異文化刀剣交流

テイル
@TailNotTeiru

01:初鍛刀・異国刀

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 政府から審神者としての命を受けてから早数日。最初に見せられた五つの刀から選んだ彼、山姥切国広との生活にも慣れてきた頃だ。

 最初は彼のネガティブ発言に押され、どう会話したものかと思ったわけだが。慣れてくると案外単純、地雷さえ踏まなければいいだけの話だった。未だに彼との会話の端々はやはりネガティブが見え隠れしているのだが、存外素直でいい子な彼は結構簡単に流される。少々良心が痛みはするが、上手いこと会話は成り立っているのでよしとしよう。

 さて、本丸内はそれでいいのだが、戦場となると話が別なのは困ったもので。審神者と言えど能力的に一般人に違いない私は本丸で彼の帰りを待つしかできない。戦場で何があったのかは知らないが、毎度ボロボロになって帰ってくる彼は見ていて不安だ。本人は大丈夫だと言うのだが、プライドの高い彼がそう易々と弱音を吐くとは思えない。

 そう、人員不足である。それを自覚してから思い出したのだ。我が本丸、実は一度も鍛刀をしていない。

「と、いうことでだ切国よ。私の鍛刀の補助をよろしく頼むよ」

「……色々言いたいことはあるが、一つだけいいか」

「何かね」

「その格好は何だ」

 視線が痛い。奇怪な化け物や不審者を見るような目だ。まあそれも無理も無い。

 今の私の姿は、間違いなく化け物のそれだ。顔のところには茶色い箱状の何か。今は「審」という文字が表示されているはずだ。体は……こうクレーンゲームとかで取れるぬいぐるみみたいな形状。勿論ちゃんと動く。これだけでも異常なのだが、なんとサイズもおかしい。まさにクレーンゲームの中にいそうなサイズ。顔だけ取っ替えて化け物にしたような感じ。そんな状態で私は浮いている。何の脈絡もなく、ふよふよと。

 彼が驚くのも無理はないな、と思いながら驚かせれたことが内心嬉しかったりする。政府に打診された時は気でも狂ったかと思ったが、この姿は存外消費が少なく楽でいい。

「いいだろう? 元々一般以下の体力しか持ち合わせていなかった私にと、政府が術をかけてくれたんだ。消費が少ないのが最大の利点だね」

「…………あんたは、それでいいのか」

「感情表現は箱の文字が勝手に出すし、体が小さければ使う力も少ない。浮いて移動ってのも楽しいし、私は何ら問題に思ってないな」

「そう、か」

 色々複雑そうな顔をされてしまった。多分もっと言いたいことはあるんだろう。でも言っても無駄だと思ってるんだろう。そうだよ切国、正解さ。この姿ならこんのすけの上にも乗れるんだ。楽しいに決まってるじゃないか。

 などと話を脱線させてしまったわけだが、今はこんなことをしている場合じゃない。深刻な戦力不足を解消すべく、鍛刀をしに来たのだ。

「じゃあ切国、補助お願いね」

「……分かった」

 流石にこの姿だと物も持てないのではないか。そう思っての行動だと思う。私が取り出した資材配分表(通称レシピ)を元に、切国は枠の中に並べていく。実によく出来た近侍だ。

 重労働を任せてしまい申し訳なく思いつつも、とりあえず彼には横にどいてもらう。ここからは審神者にしか出来ない仕事だ。こんな姿でも審神者には違いないことを、ちゃんと理解してもらおう。

 こんのすけ曰く、資材を並べたらあとは祈るだけとのこと。審神者の持つ霊力を流し込むよう、強く祈るのが大事なのだと。霊力がありますよなんて審神者になるまで知らなかった私に何を期待しているのか知らないが、やらないわけにはいかないので、見よう見まねでやってみよう。多分なんとかなる。

