深淵の海 -Una lagrima helada-

噛み合わない歯車

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無惨に大破したギルドの前に立つ。

その後ろには各々戦い、ボロボロになったギルドメンバー達。

小さな背中に声をかけるのは先刻助け出された娘。この惨状を前にどんな言葉を口にすればよいかわからず、その肩は小さく震えていた。この場の皆の大切なものを奪ってしまった。そして、傷つけてしまったのだから。



背景はどうあれ、きっかけは間違いなく‘自分’。しかし、そんな彼女に掛けられたのは彼女を気遣う温かい言葉…涙がこぼれ思わず泣き崩れてしまった。



真新しい白いコートがはためく。

髪を覆うフードの中でオルカは静かに微笑んだ。

その隣で崩れた建物の壁に背を預ける男。表情は伺えないが恐らくオルカと同じような表情をしているだろう。




「しっかし、ひでーよな。」


「何がだよ」


「あの2人だよ。結局、連絡が取れなかったミストガンとギルダーツはともかく、あの2人には連絡とれたんだろ?それなのに助けにも来ねぇし」



聞こえてきたのはラクサスとオルカを非難する声。通信魔水晶の前であれだけの悪態をついていたのだからわからなくもないが、彼だって考えるところは色々あるのだ。一方的に非難されるのはやはり面白くない。




「大体、アイツ等ギルドを見下しすぎだ。普通助けに来るだろ。ギルドがどうなってもいいのかってんだ。」



オルカは思わず目を見開いた。回りの空気は張り詰め、辺りの温度が急落する。冬でもないのに息を吐けば息は白く寒さを自覚させる。

ギルドでも有力と呼ばれるメンバーは警戒し、回りを見回す。




「止さんか。あやつ等の咎めは無しじゃ。」


「しかし、マスター」



悪態を吐いていたメンバーを叱責したのは崩れたギルドを見つめていた愁い顔のマカロフ。その表情は自責の念なのかもしれない。

マカロフの魔力に包まれ、突如感じた冷たく魔力はスッと紛れる。





「……それに何もしていない訳じゃない。」



「え?」



ふと溢したら一言は違和感を覚えていた一人の女の耳にはしっかり入った。








「ミストガン…帰ろう。私、このままじゃ自制効かない」



「ああ」




此処で自分と彼女が姿を現せばきっとこの誤解は解かれる。しかし、其は選択肢にすらないこと。そして、マスターもこの誤解を公に解くつもりはない。

ならば、此処に彼女が居るのは彼女にとって毒にしかならない。


ミストガンは静かにオルカの肩を抱くと踵を返した。




愁い顔のマカロフの目は白と黒の2つの影を見送る。そして、その横で消え行く2つの影を目の端でとらえることができたのは‘妖精女王’の名前を賜る者だけであった。






女はマカロフの横から未だに泣きじゃくるルーシィの側にいるギルドの古株達の元へ歩み寄った。



「グレイ、カナ、ナツ」


「どうしたんだ?」


「何?」


「んだよ、エルザ」



ルーシィを見ながら微笑んでいた3人は顔を上げ、何処か真剣な表情のエルザに瞠目する。



「お前たちに聞きたいことがある。

お前達が知っている‘あの娘’のことを教えてほしい」



「あの娘?」



「オルカ・カナンだ」



「んで、オルカのこと」




「待って、エルザ。確かにラクサスには連絡とれたけど、オルカに伝わってないのよ。オルカは…」



エルザの口からオルカの名前が出た瞬間、グレイとカナの表情が曇る。犬猿とは言わないが、先日もいがみ合っていた。



「勘違いをするな。害意はない。

この中にあの娘のこと……特に‘魔法’について知っているやつは居ないか?」



「……っ」


其は先日自分も気になっていたこと。自分はオルカと長い付き合いだと思っていた……しかし、よくよく思い出してみれば彼女の魔法が何なのか、それ以前に所有か、能力かすら知らなかった。

そして、同じく関係の深そうなメンバーにそれを知っているか問おうとしていた。


「俺は知らねぇ」


「俺も知らねぇ」


「隠しだてするなよ」




解答は皆同じだった。古株のグレイも一時期までオルカと親しかったナツも知らない。






「ホントに知らねぇって…まあ、気にはなってたけどな。」



「アイツ、俺等の前じゃ一度も魔法使ってねぇぞ。」



「カナは?」



静かに首を横に振った。

いくら温厚なオルカでも一度も人前で魔法を使わないのはうちのギルドではあり得ない。こうなると、意図的に隠していると考えた方がいい。



「でも、どうしていきなり…」


「………私は先の戦いで誰かに助けられた」


「マスターじゃなくて?」


「ああ。マスターの他に誰かがいたのは間違いない。」



情けない話だ。そう語りながら、助けられたときの状況、そして‘あの声’と残されていたコートについても3人に口にする。うちのギルドかも解らない。だが、少なくともマスターではない誰かがあの場で動いていた。



