放課後ゲーム

優衣(柚葉)@実況アカウント
@yui_052057

02話 傷だらけの机

「おはよ~、文香ふみか!」

奏美かなみ……」


家から出て、いつもの道を歩いていると、幼馴染みの奏美が声を掛けてくる。

奏美は私と同じ中学には通っていない。中学受験を受けて、市で一番の私立中学のお嬢様学校に通っている。だから制服も身なりが良くて、元々の可愛らしい顔立ちもより一層栄える。

私とは正反対の彼女。そんな彼女は、家が近くて小さい頃から仲が良かった。

彼女の通う学校は、バスを使わないといけない。そのバス停までなら、奏美と一緒に登校できる。地獄を味わうことがないのだ。


「文香、どうしたの? 顔色悪いよ?」

「なんでもないよ……。昨日、寝不足で」

「大丈夫? 今日、学校休んだら?」

「ううん。大丈夫……。ほら、バス来たよ。じゃあね」

「文香っ!?」


奏美の優しい瞳が痛かった。本当のことを吐き出せばよかった。

でも、私は少し走ったところでかぶりを振った。


―――大丈夫。きっと、あれは聞き間違いだ。疲れていたから、変な風に聞こえたんだ。


そう自分に言い聞かせ昇降口まで歩いて行った時、ガンッと鈍く衝撃的な音が外に響き渡った。

生徒たちがざわついている。何か大きなものが教室のベランダから落ちてしまったようだった。花瓶にしては大きな音だ。それに影が見えるが大きいものだ。

私はドクンと心臓が脈打った。恐る恐る近づいてみる。それは、傷だらけの机だった。壁に当たったのか擦り切れて汚れていた。机の上もそして名前のシールを見て息を呑む。


―――『黒河文香』。


手が震えた。すると、頭上で女子生徒の笑い声が聞こえた。


「あーあ。学校のなのに、どーすんの?」

「別にいいんじゃね? ただの粗大ごみだし」

「それ、超言えてる! 必要ないよね~」

「でもさ、なんか勿体ないよね~。折角あたしたちが可愛く机をデコレーションしてあげたのに」

「ほんとそれ! 写メ撮っておけばよかったぁ~」


聞き覚えのある声は、昨日の放課後の声と一致していた。

私は机から目を逸らし、小走りで昇降口に行く。教室に入ると一気に視線を逸らされた。

誰も、私を見てくれない。クラスメイトみんな俯いている。男子もちらちらと私を見ては、目が合おうとするとさっと逸らす。

目の前には、私の机があるはずの席がぽっかりと空いていた。ベランダにいる5人の女子生徒は下品な笑い声をあげている。


「あっ、おっはよ~! 黒河サン♪」


私に気付いたのか、一人の女子生徒が声を掛けてくる。たしか、名前は安条愛華あんじょうまなかさん。ミスコン1年生の部で優勝した子だ。後の四人は安条さんを取り巻いてる子たちだ。


「あっれ~? どうしたの黒河サン……ああ、席がなくて困っているんだ?」

「あんたなんかに机とイスは必要ないでしょ? だから、優しいあたしらが片付けたのよ」

「優しいあたしたちに感謝しなさいよ!」

「ガリ勉ちゃんは、床でもお勉強できるんでしょうからねぇ」


あはは、と笑う彼女たち。私は無言で教室から出ていき、机とイスを取りに行った。

周りの生徒たちは、汚れた机を見てささやきあっている。私はそれを気にするのをやめ、手に取りようやく二階の教室の前まで戻ってきた。すると開くはずの引き戸が開かなかった。私は戸惑って、思わずドアをドンドンと叩いてしまった。すると教室の中から安条さんの声がした。


「そんな汚い机持ってこないでほしいなぁ。教室の空気悪くなっちゃうでしょ」

「泥だらけとか、マジ最悪~!! さっさと捨ててきなよ!!」

「折角あたしたちが片付けてあげたのにさ~」

「てか、黒河サン自体がゴミなんだけどね」

「あんた、それは言い過ぎー!!」


暴言を言われ、私はドアを叩くのをやめた。ドアを叩けば叩くほど、暴言がエスカレートすると思ったからだ。人間は、閉じ込められたり締め出されたりすると、ひとりで解決しようと必死になる。いじめる人間は、そんなターゲットの滑稽で必死な姿が見たいのだ。愉快だから。

私は仕方なく、空き教室へ行った。そこにはもう使わない机がぎっしりと詰まっている。そこから教師にバレないよう、机とイスを持ち出した。戸に手を掛けるとカラリと音が鳴る。いつの間にか鍵が開いていたようだ。

1年の時から使っていた机とイス。それを彫刻刀で削られボロボロにされた悲しみ。

私は唇を噛みしめ、教室へ入った。もう自分の居場所がない、そういう理解をして。


                                      【続く】

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