嘆きのoltremare -蒼蓮華伝-

柚妃@うさまらーさんと仲良くなりたい
@weisswinde

日常

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―コンコン―


ノック音が静かな部屋に響く。普段なら今の時間に訪ねてくる者は居ない。つまり、扉の向こうにいるのはあの娘と云うことである。



「入りなよ」



涼やかで抑揚のない声。他の者が聞いたら震え上がるだろうが、彼女にそんな様子はない。

部屋に入れば黒と白で統一され、黒いソファの背もたれに腰掛けている黒髪の少年が目に入る。見れば見るほどよく似ている。



「準備とやらは済んだのかしら」



「うん。まあ、座りなよ」



勧められたソファに腰掛けると彼はその向かい側に腰掛ける。黙って座っていれば本当にモテるんだろうななどと考えていると紙袋と2枚の紙が机に置かれた。



「これ、何?」



「君の制服」



「え?」



紙袋を覗いて目を見開く。そこに入っていたのは女子生徒達が着ていた服とは全く違う物。

視線を今度は紙の方へと向ける。1枚目は何かの規約、2枚目は誓約書のようなもの。何となく彼が自分に要求するものがわかった。



「……要望は‘私’ってことね」



「うん。応じてくれればそれなりの報酬は約束するよ。」



「何で私を?」



「僕が気に入ったから」



不敵な笑みに蓮華の盛大な溜息が漏れる。おそらく、と云うか絶対に断らせてはくれないだろうが、試しに問いてみた。



「ちなみに拒否権は?」



「拒否するの?じゃあ、君の弟に…」



「拒否するつもりはないけど、1日考えさせて」



「…ヤダ」



「じゃあ、明日の昼間まで。良い返答ができるように善処するわ」




‘ヤダ’って何処の駄々っ子だよ。というツッコミはさておき、やっぱり拒否権も無いらしい。だけど何だか嫌な感じがしない。




(ツー君…私は猫に懐かれ……猫科の動物に懐かれたみたいです)










ツナは階段を下りながら玄関を見つめた。先に帰ったはずの彼女は家にすら戻っていないらしい。用事があると口にしていたが既に7時を過ぎている―あまりにも遅い。それに母さんは蓮華が日本に戻ってきていることすら知らなかったのだ。


その日、彼女は戻ってこなかった。





珍しいくらい早く起きたツナはいつもより早く学校へと向かう。学校に着けば既に何人かの生徒が登校していたが、彼女の姿を見つけることはできなかった。


ツナが何故こんなにも彼女を探しているかと云うと、これまで彼女はいきなり自分の前に現れ、まるで風が吹き抜けていくように自然に消えてしまうからだ。

いつもふっと現れてふっと消えてしまう―別れの言葉一つ告げずに……。




もうすぐ朝礼の時間だ。もう山本や獄寺も登校してきたが、彼女の姿はまだ見えない。



「ツナ、おはよー」



「おはようございます、10代目」



「お、おはよ。」




そわそわとしているツナに首を傾げる2人だったが隣に居るはずの娘が確認できなかったために理由を悟る。

蓮華もかなりのブラコンだが、実のところツナも負けないほどのシスコンらしい。



廊下がざわめき出す。

何事かと視線を向ければいきなり扉が開き見慣れない外見の娘が入ってきた。白地に赤いスカーフ、紺のミニスカートからは膝丈より10センチ位短い黒のショートレギンスと長い脚が覗く。下ろされたままの黒髪は風に靡き、芳しい香りを振りまきながらはツナ達の方へと歩み寄る。





「ツー君おはよ」


「蓮っ!?」


「ん?」


「どうしたの、その格好」



そう。教室に入ってきたのは他でもない蓮華だ。しかし、その姿の変貌ぶりには流石のツナも声を上げた。昨日まで生糸のような髪を靡かせていたのに、いきなり髪が黒くなっている上にシスター服がセーラー服に変わっている。こんな姿雲雀恭弥にでもバレたら間違い無くトンファーが向けられてしまう。



