誘拐された少女と誘拐犯

赤間カル@ロゼリアに全てを費やすマン
@karma_samune

(6)学校へ戻るか否か

 警察署、事務室にて。

 

 「はぁ、仕事は疲れるねぇ」

 「お前はさっさと書類を提出したらどうだ」

 「後輩にこんなにも怒られとはねぇ、私と立場逆転してるんだけど」

 「俺は上からの命で言われているんだ。寧ろ代わってほしい位だ」

 「私に?」

 「はぁ?」


 草薙は自分の席で、体重を背もたれに預けながら、鼻と上唇の間にペンを挟みつつ、素っ気なく会話をしていた。一方、須賀はパソコンと睨めっこしつつも草薙の相手をしていた。それを遠目から鳴無が見ていた。


 「ねぇ、早和ちゃん。散歩してきていいかなあ?」

 「またあの二人の所へ行くんですか?いい加減にしてくださいよ」

 「え~、だってまだ全然反応楽しんだ試しがないもの!」

 「お前に呆れてるんだろうよ」

 「そうですよ」

 「え~、酷いなあ!」


 鳴無でさえ、パソコンと睨めっこしつつも会話をしていた。そしてその二人の上司である草薙は普通なら仕事を終らせていても善い物を、全く手つかずの状態で、尚且つ椅子シーソーしている始末。


 須賀は草薙の背後へと回り込み、げんこつ一発喰らわせた。


 「いったいよ!須賀君!」

 「知らん、さっさと仕事を終らせれば散歩を許可しよう」

 「本当かい⁉」

 「嗚呼、終わればの話だがな」


 草薙の机の端には、山隅になった書類がいくつもあった。

 これを短時間で終わる訳が無い。

 が、草薙はやればできる男である。

 それから三時間……くらい経ったろうか、書類に手を付け始めた草薙はいつにも増して真剣そのものだった。そして三時間という短い時間で山隅となった書類を終らせたのだ。


 「ふぃ~、終わったぁー‼」


 手を頭の上へと、草薙は伸びをして、尚且つ欠伸をしてから椅子から立ち上がり、背もたれにかけてあった上着を手に取り、そそくさとその場を立ち去っていった。


 「アイツ……本当にやりやがったな」

 「凄いですね、草薙さん。本当に終わらせちゃいましたよ?」

 「……上司になるだけの頭があるんだな、それをやらないだけ、か……」


 パソコンをやる手を止め、自然と上司へと関心を寄せていた須賀と鳴無だった。



  *



 草薙は鼻歌を歌いながら、町を歩いていた。

 腕を回し、鈍った体を慣らす。

 ――さて、今日は何処を散歩しようかな。


  *



 午後。

 特にする事も無く、いつもの通り自分の部屋で画面とにらめっこする。

 カナはと言うと……。


 俺は椅子から立ち上がり、ドアの隙間からカナを窺う。

 カナは机に向かい、何か描いているようだ。いつも通り、絵を描いているのだろう。

 扉から離れ、また椅子へと座り、また画面とにらめっこする。


 今日は少し調子が良いようだ。さくさくと画面内にいるキャラクターを動かす。昔から、RPG系のゲームにハマりつつあり、多分ずっと暇さえあればやっているわけだからゲーマーといっても過言では無いだろうし、RPG系のゲームにハマっていると言われても否定はしない。だが、カナにはどうにも言いたくなかった。何故かは自分でもあまり判らないが。


 とはいえ、他にやる事が無いというのは少し不便である。そう思ってはいるものの、思いつくものがアレしかない。カナはまだ学生である。そう、〝学校〟へ通うという選択肢。俺はもう過ぎた年だし、行けるけれど、行けるかもしれないけれど、大学などに行って将来決めようなどとは思ってはいない。


 ……カナは、嫌がるだろうか?

