に冷ややかに電話の相手を嘲笑している。唇の動きから会話の内容を得ようとするが、どうやら日本語ではないらしくそれも叶わない。




ただその表情から何となく相手が男であることは理解できた。

蓮華には海外にいる頃から言い寄られているという話は聞いていたが今の電話の相手がその男なのかもしれない。



蓮華が他の男と関わっているだけで気に入らないというのに、現在の状況はまるで上乗せのように苛立ちを掻き立てる。




広がる黒い雲を振り払えるのは彼女だけ………。









授業を脱走した日は丁度金曜だったことから2日の休みを挟むこととなった。

あの時には感情的になったが、今は頭が冷えている。だが、覚悟はまだできない。



蓮華は自分が認識しているよりも雲雀のことを気に入っているのだ。全てを話し、彼の隣という居場所を失うことを恐れているからこそ、話すことを拒んでいる。


彼が例え、喧嘩が強く戦闘慣れしていても所詮は喧嘩だ。罪と血に汚れた自分とは住む世界が違いすぎる。それがわかっているからこそ、蓮華は雲雀と自分の間には一線を引き続けなければならないのだ。




「…………」




先日かかってきた電話の内容と雲雀の件で蓮華の頭はゴチャゴチャで精神的に相当のダメージを受けていた。そして、着実に体と睡眠時間を蝕んでいったのである。






いつの間にやら朝だ。全くと言っていいほど寝た気がしなかったが体を無理矢理起こすと携帯を見た。


7:20……今から支度をしたら遅刻だ。元よりあまり学校へ行く気はなかったが、気だるさを拭えぬままベッドから抜け出す。



壁に掛けた制服を取ろうとした瞬間に携帯電話が鳴った。表示された名前を見ずに通話ボタンを押して耳にあてがえば抑揚のない声が耳に流れ込む。



『…蓮…』



「…………キョーヤ…」



『………直接話がしたい。ドア、開けて』




ツナが言った通り、雲雀が行動を起こしてきたのだ。しかし、蓮華の方の覚悟はまだできていない。今断ることもできるが彼も考えて数日の猶予をくれたのだ。




これ以上、彼は待ってはくれないだろう。



「…………わかった」




ある程度の間を持った承諾の言葉。雲雀にはその間がどれほど長く感じていたか、蓮華は知らない。



自室の扉を開け、玄関に向かおうとした蓮華を妙な感覚が襲う。

歩く度に地面が沈むように揺れるのだ。覚束ない足取りで玄関へ向かうが、廊下を歩く蓮華の体に限界が訪れた。



体は揺らぎ、バランスを崩した体は受け身無しに廊下に叩きつけられる。その際、巻き込まれた陶器の置物が音を立てて砕けた時には蓮華の意識は既になかった。






Continued.


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