嘆きのoltremare -蒼蓮華伝-

柚妃@うさまらーさんと仲良くなりたい
@weisswinde

毒舌と優しさ

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「………ん…」



ゆっくり目を覚ませば、部屋の暗さに驚く。視線を外に向ければ真っ暗だ。体を起こせば、椅子の背もたれにかけていたはずの学ランの感触が自分の上にあった。部屋には誰の気配もない。飲みかけだったはずの珈琲カップは暗がりの中では見つからなかった。立ち上がり、電気をつけるが置かれていたカップは見当たらない。きっと彼女が片付けてから帰ったのだろう。


誰も居ない部屋。普通であったはずなのに何故かそれを否定してくれる何かを欲していた。机には草壁が置いていったであろう書類と彼女が片付けていったであろう山積みの書類―でも、彼女からの置き手紙はなかった。



何となく胸にもやもやした何かが広がり壁を思い切り叩いた。別に痛みなんてないが、イライラはとれなかった。

その時、いきなり扉が開られる。自ずと無断で部屋に入ってきた輩に向けられた。



「大きな音したけど大丈夫?」



「……帰ったんじゃなかったの」



「ん?カップ洗いに行ってただけだよ。」




まだ少し濡れたカップを片手に入ってきたのは今日風紀に入れた娘。にっこりと微笑んだ彼女の全く似ていない双子の弟はあの沢田綱吉。顔立ちは整っていて確かに美人だが、そんな理由でこの娘を風紀に入れた訳ではない。理由は一つ、この娘の底知れぬ力に惹かれたから。油断していたとはいえ、一度手合わせで敗北したというのに何故か彼女とはもう戦いたいと思わなかった。そして、自分の一番近くに置きたくなった。理由はわからない。ただそう思った。





「なんで帰らなかったの?」



「‘帰って良いよ’って言われてないし…あ、副委員長達は先に帰ってもらったよ」



「君も帰れば良かったでしょ」



「帰って欲しかったの?」



先に帰ることに拘る雲雀に業を煮やした蓮華が問うと彼は顔を背け黙りこんだ。先に帰ったと思って拗ねたのだろか…そうだったら可愛いなぁなどと不謹慎なことを考えていたら、彼からの言葉を聞き逃しかけた。



「…え?」



「だから、こんなに暗くなるまで待ってなくていいのに」



「心配してくれるの?」



「違うよ」



「ありがとう」



「だから、違うって言ってるでしょ」



否定する雲雀を余所に勝手に話を終了させる。彼は嘘をつくのがあまり得意ではないらしいが、同じ件を引き摺ると本当に彼が拗ねてしまいそうなので蓮華は彼の逆鱗が見える前に退散する事にした。



「帰るの?」



「あ、うん。キョーヤも起きたし、じゃあ、また明日ね」



会話は途中で切られ、鞄を抱えた彼女は扉に向かって歩き出す。気付けば彼女の右手を掴み、彼女を制止していた。

不思議そうに雲雀を映す瞳は彼の真意を探ろうとしている。



「ちょっと待ってなよ…僕ももう帰るから。」



「う、うん」



応接室の鍵を閉めると近い階段を並んで降りる。

特に幽霊などの非科学的なものには恐怖心を持ったことはないが、やはり非常灯だけの廊下や階段は不気味だ。1人で歩くのは遠慮したいと思え、呼び止めてくれた雲雀に内心感謝していた。


昇降口まで来ると彼に別れを告げる。彼は何も答えずに自分のげた箱へと歩いていった。


静まり返った運動場の脇を通り抜ける。流石に7時半を回っているために人っ子一人居ない。


今日の夕食どうしようかな…などと考えながら正門を出ると自分の前にバイクが止まる。またナンパかとシカトを決め込もうとしたがかけられた声にそうすることはできず、大人しく顔を上げざるを得なくなった。



「乗りなよ」



「キョーヤっ!?」



「送るから」



「だ、大丈夫だよ。まだ7時半だし」



目の前に立っていたのはバイクに跨った風紀委員長。中学生がバイクに乗ることは風紀が乱れることにはならないのかと問いたい反面、彼女にはそれ以上に考えなきゃならないことが出てしまった

このまま彼に送られると今住んでいるマンションがバレ、学校に偽りの住所を提出していることが知られてしまうのだ。

流石にそれを今この場で知ったら彼の逆鱗に触れる――間違い無く触れてしまう。そう確信した蓮華はなんとか断ろうと試みたが、最凶とまで言われる彼の言い出したことをどうにかできるわけもなく泣く泣く送られる事となった。


