嘆きのoltremare -蒼蓮華伝-

柚妃@うさまらーさんと仲良くなりたい
@weisswinde

戸惑い

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今にも戦闘開始の鐘が鳴り響きそうな雰囲気であったが、事は起きなかった。



先に動いたのは蓮華。さっと強い眼光をその瞼に収めると鞄を掴み、未だ唖然としている者達を残して教室から逃亡したのだ。




「………かなり、ご立腹ね…」




花の声はやけに響いた。

そう、蓮華は自分の事ではあまり怒らないのだ。以前、バスケの途中で怒ったのは道理を外れた事をしたからであって、それ以外は相手をからかいはするが怒りを表すことはなかった。



特に雲雀に対しては甘い。それは雲雀自身も感じていたことであろうが、どれだけ彼が傍若無人な振る舞いをしようと彼女は苦笑しながらもどこかその対応は優しかった。



「おい、ヒバリ!!アイツに何しやがった!!」



声を荒げる獄寺の隣で声には出さないが山本も厳しい顔で雲雀を見据えている。殺伐とした空気の中、ツナだけが蓮華の本心を探るように彼女の立ち去ったドアを眺めていた。



「…………」



獄寺の問いにも答えずただ黙り込んだ雲雀。彼自身も彼女があんな対応をとるとは思っていなかったのだろう。



どう立ち回ればよいかわからず、だがこのまま蓮華を放っておくことなどできない。自然と足は彼女の去ったドアに向かうがそれを止める声がかかった。




「待ってください、ヒバリさん」



「……」



「蓮を追わないでください」



「………どうしてだい?」




誰がどう見ても、今すぐ彼女を引き留めて謝るべきだ。声をかけた人物が別の奴ならばきっと足すら止めなかっただろう。


視線を声のする方へ向けるとそこにいるのはどことして共通点を見つけられない双子の片割れ。ただいつものように怯えた様子はなく、穏やかで静かな瞳だけは彼女に似ている気がした。




「蓮は怒ってません。だから…」



「何言ってんだよ、ツナ。どう見ても怒ってたぜ」



「いや、ちょっとは怒ってたみたいだけど、見た目ほど怒ってなかったんだ。」



「………」



「蓮は、戸惑ってるみたいです…多分、ヒバリさんに対して。

あの、オレ、蓮と話してみるんで…だから、今は追わないでください。」



宥めるような素振りをしながらツナは蓮華の去ったドアから出て行く。そんな彼をただ黙って見送る……あんな、草食動物の云うことなんてと思う反面、自分などより蓮華との関わりが強い彼の言葉に耳を貸さずには居られなかった。




「……やっぱ、双子ってスゲーな。」



「似てないけど、お互い考えてること分かるらしいしね」



「そういえば、蓮ちゃん、秘密の会話ができるって言ってたね。」




非現実的ではあるが、成立している謎の会話方法。言い出した蓮華に対し、ツナが否定をしない事からもあながち間違った表現ではないのだろう。


そんな一面を見ると2人の関係が明確に感じ取れた。


予鈴が鳴ると雲雀は踵を返し、ドアに向かう。後ろから山本の‘蓮を追うなよ’と云う声にも反応せず、蓮華達が出て行ったのとは反対のドアから出て行った。








ツナは階段をただ上へと上がっていた。近くにいた人に蓮がどっちへ向かったか問えば良かったのだが、すでに予鈴が鳴っているためにもうみんな教室へ戻ってしまっている。

だが、確証はないが何となく彼女がこっちにいる気がした。だから階段を上っているのだ。



屋上に続く扉を開けば、眩しい日差しが照りつけている。そして、カバンを放り、フェンスに触れながら遠くを眺める少女を確認した。




「……蓮」



「……ツナ…どうして、此処に?」



呼びかけに答えるように振り向いた彼女はどこか儚い。昔と同じようにまたすぐ消えてしまいそうなほどその存在が淡く感じられた。


感覚を確かめるようにフェンスに着かれた蓮華の手に自分の手を重ねる。


そこにある温かい感触に安堵するツナに首を傾げる蓮華。



「蓮が心配で追ってきたんだ。……大丈夫?」



問いかけに静かに頷くがその表情にいつもの余裕はない。深緑の瞳は愁いを隠すようにツナから視線を外し、空を見上げていた。


初夏の日差しはたまに通る雲によってその光の加減を変える。風は軽く蓮華の髪を撫でるように吹いていた。




運動場の端からは水音と共に生徒の騒ぎ声が聞こえてくる。ここは屋上故にその様子も見えてきた。



出入り口の上に移動すると蓮華は体を横たえ、空を仰ぐ。つられるように空を仰げば、澄んで高い空には所々に雲が散っている夏の空が映った。




「………ホントはヒバリさんと居るの辛いんじゃないの?


蓮がまだ初恋の相手に気持ちがあるなら尚更さ」




「似ていても同じ人間じゃない。重ねているわけじゃないからこそキョーヤの隣は嫌いじゃない……っていうか、好きだよ」



「じゃあ、どうして…」




「……居心地がいいから距離感が掴めないのかもしれない」





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