嘆きのoltremare -蒼蓮華伝-

柚妃@うさまらーさんと仲良くなりたい
@weisswinde

毒舌と優しさ

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「蓮?」


「ん?どうしたの?」


「オレのせいで悪かったな」


「気にしない、気にしない。別に山本くんが悪いわけでもないんだしね。」



放課後、自分を呼び止める声に振り向くと昼から謝る機会を窺っていたであろう山本がすまなそうに頭を下げた。両手を振り、彼に非がない事を訴える蓮華の手を彼が握る。



「また何かあったら言えよ」



「本当に大丈夫だから」



「いや、オレが嫌だから」



「そう?わかったわ。でも……」




左手で頬を掻きながら視線を向けてくる彼は苦笑しながらも眼差しは真剣だ。

仕方なく、彼の望む言葉を返す。


言いかけた言葉に気付き、首を傾げる彼の目はとても優しかった。



「…山本くんの優しいところ凄く良いことだと思うよ。でもね、あんまり誰にでも優しくしてると本当に好きな子出来たときに戸惑わせちゃうから気をつけてね。」



優しさは時に誤解を招き、誰かを傷付ける。彼は本当に優しいと思うが、このままでは彼に本命が出来てもその子を傷つけてしまうかもしれない。そう思ったから故の忠告。今まで彼にこんな事を言った者などいないのだろう。

彼は静かに頷いた。どこか表情は暗い。



「私は山本くんのそういうところ嫌いじゃないけどね」



微笑めば彼の驚いた表情の後にサンキューという言葉が聞こえてきた。彼の後ろからツナが様子を窺っていたが話が終わった事に気付くと駆け寄ってくる。



「蓮、今日は一緒に帰れる?」



「……たぶん無理」



失笑する彼女が手にしているのは携帯電話。掴んでいたのがストラップだったので、それがバイブレーションによって揺れているのがよくわかった。



「はい。」



『出るの遅い』



「仕方ないでしょ?カバンにしまってたんだから。」



『僕がかけたら3秒以内に出なよ』



「どこまでワガママなのよ。善処はするけど無理があるから」



『………』



「電話越しに拗ねないでよ。で?どうしたの」



『仕事だよ』



「アレで終わりじゃないの?」



『そんなわけないでしょ。早く来なよ』



「了解」



電話を下ろして盛大につかれる溜息。体育の時間に片付けた仕事で終わりだと思っていたからこそその落胆は大きかった。大して勉強道具の入っていない鞄を抱えるとツナ達に別れを告げた。



風紀委員とは忙しいのだなと再認識しながら応接室に向かうと部屋の前で委員達が怯えているのが目に入る。どうやら、委員長は御機嫌斜めらしい。誰が書類を彼に渡すかを擦り付け合っている様子を見ると恐怖の風紀委員も人なのだなと実感できた。

押しつけ合う書類を掴むと颯爽と彼等の間を通り抜ける。扉をノックすると不機嫌オーラ全開の声で相手が誰か問う声が聞こえてきた。震える委員を横目にに彼女が名乗ると突き刺さるようなオーラは薄れ、早く入れるようにと声がかかる。



「疲れた?コーヒーでも煎れようか?」



「………うん」



未だに不機嫌オーラが漂う彼に問えば聞こえるか聞こえないか微妙な声で答えが返ってきた。コーヒーの香りが部屋に広がれば彼の纏っていたオーラは和らぐ。

彼の隣にはソーサに小さなチョコチップスコーンを乗せたコーヒーを彼の机に置く。



「僕、甘いもの好きじゃないんだけど」



「あ、それは知らなかったわ。そんなに甘くは作ってないけど嫌だったら食べなくていいよ。」



「……」



ジッとスコーンを眺める彼は何も言わずにそれを一口頬張る。甘さ控えめで使われているチョコチップもおそらくビター。仄かな甘味は後に引かず、口に甘いもの特有のあの張り付くような甘ったるさはない。

まさにほっと一息つけたというように大人しくなった雲雀を一瞥した後、机に積み上がっている書類の山へと向く。全く、何故こんなに仕事が多いのだろうかと首を傾げたくなるが、これも秩序である彼の仕事なのだ。しかしながら、普段から何かに縛られるのを嫌う彼がこの状況を快く思うわけがなかった。故に先程の御機嫌斜めモードに至ったのだろう。





「キョーヤ?」



書類の仕分けを終わらせ次の仕事を求めて彼に声をかけたが反応がない。ゆっくり視線を向けると肘掛けにもたれて彼は寝息をたてているのが目に入る。余程疲れていたのであろう。彼の学ランを掛けてやっても全く起きる気配はなかった。



空が赤く焼けはじめた頃、静かなこの空間にノックの音が響く。中に入ってきたとても同い年に見えない副委員長はファイルを見ながらであったから中の状況に気づいていない。‘委員長’と呼んでも返答がなかったために顔をあげると人差し指を唇に押し当て‘静かに’を表す蓮華の視線とぶつかった。同時に目に入ったモノに瞠目させられる。


彼女の腰掛ける黒革のソファの反対の端には黒い毛並みの肉食動物もとい委員長がスヤスヤと眠っているではないか。しかも、葉の落ちる音でさえ彼の眠りを妨げるというのに今は全く起きる気配はない。



「委員長がこんな風に眠られるなんて…」



「疲れてたみたいですね…あ、報告書ですか?」



呆気にとられている草壁をよそに苦笑する蓮華。昨日今日知り合った相手にこれほど気を許す人間ではない雲雀があっさりこの娘に気を許しているかは未だに謎だ。雲雀がただ顔がいいという理由で選んだとも思えなかった。



自分の持っていた報告書に視線を向ける娘は首を傾げる。そう…これを委員長に渡すために自分は此処に来たのだ。



「書類は彼が起きたら渡しておきます。副委員長は校内の見回りお願いできますか?見回りで異常なかったらそのまま下校しちゃってください」



「ああ、だが、お前はいいのか?」



「私のことはお構いなく。あ、これ、良かったら残っている委員の方で食べてください」



差し出されたのは甘い香りの漂う布の包み。包みを解けばパックに入った焼き菓子が目に入った。



「コレは…」



「ん~キョーヤに作ってきたんですけど、キョーヤ、甘いもの嫌いだったみたいなんで良かったら貰って下さい。」



「そうか。なら、貰っていくな」




何処か疑念を持ったままの瞳は委員長を心配してだろう。だが、余計なことには干渉せず、雲雀の望むままにことを遂行する。雲雀は良い部下を持っているなと用件を済ませ、早々に部屋から出て行く草壁を眺めながらそう思った。





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