しかし、なかなかバイクに乗らない彼女に溜息を漏らしながら見据える。見据える眼光は厳しいわけではないが彼女を捕らえた。



「君が沢田綱吉の家から学校に通っていないことくらい知ってるよ」



「っ!!」



「僕を誰だと思ってるんだい?」



「ふ、風紀委員長…サマデス…」



「わかってるなら早く乗って。」



強引に押し切られ、彼の腰掛ける後ろに座らされる。そして、‘ちゃんと掴まって’と両手を引かれ彼の腰に回された。強引な彼の行動に小言を言いながらもその頬が少し赤く染まっていることを彼は知らない。



「そこのスーパーの前まででいいよ」



「そんなに知られたくないの?」



「そうじゃないけど」



「じゃあ、なんで?」



バイクで走ったのはホントに短い距離。見えた大型スーパーを指差し、彼にそれを告げれば彼は一応停止してくれたが、その表情は明らかに不機嫌を示している。むしろ、拗ねているように見える彼はおそらくこのまま意地でもついてくるだろう。簡単に想像できてしまった彼の行動パターンに溜息を吐くと大人しく事情を口にした。




「買い物をしたいの。今日の夕食もだけど、明日のお弁当もあるから」



「……わかった」



‘…何がだよ’とツッコミたいのは山々だが、彼は既にスーパーの駐輪場の方へとバイクを回している。事情を話しても彼は付いてくるらしい。

最早諦めの境地。そそくさとカゴを持ち、スーパーに入る。青果売場でこの時期少し値が張るほうれん草と玉ねぎ、アスパラをカゴに入れ、視線を上げると明らかにこの場に似合わない少年の視線にぶつかった。先程から歩き回るわけでもなく蓮華の隣に居る彼。



「何作るの?」



「ん~考え中。簡単にカレーとかにしようと思ったんだけど、お弁当のおかずにはならないし、この時期カレーとかシチューとかジャガイモ入れるモノは傷みやすいからなぁ……」



そう。できれば、簡単に手を加えて明日のお弁当のおかずになる物にしたい。かといって、今から帰って揚げ物をする気力などない。



「あ、キャベツ安い……ロールキャベツ……だから、おかずに持ってけない」



自問自答しながら食材を物色する。頭の中は既に主婦だ。いや、主婦を侮ってはいけない。毎日毎日違うおかずを作ることのできる彼女たちは本当に凄い。


「ねぇ」



「ん?なぁに?」



「ハンバーグは?」



「ハンバーグか…今日和風にして明日煮込みハンバーグおかずに持ってけるね。ありがとう、ハンバーグにする」



彼の助言であっさり決まった献立の為に近場にあったカットされた大根とクレソンをカゴに入れ、精肉コーナーへと歩き出す。その足取りは軽く、頭ではハンバーグの付け合わせは何にしようかと思考を巡らせていた。



「僕も食べたい」



「え…」



「僕の分も作りなよ」



そう。この時まで誘導的に献立を決めさせられたことに気づいていなかった。この場で承諾してしまえば、彼を自分のマンションまで招かねばならない。填められたと思ったときにはもう後の祭。




「……うち、来るの?」



「ダメなの?」



「引越たばっかりでまだ片付いてないよ」



「別にいいよ」



遠回りの拒否も聞き入れられない。もう諦めるしかない。溜息混じりに承諾すると食材の入ったカゴを手にレジへと向かった。


会計を済ませ、食材を持参した袋に入れると自動ドアの側にいた彼に声をかける。遠目から見るとやはり似ているが中身は全くと言っていいほど似ていない雲雀と蓮華の想い人。決して重ねている訳ではないが、彼の隣は居心地が良かった。



それからまたバイクに乗り、帰る方向を伝えるとまた彼の不機嫌を呼ぶ。何故なら、今まで向かっていた方向とは真逆であったため、この後に及んで彼女がまだ自分を謀る気満々であったことに気付いてしまったからである。



「そんなに知られたくないの」



「できれば」



「なんで」



「気分です」



あからさまにはぐらかす蓮華。語尾の敬語が如何にも白々しさを醸し出している。バイクは赤信号で停止したために、視線を彼女に向ければ彼女は雲雀の視線から逃げるように顔を左へと逸らした。




「意味分からないよ。……どうせ、弟にも教えてないんでしょ?」



「……」



「深くは聞かないけどさ…学校には沢田綱吉の家在住って出してるんだから、せめて、僕には教えなよ。」




「……わかったわ。キョーヤならいいよ……ツナ達に私のこと話したりしないから」



その時の蓮華の愁いに染まった瞳は雲雀の頭に焼き付いたように離れなくなる。それは彼女が笑顔と美しい容姿で隠している本当の姿を初めて見た瞬間であった。





Continued.



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