嘆きのoltremare -蒼蓮華伝-

柚妃@うさまらーさんと仲良くなりたい
@weisswinde

帳と蒼い蓮

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「明日、応接室に居てね」



「…わかったわ」



夕飯調理中に背後から声をかけられる。もうすっかり、この部屋に馴染んだ彼は蓮華の返答を聞くと早々にソファーに戻っていった。

べったりとくっつかれ、帰りも抜かりなく送ってくれるがおかげでツナ達に謝ることもできない。部屋にもちゃっかり上がり込んで夕飯を食べていくのはこれで一体何度目だろうか………。




「……まあ、1人分より2人分の方が作りやすいからいいけどさ。」




独り言は調理音にかき消され雲雀まで届くことはなかった。



「ねぇ、蓮」



「ん?なぁに?」



「…………」



「えっ!?呼びかけて沈黙っ!?」



食後のお茶に口を付けていると呼びかけられ、反応すれば沈黙される。これは彼女としても反応に困るが、彼の表情は硬い。深刻そうに何か問いたそうな瞳は戸惑いがちに蓮華を映していた。



「………どうしたの?」




揺れる瞳は向けられた視線を真っ直ぐ見つめるが、彼は直ぐに‘何でもない’と視線を反らせてしまう。

言われた方としてみたら、気になって仕方がないが、これ以上聞けば雲雀の気分を悪くしてしまうと思い、大人しくそのまま身を退いた。







「……キョーヤ?」




時計を見れば、時刻はもうすぐ10時になろうとしていた。いつもならもう部屋に帰る時間を過ぎているのに彼は未だに帰る素振りも見せない。

声をかけながら近付けは彼はソファーにカラダを倒し寝息を立てている。声をかけても起きる様子すら見られなかった。




「……葉が落ちる音でも起きるんじゃなかったの…」



苦笑を漏らしていても、向ける視線はどこか優しい。雲雀の無防備な寝顔が可愛かったからかもしれない。



これ以上声をかけるのも可哀想だったのでもう少しだけ寝かせてあげようとそっとタオルケットを体に掛ける。

そして、彼女はその場を離れバスルームへと入っていく。


約一時間後に石鹸の香りを纏った彼女が戻ってきても、雲雀は先程と変わらず安らかな寝息を立てていた。




「……疲れてたのかな?」



タオルケットをかけ直し、見つめる瞳はやはり優しい。彼が求めているからそばにいると口で言い聞かせていても、内心はわかっている。‘自分が彼の隣を望んでいる’と。だからこそ、風と似ている彼の隣に居続けられるのだ。



浮かべる柔らかな笑み。そっと彼の頬に触れると少しくすぐったそうに眉を顰める。‘可愛いなぁ’と思いながら、全く起きる気配のない彼を部屋に泊める決心をするのに時間はかからなかった。




淡い光が開かれた瞳に映る。軽く目を擦って見えたのは白で統一された部屋。一気に眠気が醒め、体を起こすとテーブルの上の書き置きが目に付いた。




『ごめんね。起こしたんだけどよく寝てたからそのままにしちゃった。

きっとキョーヤが起きるのは遅い時間だろうから良かったら泊まっていって。』




スッと視線を上げれば時計は一本の縦線となっている。

昼もあれほど眠ったというのに3時間以上も熟睡してしまったというのか…呆れ眼に辺りを見回せば、電気は少し暗めのものに切り替えられ、自分の体にはタオルケットがかけられていた。




『シャワー浴びるならバスルームはドアノブの赤いリボンのとこ。ゲストルームには緑のリボンがついてるから。



どうしても帰るなら、私青いリボンのついた部屋に居るから声掛けてね。』




丁寧に大小のタオルに使い捨ての歯ブラシが置かれている。それを持つとまだ重い体を引きずりながら赤のリボンのドアノブをまわした。




全く勝手に眠り込んだのは自分だというのにここまで気を遣わせてしまったのかと軽い罪悪感を感じながら向けた視線の先には青いリボンの部屋。

濡れた髪は軽くタオルで拭われただけで未だに雫が滴る。



コンコンというノック音の後に呼びかけるが反応はない。ノブを回し、少し扉を開けてからもう一度名前を呼ぶが返答はない。




「…入るよ」



扉を引くと他の部屋とは明らかに違う雰囲気が広がる。

白とアースカラーで統一されていた家具とは対照的に鮮やかな色でエスニック調の家具。見慣れぬ装飾品で彩られたそこはまるで異国の宮廷の一室に迷い込んだような錯覚すら覚える。イタリア育ちのはずの彼女がバリやインドネシアなどの東南アジア文化を好んでいたのは意外であったが、人の知らない蓮華の一面を知ることができたことによりその胸には優越感が広がった。



どこからか水の流れる音色が聴こえる―おそらく、安眠用のCDか何かだろう。部屋の奥へ視線を向ければ天蓋付きの寝台を睡蓮の形をしたランプの光が照らしている。かけられた布から中途半端に晒された白く長い足は異様に色っぽい。



思わず頬を赤らめ視線を逸らすが、雲雀も思春期の男子……その甘い誘惑に勝てるはずもない。相手がずっと気になっている相手ならば尚更だ。



「……蓮…」


布を退けるとそこには静かに寝息を立てる蓮華。完璧に熟睡している蓮華は全く起きる気配はない。

本気で理性との葛藤を始めた雲雀の頭に響いたのは……………。


「………ふぉ…ん……」



何度か彼女の口から聞いたその名前。誰であるかは知らない…だが、確信を持って言える。その人物が彼女にとって特別な相手であると。



「…その‘ふぉん’が、君の初恋の人?」




いつもは射殺すように人を映すその瞳は切なげに揺らぐ。



そう、日中雲雀の機嫌がこの上なく悪かったのは蓮華と連絡が取れなかったからではない。


蓮華の恋愛事情を耳にしたから。


彼女と自分はその手の関係はなかったし、何となく蓮華がそういう関係を避けているのは知っていた。だが、明確にその事実を聞いてしまったことによりやるせない気持ちが抑えられなくなり、八つ当たりという形で表すこととなったのだ。


今まで異性に…いや、他者に感情を向けたことなどなく、しかも、相手に好かれたいと思うことはなかった。正直なところ、この事態をどう切り開けばよいかなどわからないのだ。



ただ沸々と湧き上がる気持ちが溢れ出してその勢いで彼女を傷つけてしまうことだけは避けたい。

彼女の隣に居続けたい。だから、先程も問うことが出来なかったのだ。




「……ふぉん…」



安定した呼吸を繰り返す唇が囁くのは自分ではない名前。求められているのが、蓮華の心に居るのが自分ではないことを痛感させられながらもその唇から目が離せない。



三度その名前を呼ぼうとした唇は雲雀によって塞がれる。

やけに耳についたのはスプリングの音。想像以上に柔らかい唇。鼻腔を擽る甘い花の香りは容赦なく雲雀の理性を奪う。

初めてではないはずの口吻に気持ちは高揚し、舌が蓮華の閉ざされた唇に触れれば痺れるような甘さが伝わる。



リップ音と共に離れた唇に残された柔らかい感触とその甘さに軽い目眩を感じた。



広がる感覚は酩酊に酷似する。蝕まれる意識の中で彼が目にしたのは‘花’。





「……蒼い…睡蓮…?」




それは肌掛けから露出した足に描かれたモノ。初めて目にするそれは彼女の纏う秘密の根源であり、彼女が隠し続けていた謎の断片。




そして、ソレは彼が知るべきではなかった世界への入口。得てして得たわけではないが、この事が後の二人の関係を左右する事となる。







Continued.



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