「オルカのこと、此処で一番状況がわかるのは多分…」



視線は少し離れた場所で先程のルーシィのように泣きじゃくる小さな体に向けられる。

カナは少し前の出来事を思い出す。


アレはナツが勝手にS級クエストに行ってしまった時のマスターの言葉とそれに対するオルカの返答。そして、ラクサスの横槍。



‘……お主の魔法なら問答無用でナツを連行できるじゃろう’



‘否定はしませんけど……ごめんなさい。私、ラクサス以外のために魔法は使わないので。’


‘ じじい、それはルール違反だろ?

てめえが定めたルールだろ?てめえが破んなよ。 ’



3人の会話を掻い摘んで考えれば、少なくともラクサスとマスターはオルカの魔法を熟知していることになる。そして、オルカの何かをルールで縛り、伏せている。そのルールはマスターが定めたものと考えていい。

つまり、この場でマスターにオルカのことを聞いても答えてもらえない。



「多分、マスターに聞いてもダメだと思う。まあ、オルカ自身もラクサスも教えてはくれないだろうけど」



カナの視線はマスターを通し、オルカを写し出す。あの藍色の瞳は全てをはぐらかし、自分達には何も残してはくれなかった。しかし、それが、自分だけでなかったのは幸いだったかもしれない。此処に居る誰かが知っていたら、自分はショックを受けていただろう。




得られる情報は殆ど無いだろう。頭に浮かぶ策は全て袋小路。二人の強者とそれに隠されるギルドの最賢者。


強いて言って得られたのは‘秘匿の’というオルカの呼び名。わかったのが‘隠されている’ということのみと云うのはその胸に凝りが残る。



そういえば、いつだっただろう……オルカを別の名前で呼んでいた人間がいた。






「……‘メロウ’…」



それを呼んでいたのは自分とは所縁のある人間。当人は其れを知らないし、知り得ない男。ドレアー家とオルカ以外で彼女の事を知っているとしたらあの男位だろう。しかし、彼は数年に一度しかギルドには戻ってこない。噂では100年クエストに出ていると聞く。



「メロウってなんだ?」


「お前ホントに教養無ぇな」


「んだとっ!?」


「一々喧嘩するんじゃない‼」



落雷のように二人の頭にはエルザの拳が落下する。手加減を知らない女の拳は容赦なく、直撃した二人は悶絶に落ちる。



「昔、オルカをそう呼んでる奴がいたんだ。」


「メロウって人魚の事だよね」


「オレ、聞いたことねぇぞ」


「ギルダーツが呼んでた」



ギルダーツの名前を出した瞬間的、会話に途中参戦したルーシィ以外のメンバーは思わず言葉を飲み込む。久しく会っていないが皆が憧れるその男はギルド最強を誇る男。



「このギルド最強って人間!?」


「ギルダーツはスゲーつえーぞ‼」



この人数では脱線して話が進まない。カナはエルザとグレイに視線を焼べ、少し離れた場所に誘導する。



「メロウはさっきルーシィが言ってた通り、‘人魚’のこと。何であの人がオルカをそう呼んだかはわからない。容姿等は其らしさはないから、私はオルカの魔法に関係してるんじゃないかと思ってる」


「人魚つうと……‘水’が連想できるな」


「臆測でしかわからないけどね。」


「臆測でも強ち外れていないかもしれない。私は殆ど意識を失っていたが微かに感じたのは‘冷気’だった気がする」



戦闘で火照っていた筈の体に残った感覚は確かに‘冷たさ’だった。

その冷たさも長い付き合いの遠いあの娘を連想した要因の1つ。

先日、彼女と珍しく諍いを起こしたときに彼女から感じたのは凍てつくような冷気。


あの場でラクサスに止められていたが、アレは今考えてみればオルカが魔法を使うのを抑えさせた様にも思えた。




「教えてもらえるかはわからないけど、この場で考えてるより本人に聞いた方がいいよ」


「だな。」




そう提案しながら、彼女がそれを口にすることはほぼ100%ない。そう思っていた。


恐らく、赤の女王も。








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