嘆きのoltremare -蒼蓮華伝-

柚妃@うさまらーさんと仲良くなりたい
@weisswinde

覚醒する心

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「ねえ」



「ん?」



「なんで無理したの?」



「キョーヤには自分で話したかったから」




信号で停止したバイク。彼はチラッと彼女に視線を向ける。相変わらず、ぎゅっと抱きついたままの彼女は顔を上げようとはしない。背中に感じる彼女の体温は心地よいが、自分に隠し事をしようとしたことは気に入らない。しかし、それ以上に隠し事の為に怪我した体で無理をしたことが気に入らなかった。



不機嫌な彼は病院の中までは付いて来ず、医者の診察を受けている間彼はどこかに行っていない。医者の診断はやはり捻挫。あの状況で受け身が取れなかったことが情けないが、それだけ熱中してしまったのかと自嘲する。

だが、久々に感じた高揚感は今まで感じたソレ等とは比べものにならないほど純粋で心地よかった。だから、怪我に対して後悔はない。



「終わった?」



「うん。」



「何だって?」



「捻挫。安静にしてなさいって」



診察室から出ると扉の横の壁に背をもたれ掛からせていた彼の視線とぶつかる。やっぱり、怒っていると認識するより早く彼に容態を問われ、応えれば抑揚のない声で‘そう’とだけ返答された。


そのまま話す事もなくバイクに乗る。今度は何も言わずとも腰に腕を回してきた蓮華。心無し先程より彼女の体が密着している気がして振り向くと複雑な表情を浮かべた蓮華は雨の上がった空を見ていた。



走り出したバイクは信号で止められることもなく、マンションへと到着する。バイクを駐輪場に止めると彼女の鞄を預かりエレベーターへと入った。


密閉された空間に響く声はない。動き出した箱はただ機械音だけを響かせる。

目的の階に停止するとき箱は揺れ、それを片手で支えはしたが、雲雀はやはり何も言わない。



「……お茶、飲んでく?」



「…うん」



ぎこちない会話。リビングに通され、彼女はキッチンでお湯を沸かす。暫くするとコーヒーの芳しい香りが部屋に広がった。



「おまたせ」



「うん」



会話というには明らかに言葉が乏しすぎる。彼女は相変わらず複雑な表情のまま。どうしたらいいのかわからないのだろう。

ソファの前に置かれた2つカップ。片方は漆黒、もう片方は薄茶色。




「……キョーヤ」



「ん?」



「…………ごめんなさい」



「僕が何に怒ってるかわかっているかい?」



「隠し事、したこと」



「違うよ」


視線を下げたまま謝罪する彼女は雲雀の言葉に頭を上げた。隠し事ではない…では一体、自分はなんで彼を怒らせてしまったのだろうか。群れてたこと、それとも山本とのやり取り……違う。そんなことではない―そんな気がした。




「隠し事は確かに嫌だし、イライラもした。でも、僕が一番気に入らなかったのは君がその足で無理して僕に駆け寄ったこと。」



「!!」



「ホントは痛かったんでしょ?」




瞠目を隠せない。もう、隠しても彼には無駄だと気付いたから。視線を合わせれば、揺れるアッシュの瞳。



反則だ……そんな目するなんて………。



包帯の巻かれた足にやんわりと触れる手つきからは純粋な気持ちが溢れている。並盛最凶と云われる男とは思えないほど優しくまるで壊れものに触れるように撫でられ、一気に目頭が熱くなった。



「……ゴメン」



「謝るなら早く治しなよ」



「うん」



頷けば彼の右手が蓮華の頭に乗せられ優しく撫でられる。こんな様子の彼を見たらみんな驚きを隠せないだろう。



雲雀は決して血も涙もない鬼畜男ではない。むしろ、自分に対してはこんな面を向けてくれる彼はこの上なく優しい男だ。




「君に怪我させた連中は咬み殺したよ」



「……やっぱり?」



「当然でしょ?僕の所有物を傷つけたんだから」




訂正……彼が優しいのは一部の人間だけらしい。彼からその面を見せて貰えるのは嬉しいが、もう少しだけ他の人にも向けてあげましょ。とはいえないが、やっぱりちょっとくすぐったい感覚に口元が緩んだ。




「あ、君にも罰を受けて貰うからね」



「えっ…」



「一度は僕を騙そうとしたんだから」



「ハイ。謹んでお受けいたします………で、私は何すればいい?」



「………明日は教室に行かないでずっと僕の傍にいなよ」



告げられた罰にポカーンと口を開けたまま停止する蓮華へと雲雀の鋭い視線が刺さった。ただ、怒っているのとはまた違う様子の彼は不満そうに顔を近付ける。



「文句でもあるの?」



「ち、違うよ。」



「じゃあ、何?」



「それ、罰なの?」



慌てて否定する顔に嘘はない。問いを問いで返されるなど普段の彼なら赦すはずはないが、何か言いたげに首を傾げる彼女に再び問いで返す形となった。



「どういう意味だい?」



「ん、それが罰なら大歓迎だよ。


だって、私キョーヤと居るの好きだもん」



毒気もなく微笑んだ蓮華を目にした瞬間、目を見開く。頬には異様に熱を感じ、胸を圧迫されたような息苦しさが一時的に呼吸を止めた。感じたことのない感覚に焦る反面、この表情を見ていたいと固執する感覚にも襲われる。





……鬱陶しい感覚だが、消えてほしいとは思わない。ただ言えることは鼻を擽る甘い香りは嫌いではないということ。




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