 学校へ行ってみないか、又は通い直してみないか、そう問う勇気すらない。何故なら断られると判っているから。

 けれど、まだ確かカナは高校二年、位だったろう。

 ならば、そう思ってはいるけれど切り出せない。きっと、学校へ行けばまた同じ道を通る事になる、そうカナは思っているはずだ。

 俺が、何とかしてやりたいが、やっぱり部外者である俺には何もできない。

 マウスを器用に動かしながら、そんな事を悶々と考えていた。


 すると、カナが扉からこちらを見ていた。相変わらずの上目遣い、身長差に感謝する……それよりも、と思い返し俺は立ち上がる。


 「何? どうしたの、カナ」

 「うん、一緒に外出たいなって思って」

 「散歩?」

 「うん」

 「そっか、じゃあ着替えて行こっか」

 「やった!」


 カナは飛び跳ね、タンスから服を持って別室へと走り去った。

 そんなに嬉しかったのだろうか。頭を掻き、欠伸をする。少しカナの言動にはもう少し慣れる必要があるようだ。



  *



 カナと二人、横に並んで町を歩く。

 カナはいつも通りにこにこしながら速足で俺の横を歩いている。

 ――少し速度を下げよっかな……。


 「ねぇ、ソラ」


 不意にカナが俺に話しかける。正面を向いたまま。


 「何?」

 「思ったんだ。私、……このままで良いのかなって」

 「……というと?」

 「なんかね、いつも夢に見るんだ。学校へ、ふつーに行く私。ある時は部活へ行ってたり、友達と一緒にいたり、そんなふつーの高校生生活を送ってる私の夢……」

 「……そっか」

 「ねぇ、ソラ……」


 カナは俺の方を向く。どうやら真面目な話のようだ。俺もカナをちゃんと見る。


 「何?」

 「私さ、行った方が良いのかな……学校に」

 「学校、ね……」

 「怖いんだ、まだ……なんかさ、大袈裟かもしれないけど、人間不信になりかけてる気がする……。ほら、警察の人が来たときだって、怖かったし……これ以上怖い目に遭うと、もっと人が怖くてたまらなくなりそう……。

 ソラ、どうすればいいんだろうね、私……。」


 やっぱり考えていたんだな、カナも。

 でも、今の俺には何もできる事が無い。ただ、見守る事しかできそうにない。


 「まだいいと思うよ、俺には、……今の俺にはわからないけど、きっといつか克服できるン時じゃないかな」

 「そっか……そうだよね」


 カナは納得したように、正面を向く。

 俯いているけれど、考えているだけのようだった。


 「じゃあ、今はいいや。でも、いつかは行ける様になれるといいなあ。なれるかなあ?」

 「なれるんじゃない? カナならきっと大丈夫だよ」


 目を伏せ、口だけ笑って見せる。目を開け、カナの表情を見る。


 笑ってる。


 いつもの、輝かしいカナの笑顔。きらきらしてて、俺には遠い存在のような気がしてくるほど。

 こんな笑顔をする人間とは無縁だと思っていたのにな……。

 俺も変わったのかな。

 カナが変わるというのなら、俺だって変わる。


 「ありがとっ!」


 照れくさそうに言う彼女に、俺は少しドキッとしてしまっていた。



  *



 私は姉と二人で、ファミリーレストランへと来ていた。

 今日は親がいない日で、姉と二人きりの日だった。だから、姉が驕るという条件で私はレストランへと来ていたのだ。実際、私はそんなキャラじゃない。

 二人きりで、席へと着き、ドリンクバーでコーラを選んで席へと戻る。姉も同じで、戻ってきた。


 私がコップに口をつけ、コーラを口に含んでいると、姉が切り出した。


 「ねぇ、セイラ。バイト、考えないの? 一緒に働こうよ、今だって高校中退してさ、楽しているかもしれないけど……」

 「私だってねえ、……気まずいよ。確かにね、バイトしなきゃかもしんない。でも、なんかさ、アイツの事が頭過ってしょーが無いの。何もする気になんないんだよ」


 吐き捨てるように、私は言う。

 姉はため息をついた。


 「あのねぇ、あれは貴女がいけないのでしょう? 虐めだって許された行為じゃないんだからさ。

 辛いよ? 貴女は知らないかもしれないけど、辛いんだよ? 裏切られた事、貴女にある? 気持ち判るの?」

 「うっさいな‼ 判るわけねーじゃんか‼」


 つい怒鳴り散らしてしまった。

 けれど、姉の意見だって正当なものだ。私が間違っている事くらい知っている。だから、自分を見直す期間があるだけいいと思う。だから、まだ何もしない。


 それを言い出せない。


 姉は勘違いしてるのか、私がまだ解っていないとでも思ているのだろう。

 頭を抱えて溜息を吐く姉、私はコップに口をつけて少しだけ口に含んだ。丁度、頼んだ料理が運ばれてきた。

 私は気まずい空気の中、姉の顔を窺いつつもその料理を頬張った。




 あれから約一時間。

 ずっとこの調子だ。まだ店内とはいえ、姉はまだ、否、何かを考えているようだった。

 私はようやく切り出す。


 「あ、あの、さ……。その、怒鳴って、ごめん……。その、私が間違ってたって事。ちゃんと解ってるから、それに、自分をさ。見直すって大事じゃん? だから、その……」

 「……その為に時間を割くって事?」

 「うん、まだその時じゃないかなーって……ダメかな?」

 「いいけど、そのあとちゃんとやるの? あ、……セイラ、さっき言いすぎてごめんね」

 「あ、いや、別に……。」


 曖昧な返事をする。けれど姉は笑ってくれた。


 「ふふっ、相変わらず不器用なんだから。じゃ、帰りましょ」

 「うん……」


 姉はバッグを持ち立ち上がる。私もそれに釣られてバッグを持ち、立ち上がった。


 

