月島君といい子ちゃん

hukashi
@hukashimo

月島君といい子ちゃん ファーストコンタクト

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主人公(明松春帆)

月島のクラスの学級委員。学校初日に「まじめそう」という理由で学級委員を押しつけられる。あだ名は「委員長」。

父親が福岡出身で、中学までは博多の学校に通っていた。


以下、駄文です。





「委員長」


このあだ名が定着したのは、高校に入ってすぐのこと。

昔から、よく何かと人に頼まれるほうだった。友達の中にはそれを心配する子もいたけれど、そもそも断るだけの勇気もなければ、ひどく困ることも(そんなに)なかったから、この性格を変えようと強く思うこともなく、行動を起こしたこともなかった。


「いいんちょー」


でも。


「悪いんだけどノート貸してくんね? 寝ちゃってさあ」


ああ、数学。次たぶん当てられると思いますよ。どうぞ。


「あっ、委員長! さっき先生が呼んでたよー」


雑用ですよね。慣れてます。でも……昼休みはちょっとゆっくりさせてほしいというか、


「委員長、今日の日直、替わってくんないかな?」


……きっとやむを得ない事情だ。限定スイーツなんてどうせ月一だし、また今度。


「いたいた、委員長! あのさー、クラスの係なんだけど」


……


「委員長!」

「委員長ー」


ノーと言える日本人になろう。放課後の教室でひとり大量のアンケート用紙と向き合いながら、ひそかに決意した。うちのクラスは、とてもいいクラスだと思う。いじめもないし、皆ノリがよくて、気も優しいし。それでも、これは。


(帰りたい)


半分泣きそうになりながら、今日集めたアンケートの枚数と集計を数えていく。分かってはいたけれど、ひたすら地道。窓の外はすっかり濃い茜色に染まりきっていた。本当なら、もう家に帰って、ずっと楽しみにしていたドラマの放送に備えて、すっかり準備していたはずなのに。

タイミング悪く先生につかまった上に、ノーと言えなかった自分を恨むしかない。


(隣のクラス分まで……)


なんでもこのアンケート、まずは各項目につけられた順位の数字を加算して、それから合計の票数と順位を出し、それと同時進行で名簿確認してクラスの人数分を合っているか確認しなければならない。らしい。自分でも何を言っているのか分からない。なぜこんなややこしくしたのか。

説明された瞬間、「あ、これ長引くやつだ」とピンと来たため、アンケート係の子はいないんですか、と少し抵抗してみせたけど、なんでもアンケート係は二人とも忘れて帰ってしまったそうだ。なぜだ。しかも、うちのクラス二枚だけ足りてないし。


(なんか、初日からずっとこんな……)


そもそも委員長といっても、ただのクラスの学級委員なのに。


(いや、)


でも、と宥めるように自分に言い聞かせる。

この多忙な生活も、この一学期だけだ。一学期が終われば、今度は別の誰かと交代できる。仕事もきっと前よりはなくなる。

クラスに馴染むまでの間だけ。それまで、頑張ろう。

じわ、と涙がにじむ。夕暮れということもあって、なんだか切なくなってきた。しかも窓から見える校庭もだんだん暗くなってきている。


「……はあ」


番組、終わっちゃったよねえ。こんなことになるなら、録画しておけばよかった。

いや、そもそも断ればよかったのか。残り半分くらいになったプリントの山を睨みながら、そりゃそうだ、と思い直す。

――もういいや。さっさと終わらせちゃおう。それで、早く帰って、早く休もう。

そう決め込んで、音楽プレーヤーを鞄から取り出してイヤホンを耳に差し込む。音楽をかけていれば苦痛な作業もすこしは気分がやわらぐ気がした。




集計を初めて一時間くらい経った頃、ガラ、と教室の後ろのドアが開く音がした。

私の席は後ろから二番目の窓際だから、誰が入ってきたのか確認しようとプリントから顔を上げて振り返った。


入ってきたのは、うちのクラスの月島君だった。黒いジャージを着ているところを見ると、部活あがりらしい。


「あ」


思わず小さく声を漏らしかけて、慌ててぱっとプリントに目を戻す。

私はこの月島君が苦手だった。

彼は人目を惹く長身で、運動もできるというから、初日から女子の間でも何かと話題に上ることが多かった。けれど、彼はいつもにこりともしないし、何を考えているかよく分からない人だった。たまに見るときに友達と話している雰囲気や、あの眼鏡の奥の涼しげな目も、何となくこわい。つまるところ、非常に、非常に近寄りがたかった。そもそも男子自体が苦手だ。


気まずい心地でプリントとにらめっこに戻る。

さっきの声、気付かれてないかな。あんまり急に目を逸らしても失礼のような気がするけど。

でも、月島君も挙動不審な同級生に何を言うでもなく、引き戸を開け放ったまま、つかつかと私の斜め後ろの自分の席まで歩いて行った。そして机の横にかけてあった袋を取る。ずっと机にあったままだから、誰のだっけと考えていたけど、そうか、そういえば月島君だったっけ。この席。


「――ねえ」

「ひっ!」


アンケート用紙に向かって集中しようとしていると、急に上から声が降ってきた。

いつの間にか彼が横に立っていたらしい。

びくっとなって思わず飛び上がると、膝をガツンと思い切り机の裏にぶつけた。


「~~~っ」

「うわっ」


今、結構な音がした。月島君もさすがにぎょっとしたのか「大丈夫」と言いつつ、かなり引き気味だ。ひとり悶絶する私を見下ろし、明らかにドン引きしている。


「ご……ごめ……」

「……」


うわあ何やってんのこいつ、と言いたげな呆れた視線に、じわ、と目に涙がにじむ。


「……いい?」

「あ……は、はい」


あわてて顔を上げると、やっぱりどこか冷めた視線を向けられる。また、びく、と竦んでしまう。けれど月島君は気にした様子もなく、大きなスポーツバッグを開けてごそごそと中からプリントを二枚、取り出した。


「それ、今日提出のアンケートだよね?」


こくりと頷くと、月島君は用紙をもう一度差し出す。


「昼休みいなかったから。あと、これ山口の分」


やまぐち、やまぐち。頭の中でなんとか顔と名前を照合する。ああ、そっか、月島君とよく一緒にいる人だ。


「あ……はい……」


それだけ言って用紙を受けとる。よかった、枚数足りなかったのはこれだ。私が作業に戻ると、月島君は「じゃ」と言い残して、さっさと立ち去っていった。

きっと部活に戻るか、もう帰るのだろう。

ほっと胸をなでおろす。よかった、これで平穏に作業ができる。


それでもなぜかあの妙に冷たくよそよそしい視線が頭から離れなかった。

彼は何も言わない。けれど、あの目に、いつも何かを責められているような、見透かされているような気がしてしまう。


「はあ」


シャープペンシルを握りこんで、ため息を吐いた。

居残りなんて、いいことなんか一つもない。

もう本当にさっさと終わらせよう、とシャーペンを握り直して、受け取ったプリントを睨んだ。



そういえば。

入学後、月島君とまともに会話を交わしたのは、たぶんこれが最初。