嘆きのoltremare -蒼蓮華伝-

柚妃@うさまらーさんと仲良くなりたい
@weisswinde

戸惑い

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あの調理実習の日から三日……彼女は一度も教室には現れなかった。



「蓮ちゃん、今日も休みかな?」


「むしろ、生きてるかしら」


「こら、花。勝手に殺さないでよ」


「あ、蓮ちゃん。おはよ」


「おはよー、京子ちゃん」



久々に現れた蓮華はいつも通りで強いて変わったといえば、それまで怪我でどこかぎこちなかった歩行が安定したことくらいだ。



「3日間も何してたの?」



「風紀の雑務……っていうか、キョーヤの相手。」



「相変わらず仲いいわね、そのまま付き合ったら?」



「なんですぐそういう話になるのよ」




また話を良からぬ方向へ向かいそうになり苦笑と共に溜息を漏らす。恋愛沙汰にあまり触れたくなさそうな素振りの彼女は話題を一気に変える。




「あ、今日、クッキー焼いてきたんだ。この前のお詫び。」




彼女の手にあるのは校内に持ち込む事の赦されていない不要物。見つかり次第風紀に呼び出されそうな代物だが、この学校の風紀委員で彼女に何か物申せるのは雲雀くらいのものだろう。しかし、彼女のことだ。既に雲雀には手を打ってあることだろう。


彼女曰わく、頻繁に彼女の部屋(弟すら知らない)に出入りしているらしい彼。実際のところ、いつでも関係に進展があってもおかしくはない。もしかしたら、この3日で進展があったかもしれないのだ。



「蓮。進展ないの?」



「何の?」



「無粋なこと聞くわね」



「朝っぱらから無粋なこと聞いてるのは花じゃない」



「あら、わかってるじゃない」




最早、逃げ道はない。蓮華の何度目かの溜息はやたらと重かった。








「蓮、おはよ」



「あ、ツナ」



おはよーとさり気なく花から離れ会話から離脱する蓮華はもうこの並盛に溶け込んでいた。






まだ誰も知らない。




彼女が何者かを…。




彼女の目的を……。






彼女は―華―。





正体も本心も未だ晒さず……罠と策を広げ、対峙のときを静かに待つ。微かな戸惑いと躊躇を胸に……。









「ねぇ、蓮。」



「ヤダ」



「まだ、何にも言ってないんだけど」



「だって、また恋愛ネタに持っていくんでしょ?何度聞いても答えは変わらないんだから無駄でしょ?」



授業の中休み。久々に受けた授業がかったるく、ダレる蓮華の席に集まったのは花と京子。いつの間にやら一緒に時間を過ごすことが多くなった2人が側に来ても転校当初のような感情はない。



‘ヤダ’なんて……どっかの誰かみたいな断り方、いつの間にやらうつってしまったのだろうかと軽い嫌悪感に苛まれながら気だるそうに視線を上げる。



「いや、ずっと聞きたかったんだけど、蓮の制服ってヒバリが用意したのよね?」



「そうだけど……」



「下にインナー着てるのは蓮の意志?」



「っ……!!」




ただ疑問に思ったから口にしたのだろうが、蓮華の隠しているモノを的確に突いてきた為に彼女は口ごもる。すぐ近くにはツナ達がいる……それなりの嘘を用意しなければならない。




「―あ~、やっぱり、ヒバリね。意外と純朴そうだものね」



「……う、うん。まあね……」




「――僕はそんな物用意させた覚えはないけど」



最悪だ。せっかく旨く誤魔化せそうだったのにいきなり背後からかかった言葉に焦りの色が濃くなる。


群れる事が嫌いなはずのこの男は最近ことある毎に蓮華の周りに現れていた。そんな暇などないはずなのに………。





「理由はキミの右足のアレでしょ」





―この男は何を言っているんだろう―




一瞬にして思考回路が停止し、頭には漆喰の世界が広がる。目の前の男は知りえないはずの理由を…しかも、この口振りからすると知られている。




「………」




静かに立ち上がった蓮華は俯いたまま。不思議そうに名を呼ぶ京子の傍らで蓮華はやはり何も言わない。




(……手を打たなきゃ………喋られる前に…)




彼は踏み越えてはいけない境界線を越えてしまったのだ。


だから、仕方がない。そう言い聞かせる――しかし、震える手は頭に浮かんだ思考を拒むように云うことを聞かない。知られた以上そのままにしておいてはならないとわかっていてもそれを否定してしまうのだ。




かみ殺したような声で零れる笑いは愁いている様な印象を与える。己を嘲ているようでどこか悲しいと訴えるような声……。




「…………ちょっと、油断したかな。まさか、夜這いをかけられるなんて思わなかったわ……」




顔を上げた蓮華はこの上なく冷たく、すべてを凍てつかせる様な眼光で容赦なく雲雀を見据えていた。たまに見せる‘女帝モード’とは比べ物にならないほどの気迫は最早殺気にも近しいものである。




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