  *



 私とソラは近くにあったベンチに座り、ソラの買ってくれたクレープを頬張っていた。ソラはとっくに食べ終わっているようだった。相変わらず食べるのがお早い。


 「おいしいなあ」

 「良かったね」


 ふと正面を見る。

 ベンチとは対照的にもう一つ正面にベンチがある。その後ろの方には店や出店が並んでいる。そこに見た事のある女の人がいた。多分女子高生。髪が長くて、艶のある黒髪、太陽の光が反射してとても綺麗に見える。けれど、私にはそんなに綺麗に見えなかった。寧ろ、穢れている様にしか見えなかった。だって、その人が、私を……。


 私はクレープを持ちつつ手を膝におろした。


 「どうしたの?」


 ソラは私の顔を覗き見る。きっと私の顔は青ざめている事だろう。

 あの日の光景が目の中に鮮明に浮かび上がる。


 ああ、怖い、怖いよ……。

 

 体が自然と震えた。

 ソラは私の背中を擦ってくれた。何も言わずに、落ち着くまでずっと。

 その女子高生は私に気が付いた。

 身震いをその途端に無くなった。

 ソラはそれに気付き、手を止める。

 女子高生はもう一人隣にいる女の人に何かを告げている。すると、こっちに向かって歩いてきた。

 再び恐怖が私の心を支配した。

 女子高生が、目の前に来た。


 「……ぁ、あ……」


 言葉が出てこない。

 声が出ない。


 「久しぶり、カナちゃん」


 女子高生はそういった。


 「……ッ」


 詰まって声が発せられない。何か喋らないといけないのに、出てこない。


 「そんなにキンチョーしないでよ。……もう何もしないし。」


 目を伏せがちにそう言った女子高生は私に向かって手を差し出した。と思ったら、手を開き、手の中にあったものを見せる。


 「これ、アンタにあげるよ。とある人から渡しておいてって言われたの」

 「……だ、れに?」

 「アンタの親」

 「!」


 親に、しかも、私の……?

 一体どういう事なのか、理解できない。


 「ま、アタシは知らないから。……じゃ、それだけ。」


 踵を返す女子高生は、すたすたと歩き始める。不意に立ち止まったと思ったら、振り返った。


 「そうだ。ねぇ、カナタちゃん。アンタはガッコーに戻りなよ。待ってる人がいるんだってさ」


 それだけ、とまた踵を返しすたすたと女の人の元へと戻っていった。

 不思議と最後の方になると恐怖感が無くなっていた。どうしてかは判らない。

 けれど、きっと、あの人が危害を加えない人になったと判ったからだと思う。そう思うと、自然と緊張が解れた。


 ソラが私の頭を優しく撫でる。


 「大丈夫?」


 優しく声をかけてくれるソラ。


 「うん、大丈夫だよ。なんかね、最後らへんは全然怖くなかったんだ、なんでだろうね」

 「そっか、良かったね」


 少し呆然と正面を見つめた後、今にも崩れそうだったクレープに口をつけた。



  *



 「ッ‼」

 「てめぇ、いい加減にしろよ……?」


 誰も近寄らない路地裏。空気も汚れて、周りは塵塗れで瓦礫塗れの細い路地。そこに二つの影があった。

 二人の男子生徒がそこにいた。一人は一人を殴り、殴られた男子生徒は壁に頭をぶつけた。

 殴った男子生徒は相手の胸倉を掴み持ち上げる。


 「おい、てめぇ。俺の邪魔するなっていつもいってんだろ、っが‼」

 「ぐぁッ‼」


 もう一発。頬を殴られた男子生徒はまた壁に激突。頭から血を流した。口からも血が流れる。

 男子生徒は吐血し、口を既に血に塗れた手で拭う。

 男子生徒は弱弱しく壁に寄りかかる男子生徒を見下したような目つきで言う。


 「もういっぺん俺の邪魔してみろよ、そしたら、……次はタダじゃ置かねぇぞ」


 最後の一言だけ声色を変え、いかにも本気だという事を言って見せた。

 普通なら震え上がる事だろう。が、殴られ頭から血を流している男子生徒は既に思考が途絶え始めていた。朦朧とする意識の中、最後の一言を聞いた。そして、だんだんと瞼さえ重く感じ、終には、力尽き、目を閉じた。

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