嘆きのoltremare -蒼蓮華伝-

柚妃@うさまらーさんと仲良くなりたい
@weisswinde

日常

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呟かれる溜め息混じりの言葉を紡ぐ彼女の視線は後方の扉に向いていた。鞄から一枚の紙が挟まれた透明なファイルを取り出すと立ち上がり、後方の扉を開く。

そこに立っていたのは予想通り漆黒の男。



「はい」



「……うん。不備はないね」



差し出されたファイルの中の誓約書を眺める雲雀と彼女の背後でガヤガヤとする生徒たちに溜息が漏れる。関われば厄介からは逃れられるが別の騒動に巻き込まれるとわかってはいたが再認識するとなかなか自分が可哀想に思えてくるのだ。



「…髪、染めたんだね」



「セーラーに金髪は似合わないからね」



「うん。こっちの方がいいね。でも、髪は結って。」




流れる髪を一房軽く掴むと蓮華の瞳に視線をぶつけてくる。その視線は、彼が普段周りの者に向けているのとは違うが、やはり彼の視線は強い。おそらく、彼女以外にこんな視線を向けることはないだろうが、仮に他の者が向けられたとしたら間違い無くこの場から逃げ出すだろう。




「ねぇ…蓮、左腕こっちに向けて」




初めて呼ばれた愛称に気を取られていると左腕を引かれる。彼が手ずからつけたのは赤地に金の刺繍の施された腕章。それは、この学校の絶対権力者の所有物となった証であった。




「渡してくれれば自分でつけるのに」



「人の好意には甘えなよ」



浮かべる微笑も放つ言葉も珍しい。わざわざ此処で腕章を渡したのはおそらく、彼女が自分のモノであると見せつけるため。どうやら、既にクラスの男子からのアプローチの件も知られているらしい。



「…Grazie」



「次体育でしょ?この授業終わったらすぐ来なよ」



「……わかったわ。」



返答後にクラスを一瞥する彼の眼孔は鋭く、独占欲に満ちたその目にクラス中が震え上がった。



「キョーヤ」



声をかければ視線を彼女に戻し、彼女の頬に触れると踵を返して歩き去っていく。全く気紛れな猫科動物という表現が相応しい男だ。

クラス中の視線を集めながら席に座れば、隣から心配そうに揺れる瞳を向けられた。視線はやはり左腕の腕章。



「大丈夫なの?」



「何が?」



「ヒバリさんに脅されてるんじゃないの?」



「ん~まあ、脅されて無いって言ったら嘘になるけど、それに左右されて承諾したわけじゃないから。」



「じゃあ、なんで?」




首を傾げるのも当然だ。この学校内で好き好んで彼に関わろうとする者など居ないだろう。



「お互いの利害の一致よ」



「ヒバリさんと関わるなんて危ないよ!!だって、風紀委員って言っても不良集団なんだよ?」



「私事務担当だし、そこまで危なくないわよ。

それより、無駄に言い寄ってくる連中や嫉妬に狂った女子を寄せ付けないキョーヤの目は私にとってとーても魅力的なのよね」



ケラケラと悪ぶれもなく口にした理由に彼は瞠目した。そして何となく、昨日からちょくちょく失踪した理由を悟った彼はそのまま言葉を無くす。

山本も獄寺も女子には人気が高いのは今更だが、彼等との関わりを作ったのは間違い無く自分である―表情は曇り、申し訳なさそうに揺れる瞳に蓮華はにっこりと笑いかけた。



「大丈夫よ。ツー君のせいじゃない。」



「でも…」



「私もキョーヤのこと気に入ってるのよ」



「え?」



「実はね、彼初恋の相手にそっくりなの」




持っていたシャープペンが彼の手から落ち、拍子に机からも落ちる。明らかに動きを失ってしまった弟に失笑しながら落ちたシャープペンを拾い上げた時にチャイムが鳴った。

一斉に体育の準備を開始する生徒たちを背に彼女は教室を出た。プールの道具を抱えたツナ達が追って教室を出たが、彼女の姿は既に廊下には見られない。漸く追い付いた時には彼女が応接室へと入っていったところであった。



―コンコン―



「誰?」


「私」


「入りなよ」


扉を開けば目に入る書類の山。嫌がらせと言わんばかりに積み上がるそれ等に目を通す雲雀はゆっくり視線をこちらに向ける。鋭いが敵意のない彼の視線は本当に魅力的だと目を細め微笑む蓮華は思った。



「風紀委員って大変なのね」



彼の向かいに腰掛けると書類に手を伸ばす。普通の学校ならば生徒会がやるようなものも山積みの書類の中に含まれていた。彼が目を通す前の書類を分別し終えると、目を通した物の整理を始める。彼女の手際の良さを見ながら、良い人材を得たことに素直に喜びを感じていた。



