嘆きのoltremare -蒼蓮華伝-

柚妃@うさまらーさんと仲良くなりたい
@weisswinde

再会

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正午を告げる鐘の音と午前の授業を終える鐘が重なる。一気に空腹感を感じるのは心理的なものも関係しているだろう。今日の昼食を食べる場所について話しているとき、ふと視線を向けた席には既に誰もいない。



「あれ?蓮は?」


「そういえばいないな」



いつもこんなに側に居ることが無いからだろうか、また彼の持つ‘血’故だろうか、物悲しさと一抹の不安感が胸に広がった。





その頃、彼女はというと…………



「あなた、山本くんとどういう関係なのよ」


「友達、弟の」



面倒事に巻き込まれていた。

何処の国にいても女の嫉妬とは醜いものだ。先程の一件で彼と言葉を交わすようになったことが余程気に入らなかったのだろう。授業が終わるなり、いきなり呼び出されてコレだ。


全く興味のない彼女にとっては傍迷惑な話である。




「弟使って気を惹こうなんて」



「私、心に決めた人がいるから全く興味ないわ。山本くんが話しかけてきてくれるのは彼が優しいからで、それは私だけに対してじゃないでしょ?

本当に興味ないからわざわざこんなこと言わせないでよ。」



言うだけ言うと少女達を残し、その場を立ち去る。後ろからどれほど醜い言葉が向けられようと興味を示すことはなかった。



「あ、あの…沢田さん」




厄介事を片づけ、教室に戻ろうと廊下を歩いていると聞き慣れない声に呼び止められる。きっと同じクラスの生徒だろう彼にいきなり交際を申し込まれた。




「……好きな人いるんで」




嘘はないが、自分がその相手から女性として扱いを受ける日はおそらく一生来ないだろう。わかっていながら自嘲するのも哀れだが、相手にされないのは今始まったことではないのだから今更悩んだところで時間の無駄である。

漸く教室に戻ると机にはメモ用紙などに書かれたアドレスや呼び出しの手紙が散乱していた。

もう溜息しか出てこない。

無駄なことを考えるのもアホらしくなり、散乱している紙を纏めていると斜め後ろから今度は女の子の声で声をかけられる。振り向くとツナの想い人の少女と大人っぽい黒髪の女の子が立っていた。



「良かったら一緒にご飯食べない?」



「誘ってくれてありがとう。でも、お弁当持ってきてなくて……今からコンビニ行って適当に済ませちゃう予定なんだ。ごめんね」



「そっかー。じゃあ、しょうがないね。今度ツナくんの昔の話とか聞かせてね」



「ツナの話?良いけど、私もあんまり知らないよ。」



京子の発言に黒髪の少女―花はどこかイヤそうな顔をしているが、蓮華の切り返した言葉に首を傾げた。

双子であるはずなのだから、‘知らない’というのは変な話だ。



「なんで知らないのよ?姉弟でしょ?」


「私、海外暮らしが長くて。ツナと会うのも久しぶりだし。前回も1年半くらい前に2、3日戻っただけだからね」



驚きを隠せない2人だがソレを聞き納得の様子を見せる。だが、やはり変わった姉弟である。姉弟でありながら容姿に似たところはないし、勉強面でも然りだ。


次に浮かんだ問いを口にしようとしたときには彼女は既に扉から出ていくところであった。

だが、彼女が向かったのは玄関ではなく階上。屋上に上がればなま暖かい風が吹き抜ける。空を見上げると日差しは夏特有の雲の中。


出入り口の上のスペースに上がると鞄から包みを出した。

ソレを開けば形の整ったサンドイッチが姿を現す―そう、昼食はちゃんと用意していたのだ。

ラップで包まれたサンドイッチを1つ手にすると包みを開きそれを口にする。特に気合いを入れた作ったわけではないが、なかなかの味に少し口元が緩んだ。



その時、誰かが階段を上がってきた。気配は3つ…声から推測するにツナ達だろう。しかし、彼女は声をかけるわけでもなくその場に体を倒した。彼等が腰掛けた場所からは彼女の姿は確認することはできない。



「蓮何処に行っちゃったんだろう…1日目だし、迷ったりしてないかな」


「大丈夫だと思うけど、今頃男子達に追いかけ回されてるかもな」


「えっどうして?」



話題が自分の話になっても彼女は体を動かすことはなかった。食べかけのサンドイッチをラップに包み直すと静かに目を閉じる。まるで聞こえてくる耳障りな‘10代目’という言葉を否定するように。






