光を纏いて闇を孕む・異

光圻
@mtk_4s

偵察開始

「お呼びと伺い、参上仕りました」


奥の間の襖の前。跪いて「入れ」の音を待つ。

つい先日開眼したばかりの左眼が、暴れられる機を察知でもしたのか、眼帯の内側で熱をもっていた。黙っていろ、と心中で吐き捨てて。


くぐもった入室の許可に応の返事をし、木偶のような近習が開ける襖を通り抜けた。






「豊風伊吉。知っているか」

「は」


書き物をしている筆を止め、小さなカタンという音と共に告げられた名に目を細めた。

東で戦がある内の何割かはその男の凶刃によるものだ。毎度のことながら歓喜に逸るこの眼のせいで、集中を途切れさせられたことも一度や二度のことではない。未だにコントロールが万全ではない眼を連れてそんな所に行けるはずもないため、手元にある知識は全て小太郎からの伝聞だ。


「豊風家長子。初陣にて首級を総取りし、祟り神、戦神と恐れられていると聞いております。……――それはそれは愉快そうに、笑いながら殺戮を繰り広げていると」


じわりと賛同するような熱に拳を握った。上げかけていた頭を再度伏して一度深呼吸をする。


「彼の者に、如何対処をお申し付けでしょうか」

「あの者の顛末を確と見届けよ。周囲との関係性、奴が滅ぼした土地の変化、残党の在り様…、それら全てぞ」

「……―、」


殺せとお命じであればすぐにでも、と思考していた脳は一時停止した。


「は。御意のままに」

「そして、其方には、これぞ」


「………………………………御意」


顔を上げれば目に入らざるを得ない帳簿や巻物の山。当然ながら一日分の決済案件の山、だ。

今から10数年前の400年後の未来では見慣れた光景だが、完全なるアナログ。


「拝命仕りました。然るに、政務処理及び戦心得、万事習熟せよとの事、と―ー」


ふ、と詭計智将の笑みを見た。首を垂れる。


「……それでは、我が身の事として、豊風伊吉の動向の偵察に赴きます」

「うむ」


強調した語に満足そうに頷く了承の確認を得て、退室した。

つまるところ、六道冥夜として偵察を行いながら、毛利元陽として政務を行うこと。またどちらに於いても不足している知識を獲得しつつ、殺戮と戦の違いを学べ、ということだ。


「………我が父上は本当に手厳しい」


十にも満たない子供の身形で、天を仰いで顔を覆った。


著作者の他の作品

pixivにて連載中(http://www.pixiv.net/series.php?id=659083)刀剣BASARAな二...