「ジャッポーネだと金髪は目立つみたいだから染めたのよ。」



「いや、そーじゃなくて」



「蓮、おはよ。」



「あ、山本くん、おはよ」




紡ぎかけた言葉は斜め後ろにいた山本に遮られてしまった。彼女は昨日と変わらぬ柔らかい笑みを彼へと送る。

またクラスの女子の面倒な視線が向くが最早面倒に巻き込まれてやるつもりもない。


誰にでも優しいのはいいが、周りをもう少し見られればいいのになどと考えながら彼との会話を続けえいるとツナの視線に気づいた。




「ツー君どうしたの?」



「どうしたじゃないよ。昨日は何処にいたの?」



「昨日?用事すませて、家帰って買い物行ったりしてたよ。ほら、家具とか服とか色々って…それがどうかしたの?」



「家具って、別に家にくればいいだろ」



「だって、私あの家に部屋無いし、奈々さんにわざわざ片付けてもらうのも何だから部屋買…借りたのよ」



まさか弟がそんなことを聞いてくるなどと思っていなかったために目を丸くする。

優しい彼のことだ、この様子だと昨日はずっと自分のことを気にしていたのだろう。しかし、優しさ故の愚かさも持ち合わせている彼には自分が何故別の部屋を用意したかを気付かれることは無いだろう。



「そういえば、用事ってなんだったの?」



「……ちょっと、気性の荒い猫科動物に懐かれちゃってね」



「猫科動物?」



首を傾げる弟は彼の言葉を借りるなら間違い無く‘草食動物’だ。これ以上、口にして朝から弟を使い物にならなくするわけにもいかず、とりあえず、正式に契約を交わす昼休み後辺りに話そう―まあ、予定通りうまくいかないことなんてよくあることだ。





1限の英語の授業。朝から英単語を眺めていたら眠さ故にアルファベットの羅列にしか見えてこない。


「沢田蓮華。」



「はい」



「眠そうだな、3番を自分なりに答えてみろ」



「I can speak English and Japanese,Italian,Chinese.」




彼女の回答に瞠目する教師。どうやら彼は彼女が帰国子女であることを聞かされていなかったのだろう。その時、放送機器が接続する音が聞こえ、彼女の目は鋭く細められる。




『2-A 沢田蓮華、すぐ応接室に来なよ』




「…………」



クラス中の視線は蓮華へと集中する。漏れる溜息は予想通りの行動を取る黒毛の彼に向けられたものだ。視線をツナに向ければ、自分が呼び出されたわけではないのに慌てふためいている。




「蓮、やっぱりその格好じゃ風紀委員が見逃してくれるわけないよ」



「はあ…」




本日何度目かの溜息を漏らすと鞄から携帯を取り出す。早く応接室に向かえと促すために近付いてきた教師の前で堂々と通話を開始する形となった。




「――ちょっと、キョーヤ!!どういうつもりなのよ!!呼び出すなら携帯にしてってアレだけ言ったじゃない?何のために番号とアド教えたと思ってるのよ」



『僕はしたいようにするよ』



「なら、断るわよ」



『弟はいいの?』



「アナタまたソファで熟睡したいならどーぞ。」



『……………』


「…で?何の用?約束は昼休みだったはずよ」



『受けるんでしょ?なら、早く来なよ』



「せっかちな男ね」



『………』



「わかったわよ。この後の休み時間にそっち行くわ」



『……早く来なよ』



「了解~じゃあ、また後でね」




携帯を下ろして辺りを見回せば、皆の視線の大半が自分に向けられている。まあ、授業中に電話をかけて、しかも、その相手が彼だったのだから……。



「蓮…今の電話の相手って」



「ヒバリキョーヤ」



「な、なんで携帯知ってるんだよ」



「さっき言ったじゃない。気性の荒い猫科動物に懐かれちゃったって」




席に座れば隣から硬い表情のツナから質問を受ける。当然だ。昨日の今日でいきなりタメ口を使い、苦情の電話をかけたのだから仕方がないことだろう。

ぎこちなく再開された授業。教師の対応が明らかに変化したのを彼女は感じていた。‘彼’の存在はそれほどの影響力を持つと言うことだ。ピリピリとした空気の中、授業は展開していく。






「……本当にせっかちな男……」




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