病室666号室

数時間前のあいうえお

 「すいません。巻き込みたくなかったのですが。」

ヨル先生が深々と頭を下げる。

「やめてくださいっ。ってゆーか、わけわかんないので説明してください!」

「…それはできません。魔王様に口止めされているので。」

 いいづらそうに、ヨル先生は目をそらした。

「じゃぁ、その魔王って人に直接聞きます!どこにいるんですか?この世界にいるんですよね?」


 …自分の言葉にハッとした。


 …なぜ魔王がこの世界にいると思った?魔界にいると考えるのが普通なのに、なぜ?

「…私は魔王を知っている?」

「っ!」

ヨル先生が注射器を取り出した。私に刺そうとする。それも数時間前に見たことがある気がする。


 「ヨル先生、やめてください。」

パン、パン、と手を鳴らしながらサクラ先生が入ってくる。注射器を持つ手を掴んで、動きを止めさせた。

「サクラ、邪魔するな。」

「だめです。薬物乱用を見逃すわけにはいきません。記憶を消す薬は劇薬だって、知ってるでしょ?」

サクラ先生は注射針をぽっきりと折って、ごみ箱に捨てた。

 え、ごみの分別しましょうよ…。

 とは、言わない方がいいかなぁ?


 「マキちゃん、あの少年とこの吸血鬼は、魔界の問題でつながってる。人間が首を突っ込んだらダメなんじゃないかな。」

「え、それ人のこと言える立場じゃねぇだろ。」

「しゃらっぷ。」

「あの…でも、一つだけ、どうしても聞きたいことがあるんです。

 …宙くんは、今朝にも会ったって言ってました。意図的に私の記憶を消したんですよね?なぜそんなことを…?」

「…それは。。。」

ヨル先生は言葉を濁した。続かなくなった言葉を、代わりにサクラ先生が話す。

「今朝はあなたが踏み込みすぎてしまって…知ってはいけないことまで知ってしまった。だから忘れてもらうことにした。」

「あぁ、そうですか…。なんか、、、すいません。今日のことは…忘れておきます。」

 いまいち腑に落ちないところもあるけど、今回は引くことにした。これ以上、迷惑かけたくないしね。