ここにかけがえないものが

毘沙門天
@_yu_kn_yr

chapter three.

「あの日」の再会から一ヶ月。

昼間はお互い会社に行き、自分の仕事をこなす。

仕事を終えた夜、「あの日」の居酒屋で待ち合わせ、「あの日」のように飲み始める。

そして俺の部屋に来て、尋斗は俺を抱く。

…ほぼ毎日だ。

平日は早めに切り上げて尋斗は自宅に帰る。

だが週末は…決まって俺の部屋に泊まっていく。

金曜の夜を共に過ごし、土曜の昼間に別れる。

今日はその、週末。金曜の夜だ。

「あの日」、俺は「今日も泊まっていけばいいのに」と尋斗を引き留めた。

でも尋斗は「耀に悪いから」の一点張りで俺の言うことを聞こうともしなかったんだ。

土曜日は泊まっていってくれない…なにか理由があるのかもしれない、仕方が無い、とも思ったが、寂しいものは寂しい。


「耀?」


ソファに隣同士で座る尋斗が俺の顔を覗き込んでくる。


「……何?」

「何、じゃなくて…ずっとぼーっとしてるから」

「………あぁ、仕事の事考えてた」


嘘。…嘘だ。

本当はお前の事考えてる、なんて恥ずかしくて尋斗には言えない。

尋斗も俺のことを考えてくれてたら…なんてことはもっと恥ずかしくて言えるわけがない。


「ふーん、俺は耀の事考えてるけど」


不意に放たれたその言葉。

尋斗は悪戯に笑い、俺を抱き寄せる。

ぎゅっと抱かれ、髪を撫でられればもう…俺のスイッチが入る。

俺もそっと尋斗の背中に手を回し、尋斗に強く応える。

俺から少し離れ、ふっと笑みを零して優しくキスをする。

数回、軽いキスを重ね、徐々に舌で唇を割られる…鼻から空気が漏れる…俺自身の体温が上がっていくのをしっかりと感じた。


「耀は俺の事考えてくれてないのか? 」

「………」

「だんまり?」

「………」

「…じゃあもう今日俺帰ろうかなー」

「え、ちょっ……泊まってくんじゃ…ないのかよ…」


立ち上がり帰ろうとする尋斗。

俺は俯き、ぼそっと呟く。

そんな俺の顔を上げ、また再び深いキスを交わす…

あぁ…これだ、と本能が俺を突き動かす。


「…尋斗、すき。」

「あぁ」

「……すき……すき………っ…だいすき……」


縋るように抱きつき、何度も何度も同じ言葉を繰り返す。


「本当はずっと尋斗のこと考えてた…尋斗も俺のこと考えてくれてたらいいなって、本当に考えてくれてたなんて思ってなくて…嬉しくて…」


俺の言葉をしっかり聞いた後に、尋斗は優しく笑いかけてくれる。

その笑顔だけで俺のここは幸せに満ち溢れる。

尋斗は俺をそのまま押し倒し、耳元に口を近付けてぼそっと呟いた。


「俺はずっと耀のことだけ考えてんだよ」


耳から脳に響く声、俺の快楽中枢を刺激する。


「…耀、もう勃ってるけど」

「ごめん………」

「謝る必要なんてないって。…俺の言葉に反応した?」

「…それもだけど…」

「けど?」

「……尋斗の声、低くて心地いいから…」

「そうやって……耀は俺を煽るのが上手だな…。ちょっと、俺もう無理」


俺のネクタイをしゅるっと解く。

ここからはもう、すべて尋斗のペースだ。


朝までお互いを求め合って

朝食も摂らずになだれ込むように眠りにつく。

尋斗の腕枕は心地が良い。

寝起きの悪い尋斗のために、俺はいつも先に起きてる。でもすぐには起こさない。

何故かって?…いつもは格好いい尋斗の、可愛い寝顔を見れる貴重な時間だからだ。

不機嫌そうに眉間にしわを寄せて、ぼーっと目を開け、俺の姿を確認すると、


「…耀…おはよ…」


と、寝起きの少し枯れた声で嬉しそうな笑顔を見せる。

そのまま俺を引き寄せて、すっぽりと胸の中に収める。


この時この幸せが

永遠に続けばいいと、俺は愚かなことを思ってしまった。