嘆きのoltremare -蒼蓮華伝-

柚妃@うさまらーさんと仲良くなりたい
@weisswinde

ハンバーグと籠球

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バイクが止められたのは6階建てマンションの前。並盛でも有数の高級マンション…とても中学生が下宿として使えるような手頃な家賃ではない。沢田綱吉の家庭状況は至って普通と聞いている。それは彼の家を見ても間違いはないはずだ。こんなマンションに娘を1人で住まわせるような余裕があるとは思えない。


バイクを駐輪場に止めると彼女の抱える荷物を取り上げた。その行動に瞠目し、視線を雲雀に向けられるがその視線から逃れるようにプイッと顔を逸らす。2人でエレベーターに乗り込むと彼女は数字の6と‘閉’と書かれたボタンを押した。


流れる無音。縦揺れのする箱が停止と共に蓮華の体が微かに揺れ、手すりにしがみつく。



「大丈夫?」



「…あはは。エレベーター苦手なんだよね…ぐらぐらするから」



ケラケラ笑いながらフロアに降りる。扉は2つだけ。ワンフロアに2つしか部屋がないらしい。ただでさえ高いマンションでこれほど良い部屋ならば家賃は相当な額を弾き出しているはずだ。



「散らかってるけど、どーぞ」



招き入れられ部屋に入ると微かに彼女と同じ甘い香りがした。1人暮らしには広すぎる部屋の家具の大半は白で統一され、所々アクセントの様に水色や薄緑色が散りばめられている。どこか穏やかで優しい感じの部屋である。

まだいくつかのダンボールが部屋の隅に置かれていた事は気にならなかったが、ソファに掛かったままのビニールだけは気になって仕方なかった。



軽快な包丁の音はそれまでの自炊経験を示しているようだ。昨日食べたサンドイッチも今日、口にしたスコーンも正直なところとても美味しかった。普段出来合いのものや出前で済ませてしまう食事に対してそれ程興味を示したことはなかったが、今彼女が作るものを早く食べたいと思っている。

少し自嘲しながらもビニールの掛かったままのソファを眺めた。



「ねぇ」



「ん?」



「なんでソファにビニールかかってるの」



「昨日届いてそのままだから。ソファって大きいから外すの大変なのよね~だから、時間がある時にやろうかなぁって」



包丁を置き、リビングに顔を出す蓮華はいつの間にやら黒いエプロンをつけていた。妙に似合っているその姿は自分だけが知っている彼女の姿に思え、やけに気分が良くなる。

‘外してあげようか?’

ただの気紛れな親切心。でも、今までそんなものを人に向けたことはなかった。

‘ホント?’

嬉しそうに視線を向ける蓮華は少し幼く年相応に見える。じゃあ、お願いしようかなと続けた彼女はまたキッチンへと戻っていった。


ビニールの取り去られたソファに我が物顔で横になるとキッチンから良い匂いがしてくる。ハンバーグを焼き始めたのだろう。

スッと立ち上がるとレースのカーテンを開き、ガラス戸を引きベランダに出た。眼下に広がる明かり自分が秩序となった並盛の町。そして、一通り見回し一点で止まった時に彼女から声をかけられる。



「キョーヤ?何見てるの?」



「僕の部屋」



「え?キョーヤの家、見えるの?」



「うん」



「どの辺?」



「そこ」



蓮華の動きは停止する。軽い気持ちで問うと、彼が指さすのは同じ敷地内に隣接する5階建てのマンション。そう…雲雀もまたこのマンションの住人だったのだ。



「な、何階?」



「5階。ちなみにワンフロア僕の部屋だから」



「……なんで言ってくれなかったの?」



「君が教えてくれなかったんでしょ」



うっと言葉を詰まらせる彼女。僕に隠し事したのが悪いんだよと雲雀が口元をつり上げて笑みを浮かべれば、ムッと膨れる蓮華。



「これで君を仕事で残しても平気だね」



「な、なんで」



「僕と同じ方向に帰るからだよ」



彼の目は至って本気で明日から増やされるであろう仕事に想像して溜息が漏れた。

食事ができた事を伝えるとキッチンから皿を運んでくる。こんがりと焼かれたハンバーグには大根おろしと色味としてクレソンが乗せられ、ハンバーグの隣には温野菜が少し乗せられているている。箸休めにはほうれん草のおひたし、味噌汁はわかめと細切りの大根。

この短時間に作ったとは思えないそれ等に体は空腹を訴え出す。

向かい合ってテーブルにつくと手を合わせ箸をとった。まず手をつけたのはハンバーグ。一口大に箸で分け、口に運べば肉汁が口に広がる。

その時、視線を感じ、その視線に自分の視線を絡めた。



「何?」



「どう?」



「不味くないよ」



「素直じゃないね……」



プイッと視線を逸らすとまた箸を進める雲雀を見ながら苦笑する。そんな彼女だが、昨日から疑問に思っていることがあった。なかなか問う機会が無く、問えずにいたそれについて今問うか悩んでいた。



「どうしたの?」



「あ、ねぇ、聞いても良い?」



「何?」



「キョーヤは群れるの嫌いなのよね?」



「そうだよ」



「なら、なんで私と一緒にいるの?」



箸を置き、ジッと見つめる視線は少し居心地が悪かった。それは雲雀自身も答えが見つかっていない問いだったから。

少しの間がやけに長く感じた。



「……君といても僕は群れているとは思っていないから」



「……」



彼なりの答えなのだろうが、彼女はどこか腑に落ちなそうな表情を浮かべていた。彼女は別に雲雀と一緒にいる事を嫌がっている訳ではない。強引だが、本当に触れて欲しくない面には踏み込んでこない。

ただ、元々利用としていたからこそ、共にいることに対し後ろめたさが心に貼り付いている。



「変なこと考えてるでしょ?」



「え…」



「僕はしたいようにする。君はそんなこと気にしなくて良い」



「……もう、自分のことは何とかできるわ。別に私は弱くないから、キョーヤが無理して一緒にいてくれなくても本当に大丈夫よ。もちろん風紀だって止めないし」



「同じ事何度も言わせないでよ」



蓮華の心中など関せず食事を続ける。それは不器用な彼なりの優しさなのだと気付くともう何も言い返せなかった。

ただ胸の奥で小さく何かが疼いた気がした。




食事の洗い物も終わり、一段落つくとすでに時計の針は9時半を指している。雲雀も時間を気にしていなかったらしく時刻に気付いた彼は椅子に掛けていた学ランを自分の肩にかけた。



「僕、そろそろ帰るね」



「あ、うん。送ってくれてありがとね」



「別に…」



「じゃあ、また明日ね」



「……蓮」



スタスタと玄関まで移動する。軽い挨拶を交わすといきなり視線を絡まされた。

何か言いたそうな表情に首を傾げる。



「ん?」



「……………美味しかったよ。」



本当に小さな声だった。口にして恥ずかしくなったのか、さっさと扉を閉めてしまう彼が可愛く思えて仕方ない。

リビングに戻ると部屋を見回す。先程まで彼が腰掛けていたソファはただ物悲しさを感じさせる。



‘1人に馴れていたはずなのに……’



そう呟く声は部屋に流れるクラシックにかき消された。







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