「ねぇ、君」


「ん…」



いつの間にやら眠りに落ちていた蓮華に上から声をかけられる。眠い目を擦りながら視線を向けると黒髪が目に入った。



「……ふぉん…………じゃない。……おっきいもん…………………げっ」



頭が覚醒すると目の前の男を認識し、顔を歪める。何故この男が今、自分の前に居るのだろうか。俄に浮かぶ冷や汗は先程自分が彼にしたことを考えれば当然のことだ。



「‘げっ’て反応はヒドいね。せっかく起こしてあげたのに」



「起こしてくださってありがとうございます……ですが、今朝のこと考えたら当然の反応では?」



自分を映す瞳から闘気は感じられない。トンファーも持っていないが、この男はまたいつ闘牙を向けるかしれない故に警戒を解こうとは思わなかった。



「ねえ、もう授業はじまってるけど」



「…やばっ…次の時間は」



抑揚のない声は時間の経過を告げる。慌てて腕時計を確認するが既に授業がはじまって10分は経っていた。

グランドの端から水音と騒ぎ声が聞こえ、午後からの授業が頭に呼び起こされる。


「どうせ参加するつもりなかったし、いいや」


「行かないのかい?」


一度は起きあがった体を再びコンクリートに崩す。


「水着ないし、むしろ、プールの授業出る気ないから」



見上げれば、見慣れているようで今日はじめて会った男の顔がそこにある。口を開けず、大人しくしていればあの山本武に負けないくらいモテるだろうこの男はこの学校で最も怖がられる存在。誰もが彼とは関わることを拒み、その姿を見たら一目散に逃げるが彼女はそんな素振りすら見せない。むしろ、彼の前で授業をエスケープし、昼寝を続行しようとさえしてる。



「君は逃げないのかい?」



「逃げたら絶対追うタイプでしょ?」



「ふ~ん」



マジマジと見つめられ居心地が悪そうに少し顔をしかめる。他の人間にはこんな事をする度胸はないだろう。

彼女がこれほど堂々と雲雀と対峙できるのは自分の強さに自信を持っているから。



「君の弟なら一目散に逃げそうなのに。」



「調べたんだ」



沢田綱吉のことを口にしても全く動じない彼女はおそらく既に雲雀が自分について調べていることを予測していたのだろう。



「君に興味があったからね」



「……興味?」



訝しげに歪む顔で体を起こす少女。初見の時とはそれ程思わなかったが、妙に神秘的な雰囲気を持つ彼女は13には見えず大人っぽい。気だるそうに細める瞳は雲雀自身もドキッとするくらいに色気を含んでいた。



「妙に強いし、嘘までついて群れるのを拒むし、近くで弟が君の話をしていても声すらかけない……君って変わってるね」



「………見てたの?」



「見張らせてただけ」



「私に攻撃する機会でも窺ってたのかしら?」




明らかに不審そうに雲雀を映す瞳は先程までの厄難―女子からの呼び出しも告白もアプローチも知られていることだろう。漏れる溜息は面倒な男に目を付けられた自分に向けた哀れみからだ。



「はじめはそのつもりだったけど、君は草食動物じゃないみたいだ」



「ただ、人とわいわい騒ぐのが苦手なだけよ」



「どっちにしろ、僕にとっては好都合だよ




ねえ、君僕と取引しない?

応じれば君の望みは叶えてあげるよ」




彼の浮かべた不敵な笑みは蓮華の心労をさらに増やす。明らかに何かを企む雲雀の申し出だが、聞かずに突っぱねるのは些か惜しく思えとりあえず質問を口にする。



「叶えてくれるって、例えば?」



「君、何でか知らないけどプールの授業受けたくないんでしょ?受けなくてもよくしてあげるよ。」



「……他は?」



「君の望み次第だよ」




向ける瞳には興味が現れ出す。目の前の男はこの学校の全権利を持つ風紀委員長。本気で望めば、テストすら免除されるだろう。だからこそ、この男が自分に提示する事柄を聞くことが恐ろしくて仕方がない。だが、ここまで聞いてしまった以上提示要項を聞かねばならないだろう。


「………じゃあ、アナタは私に何を望むの?」


「それには準備が必要だから放課後に僕のところに来てよ」




準備って何よと言わんばかりの顔の少女。

ふっと雲雀の視線が移る。視線の先にあったのは彼女の昼食になるはずだったものたち。一つ一つ綺麗に包まれたそれは一つを除いて手付かずだった。

食べる機会を無くしてしまったそれらを鞄にしまおうとしていると雲雀に止められる。



「食べなよ。授業出ないんでしょ?」



そういう彼の視線はやっぱり弁当のままで。首を傾げる蓮華だったが、試しに問いてみた。



「1つ食べる?」



口にしてから彼が群れることを嫌っていることを思い出し慌てて訂正しようと彼に視線を向けるが、先程までそこにいたはずの彼は自分の隣へと移動している。

どうやら自分の申し出を受けたらしい。


包みを1つ彼に差し出すと特に何も言わずそれをとり、口へと運んだ。

一口食べて瞠目している彼に‘どうしたの’と問えばぶっきらぼうに‘何でもない’と返された。



(……ちょっと可愛いかも)



これが所謂‘ツンデレ’かと頭で思っているといつの間にか顔に出ていたらしく不機嫌そうな彼の視線が刺さった。



「気に入ってもらえてよかった。朝慌てて作ったから」



「………君が作ったの」



「うん」



「ふーん」




この後、残りのサンドイッチも彼に取られたことは言うまでもないだろう。






Continued.


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