「どうして、あんなことしたの?」



「あんなこと?」



「わざわざクラスまで来て…」



「でも、効果はあったでしょ?」




蓮華の瞠目した瞳は揺れる。その瞳を見透かすアッシュの瞳は宝玉のように澄んでいた。



「僕をそういう意味で利用するつもりだったんでしょ?」



「……」



「別にいいよ。」




黙り込む蓮華に視線を向けたまま、そう言い放つとまた不敵な笑みを浮かべる。年齢不詳とはいえ彼の持つ色気はとても中坊とは思えないほど。蓮華も年相応には見られないが、彼もまたそうであろう。



「怒らないの?」



「別に風紀を乱さないなら問題ないよ」



「えっと…私、結構酷いことしようとしたんだけど……」



「気にしてないよ。」



あっさり答えた雲雀は興味を無くしたように再び書類へと視線を向ける。蓮華は内心驚きながらも与えられた仕事を再開した。


長いようで短かった沈黙を破ったのは彼の方。



「ねぇ」



「?」



「なんでプールやらないの?苦手なわけじゃないんでしょ?」



「……体が弱…」



「体が弱いなんて嘘はいらないからね」




言葉は遮られ、口にしようとした言葉を否定される。確かに彼には自分が強い事を悟られている以上その言い訳は厳しいと再認識した。



「乙女の事情」



「それも嘘だね」



「根拠は?」



「そんなのないよ。ただの勘」




再び言い訳は嘘と見破られる。嘘をつくのが下手ではないと自負できた蓮華は少し戸惑いの色を見せた。またぶつけられた物言わぬ視線はただ‘嘘’を赦さないと命令してるようだった。



「……嫌なの…人に体を見られたくないの…」



「…男の視線?」



「…それも多々あるけど、見られたくないキズがあるの」



視線を彼から外し、俯く。その様子は先程と比べ物にならないくらい嘘っぽい。しかし、嘘と勘違いして欲しいのに彼はそれを否定しなかった。‘そう’と一言口にすると書類に判を押す。


彼女の片割れにすら気付かれない‘嘘’を彼は易々と見破ったのだ。驚きながらも、将来が楽しみな彼に心が何故か震えた気がした。




本日の水泳後の哀れな授業は移動教室。独特の匂いが充満するそこは人体模型や人骨模型が置かれる部屋。彼女の姿はまだ見られない。授業が始まってどの位経ってだろうか後ろの扉が開く音がした。座る席に困っているらしく動かない少女に視線を送り、隣へ来るよう促せばそれに応じ隣の椅子に腰掛ける。



「だ、大丈夫だった?」



「ん?何が?」



「ヒバリさんに何かされたりしなかった」



「何か?書類の整理とかしてたけど…」




相変わらず心配そうな目で自分を見つめてくる優しい瞳に笑みを返せば少し驚きながらもノートに視線を戻すと実験図をノートに描き写した。その後も前に座っていた山本やツナの視線を受け続ける。中でも一番彼女を苛立たせた視線は銀髪の少年のソレ。明らかに自分を威嚇する視線に触発されそうな意識を縛り付けシャープペンを動かした。




漸く居心地の悪い授業が終わり移動教室から教室に移動するが、他クラスからの視線が刺さる。

‘あれがヒバリの?’

‘面食いじゃん’

‘ヒバリも人の子ってことだな’

‘折角美女が転校してきたのにヒバリの唾付きかよ’



「…唾付きって……別に何もしてねぇっつうの」



「え?」



「何でもないよ~」




何度も聞いた陰口だが流石に言われると腹が立つし、巻き込んだ雲雀に悪くて仕方がない。いっそ、この場でこの輩を片付けられたら楽なのだろうが、獄寺の視線は相変わらずキツく、しかも、こんな所で暴れたら雲雀に怒られるだろう。

これ以上面倒はごめんだと漏れる溜息。

その時、いきなり体を隣にいた誰かに引き寄せられた。ツナかと思いきや、視線を向けるが明らかに身長が自分より高い――嫌な予感がした。



「気にすんなって」



「!?」



双眸に映ったのは清々しいほど爽やかな笑顔の山本武。対照的に蓮華の顔は青ざめていく。

彼は蓮華の肩引き寄せ、肩を組んでいるのだが、彼女の方が身長が低いために彼の顔はかなり蓮華の顔に接近している。



「や、山本っ」



「山本くん、私、大丈夫だからっ」




明らかに焦ったのは、男性から受けるスキンシップ故ではない。相手があの山本武であったからである。慌てて離れようと試みる彼女に‘そっか’と軽く返答すると山本は彼女を解放する。しかし、すでに遅かった。いくつもの憎悪が自分に向けられている。



「………なんかさ…もう泣きたいよ」



「蓮…」



「あはは…昼休みまたお迎えが来るよ」



「山本には後で言っとくよ。でも、山本も悪気があったわけじゃないから」




相変わらずじゃれ合う獄寺と山本から離れた似ずの双子の片割れは嘆く。それに慰めの言葉をかけたのはその弟。分かっていても嘆かわしいことだ。

天然で全く気づいていない様子の彼にはきっとツナが言っても仕方ないだろう…これから来る災難に溜息が止まらない蓮華であった。








Continued.


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