嘆きのoltremare -蒼蓮華伝-

柚妃@うさまらーさんと仲良くなりたい
@weisswinde

覚醒する心

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今朝は昨日より少し早い時間に家を出た。普段から遅刻ギリギリで家から駆け出すツナからは想像出来ないほど規則正しい生活を送っている。奈々もツナの変わりように驚いて理由を問うが、蓮華に会うためと答えたところで彼の母親は彼女が帰国していることを信じようとしない。仕方がないことだ。彼女が並盛に編入して今日で4日、一度も自宅に帰ってきていないのだから姿を一度も見ていない奈々には信じがたいことなのだろう。




「……蓮って何処で暮らしてるんだろう……」




疑問はそれだけではない。生活費は一体何処から算出しているのだろう。奈々は彼女が海外にいると思っているということは母親から出ているわけではなさそうだ。父親に至っては所在不明。




そんなことを含めて今日こそは色々問いてやると意気込み、早く登校したが……居ない。そして、来ない。いつの間にか、朝練の終わった山本が今日も変わらない爽やかな笑顔で話し掛けてきた時刻は登校時間ギリギリ。どうやら、獄寺は遅刻らしい。



担任が入ってきた時には空席が2つ―獄寺と待ち人だ。点呼をする担任の顔からして、どちらも連絡は来ていないのだろうが、何も言わない。獄寺に何か言うのも面倒であるが、それ以上に風紀委員の蓮華に何か口にする方が何倍も面倒だ。



「今日蓮いないのな」



「うん…オレ聞きたいことあったんだけどなあ」



「もしかして、昨日の怪我で家から出られねぇとか」



山本の予想。ツナは心のどこかで否定していた。理由はない。ただ何となく蓮華は近くにいる気がするのだ。否定の言葉を口にしようとした瞬間にドアから顔だけを出した担任に呼ばれる。





「おい、沢田。コレを姉ちゃんに渡してくれるか?」



「え、あ、はい。」



担任より渡されたのは数枚のプリントと空の封筒。受け取ってから数秒後にそれを彼女に渡す手段を自分が持っていないことに気付かされる。

何故自分に渡されたか初めはわからず悩んでいると一つの考えがよぎった。



「………学校には実家の住所で編入したのか」



受け取ってしまった手紙を手にこれからどうしたらいいかを悩む。いや、考えずとも唯一彼女の家を知っているであろう人間は頭に浮かんでいた。いたが、その相手に関わりたくはない…出来れば、一生。しかし、プリントには月曜日の調理実習に必要なものが書かれているものも含まれている。

ここで悩んでいるよりさっさと彼に頼んで済ませてしまった方が賢明だが、時計を見ればあと5分しかない。大人しく諦めて中休み間で待つこととなった。



「ねぇ、キョーヤ」



「何」



「仕事終わっちゃった」



「早いね」



「ちょっと出てきていい?」



「ダメ」




繰り返されるささやかな攻防。与えられた仕事を終わらせてしまい図書館に行くことを願い出ているのだが、未だ許しは降りず。



「ちょっと本借りに行くだけだよ」



「今日は僕から離れない約束だよ」



「……なら、一緒にきて」




蓮華は戦法を変えた。押してダメなら引いてみる。彼女のピーコックの瞳には見つめられると嫌と言えなくする力がある。甘えた視線はそれを強め、絶対的な力を持って相手に答えを迫る。




「……わかったよ。」



しかも、相手を悪い気にさせないのだから平和的だ。本人が意図的にやっているとは思えないが、少なくとも雲雀には最も有効な手段となっていた。



「ねえ」



「ん?」



誰も居ない廊下を2人並んで歩く。ペースは蓮華に合わせゆっくり歩いてくれている雲雀はやっぱり優しい。



「さっきみたいに人に何か頼むのは僕だけにしてね」



「へ?なんで?」



「なんででも。絶対守ってね」



‘あの瞳に僕以外が映るのなんて赦せない’




そんな子供の様な嫉妬心から口にした言葉に蓮華は首を傾げていた。




(……ツナは別でよろしく。)

(ダメ)

(理由知らないけど弟なんだからいいじゃん。むしろ、使えないとあの二人の対応大変なの。)

(なら、弟だけね)






オープンスペースのような図書室。堅苦しい一室よりも、利用しやすくすることに重視されたその場には綺麗に整頓された本棚。所蔵数はそれほど多くはないが、なかなか面白そうな本が並んでいる。雲雀はカウンターの方へ歩いていくのが見えたが蓮華はふらふらと棚の本を見ていた。ふっと立ち寄ったのは英語で書かれた童話絵本の棚。



目を細め、手にしたのは一冊の絵本




‘Hansel and Gretel’




震える手は硬いその本のページを送る。止まるのは少女が暖炉に老婆を突き飛ばすシーンが描かれたページ。

蓮華の瞳からは雫か伝う。

誰もが知るそのシーンは決して涙を流すような場面ではない。だが、次から次へと伝う雫。




「蓮?」




声に慌て本を本棚に戻し、涙を袖で拭う。平然を必死に装うが、雲雀に偽りは無意味だ。腕を引かれ、倒れ込むように抱き寄せられる。しっかり抱き込まれ、身動きがとれなくなる中、彼の右手がそっと蓮華の頭を優しく撫でた。


「理由を聞いたりなんかしないから、1人で泣かないでよ」


どんなにぶっきらぼうに言われたって、それは優しい言葉にしか聞こえない。いくら彼が傍若無人な態度で周りに接して恐れられていても蓮華が過去に接してきた人間たちを思えば比べものにならないほど優しい。



彼の脇から背中に腕を回し、しがみつく体は微かに震えている。身長差はさほどなく雲雀の肩に顔を埋める蓮華だが、やはり体は女性だ。柔らかな感触と力を入れたら壊れてしまいそうな肩。黒絹のような髪からはあの甘い香りがした。



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