「……………………」

 頭の中で色んな宗教の言葉が浮かんでは消える。ほとんど覚えてないのでやるだけ無駄どころか逆効果な気がしないでもない。

 どれだけ待ったかは分からない。突然だった。目を閉じていた(つもりだった)ので視界はちゃんと暗かったのだが、急に弾けたように真っ白になったのだ。

 反射的に、私は顔を上げた。

 黒い、女性だった。

「リーシャ。……日本語苦手だから、たまにロシア語出る。先に言う」

「お、おう? え? 女性? 男士だけじゃないの?」

「知らない」

「え、ええ、というか日本の刀……ですらないよね、きっと」

「今で言うロシアの鍛冶屋が打った剣」

「ですよねー。えーもう意味わかんない」

 就任初日は鬱陶しいほど解説してきたこんのすけは姿を現さない。女性、しかも外国人が来るなんて聞いてないんですけどね、どういうことなんですかね。

 助けを求めるように切国のほうへ体を向ける。彼も彼で現代の俗世には疎いみたいだから求めたところで意味は無い気もするけども。

「切国ー、どうしよう、私もう大混乱だよ」

「…………妖刀」

「え?」

「妖刀、なんだろ。持ち主が次々死んでくっていう」

「Да」

「だ? え? ええ?」

「……Yes. そういう噂は出てる」

「やはりそうか……!」

 どうやら刀二人で会話が通じちゃってるみたいだけど、審神者の私には何のことだかさっぱりな状況。妖刀?死んだ?どういうことだ?

 ここは切国から聞いたほうがいいのか、しかし彼女に敵意を持ってるみたいだし偏った情報になりそう。彼女……リーシャもリーシャで会話が出来そうにない。どうしたものか。

「……噂では、こいつを手にした主は必ず急死、又は自殺をしている、とのことだ」

「え、何それ怖い」

「必ず、ではない。今の主は違う」

「異国人なんだろ、どうせ」

「ロシア人」

「日本人に恨みでもあるんじゃないのか」

「これと言って特に」

 ああ、うん、凄い空気重い。主に切国からの空気が重い。私の心配してくれてるのか、それとも単にリーシャを気味悪がってるのか……いい子だから前者だと思いたいけど、とりあえず警戒してることは伝わってくる。

 対するリーシャは落ち着いてるというか、全く気にしてないようだ。そういえばさっきから表情全然変わってない。瞬きと口以外は動いてないんじゃないか。噂よりもこっちのが怖いとは言っちゃ駄目なんだろう。

 どうしよう。この二人に早速出陣してもらおうと思ってたんだけど、この様子だと厳しいのかな。もう一人行く?でも次もよく分からんの来ても困るしな。

「うーん…………」

「………………」

「…………おい、どうするつもりだ」

「……まあ、いっか。切国、隊長任せたから、行ってらっしゃい」

「…………分かった」

「出陣、なの」

「うん。二人で頑張って。ご飯作って待ってるから」

 もう考えるのはやめよう。胃が痛くなってきた。さすがに敵陣で喧嘩なんてしないだろうし、足の引っ張り合いも多分しないと思う。

 特に会話するでもなく鍛冶場から離れていく二人。さながら仲の悪い兄弟の間を取り持とうとお使いを頼んだ母親のような、そんな気分。随分物騒なお使いになってしまった。

 手入れ部屋行きにならないことを願いつつ、一人増えて三人分となった夕食の献立を考える。とは言え料理の出来ない私。こんな姿じゃなくても料理できない私。レトルト食品の在庫はまだあるけど、そろそろ料理上手来ないかな。ご飯に文句を言う子が来る前に。

 ぽん、と音を立てて異形の姿から人の姿へうつす。そう言えば彼女、私のあの姿見ても全く反応無かったな。少し物足りない。今後新しい子が来たらとりあえずあの格好で挨拶しよう。今のうちに一発芸を覚えておくのも悪くない。

 現実逃避、と言われればそれまでだが、楽しいことを思い浮かべながら台所へ向かう。結局この騒動の間、一切姿を現さなかったこんのすけが今どうしているのか、私は既に考えることを忘れていた。