嘆きのoltremare -蒼蓮華伝-

柚妃@うさまらーさんと仲良くなりたい
@weisswinde

毒舌と優しさ

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「蓮ちゃん、今日は一緒にお昼食べられる?」



「うん…一応。」




4時間目の授業が終わり、鞄から弁当を出していると茶髪の少女が自分の前に立っていた。一瞬近づく気配に気を張るが悪意のないその気配に警戒心を解くと視線を上げ微笑んだ。



「蓮ちゃんのお弁当美味しそうだね」



「そうかな?」



「あれ?でも、ツナ君とお弁当違うんだね」



「あ、コレは自分で作ってるからね」



「そうなの?すごーい」



差し出した煮物に箸を延ばす京子と花に向けていた笑みは凍り付いた。いきなり無表情になった彼女に戸惑いの色が灯る。



「ねえ、沢田さん。ちょっと来てよ」



(…いらっしゃったみたいね)



声の主は昨日も耳にした相手のモノ。

声が聞こえてからも彼女は立ち上がりも振り返りもせず、箸を進める。



「聞いてる?話があるからきなよ」



「話なら此処でどーぞ」



「何」



「ダーイスキな山本君の前では言えない?」



昨日の様に連れ出すつもりだったのだろうが、二度も同じことを言うつもりはない。暫くは大人しくしているつもりだったが、腹の立つ相手に情けを掛けてやるほど優しくない。



「なっ、なっ」



瞠目した少女達を嘲笑する瞳はひどく加虐的。

この2日間の鬱憤晴らしに丁度いい輩を見つけた彼女のソレは美しくそれ故に怖い。



「風紀委員になったからって調子に乗るんじゃないわよっ」



「風紀委員もキョーヤも関係ない。私は二度同じことは言わない。面倒は嫌いなのよ。

んふふ、好きな男にアナタの醜い嫉妬心を見せるのはそんなにお嫌かしら?」



綺麗な花には棘があるとはよく言ったものだ。しかし、この場にいる生徒達には棘を持つスパイシーガール程度に映っていただろうが、彼女が‘棘’などという可愛げのあるものではない事をまだ皆知る由もない。




彼女の棘は毒針、彼女が纏う香りは甘い麻薬―彼女はまさに毒の姫ヴェレノッソ・フィオレ




「ちょっと顔が綺麗だからって、この性悪女っ」



「性悪で結構。アナタ達より何倍も根性ひねくれてるわ。自分の事はよーく解ってるもの。私さ、弟と似てないけど何より似てないのが性格でね……ツナみたいに優しくないから気をつけた方がいいわよ。」




ぐうの音も出ない少女達を一瞥する。圧倒される男子達にはいい薬になるだろう。これで雲雀に頼らなくても済む。罪悪感に頭を抱えることもない。




「Sparisei,non it voglio piu vedere.」



「何言ってるのよ」




口にした異国の言葉は英語とは違う発音が混ざっている。違う言葉なのだろう。

ただ言えることは、彼女の視線から口にした言葉の持つ意味が決して良いものではないということだけ。



「てめぇ、随分汚い言葉つかうんだな」



「あら、何のことかしら?」



「‘うせろ、てめぇ等の顔なんて見たくねぇんだよ’か」



「直訳するとそうなるのかしら」




割入ったのは犬猿の仲とも云える獄寺隼人。彼が訳せたことから蓮華が口にした言葉がイタリア語であることがわかった。細められた瞳は彼を映す。先程までの表情と明らかに違う彼女に瞠目するが言葉を続けた。



「てめぇ、本当に性の根腐ってんな」



「根性ねじ曲がってるわよ」



悪びれもなく微笑む彼女の視線は再び哀れな草食動物達に向く。視線がぶつかると怯えた瞳は動揺に揺れ出す。



「安心しなよ。昨日言ったことは嘘じゃない。今までもこれからも変わらない。

それより、早くと帰った方がいいわ…秩序が見回りに来る前に。」



‘秩序’という言葉で伏せたが、何を指すかは追加で口にする必要はないだろう。この学校の生徒の大半が恐れるその存在なのだから。



「あ、もう一つ言っておくわ。

一度目は忠告。

二度目は警告。

三度目は…………」



彼女の紡ぐ言葉は途中で途切れる。恐る恐る、視線を彼女に向けると鋭い刃物のような視線が自分達に狙いを定めたことを悟った。



―次、群れてたら咬み殺しちゃうよ―



捕食者の目の少女が口にしたのはこの学校最強にして最凶の男の口癖。向けられる瞳に俄かにも冗談の色は感じられない。

一目散に教室から逃げていく彼女を見て蓮華は笑った。



「―なんてね★」



―そう、最後の言葉は‘噛まし’だったのだ。しかし、強ち冗談だったとも言い切れない言葉。



「まあ、風紀の私が言うと洒落にも聞こえないわね」



ごもっともである。教室の空気が漸く和みだしたとき、開け放たれた教室の扉に黒い影が映る。



「沢田さん、お怪我は」



「ないわ。」



「なら、委員長に」



「報告はしなくてもいい」



「しかし…」



入ってきたのは風紀を掲げる委員の者。彼女の身を案じたその様子からは彼女の身辺警護に当たらされてることが窺えた。



「こんなコーヒーブレイク程度のこと報告するだけ無駄よ」



「そんな些細なことではありません」



「今、キョーヤは只でさえ忙しくて気が立ってるんだから、もうちょっと労ってあげなさいよ」



言葉を続けながら、もう一つの扉を見つめる。‘副委員長もですからね’と続けながら開いた扉の先には彼女より遙かに高い身長の男が立っていた。



「気付いていたのか」



「はい。だって、擦り硝子に影映ってましたから」



「なるほど。委員長がお前に見張りをつけても護衛をつけなかった訳はこういう事だったのか」




どこか驚きを隠せない彼の言葉に微笑する彼女の表情は先程とはまるで別人だ。柔らかな笑みは先程を否定しながら先の言葉を紡がせない。



「キョーヤは草食動物を身近に置くような人間じゃない。

報告はいいから、もう下がってください。あなた方が此処にいると彼が此処に来るわ」



「わかった。期待してるぞ、新人(ルーキー)」




黒服たちは去っていく。その様子を一瞥すると彼女は席に戻り頭を垂れた。そんな彼女の様子を見て驚いたのは一緒に食事をとっていた2人だ。先程まで肉食動物のような鋭い瞳で敵意を向けた女子たちや風紀委員と対峙していたのに今は全くの別人のようだった。



「せっかくの食事を台無しにしてごめんね」



「いいよーだって、蓮が悪いわけじゃないじゃん」



「そうだよ。蓮ちゃん、全然悪くないんだから気にしないで」



「……ありがとう」



彼女の謝罪を快く受け入れ、先程口にした煮物の賛賞を始めた2人に笑みを零す。毒気などないその笑みを見た男子が次々に虜になっていった。





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