山姥切長義になりました。

10 刀たちが見た夢 ※刀剣破壊ネタ

――――― 一体誰が、この穏やかな本丸に終わりが来ることを予想できただろうか?



【刀たちが見た夢】



検非違使達の襲撃

出陣途中に彼らに出会うことはあっても特定の本丸へ襲撃してくることなど今まで報告された事はなかった

でもよくよく考えれば、山姥切長義の生まれ変わりだという刀がいたこの本丸は、一番狙われてもおかしくない本丸だったのかもしれない

練度の低い本霊、その存在は彼ら検非違使にとって一番早くに殺しておきたい存在だったはずだから


頭の中はどこまでも冷静に考えることを止めなかった

その癖、体や心が痛くて痛くて正常に息をする事すら許さない

無理やり口を開けて空気を吸い込んでも、それを拒むように涙が溢れて止まりそうになる呼吸を続けるので精いっぱいだった


本科が折れた


普段から冗談やいたずらばかりしてた彼からしたららしくない最後だった

いや、でも元々この本丸にいる刀剣達を救う為に現れた存在だったから、らしい最後だったのかも知れない


二十をゆうに越える検非違使の大群

多くの刀剣達が本科を守るために前に立ったが、少しずつ傷を負っていく刀剣達を見て刀剣達の制止の声も聴かず本科は検非違使達の前に躍り出た

直してくれる審神者がいない為、ろくに実践経験もない本科

それでも本霊としてか、それとも化け物切りの刀としての強さか本科は検非違使達を1人1人と倒していった


『体、切っても俺は死なねーぞ、殺したきゃ刀狙ってこいやァ!!』


がなりなから刃を振り回すその風切り音に僅かに異音が混ざった

その音の正体に気付いた刀剣達がいっせいに顔を青くする


『旦那、もうやめてくれ折れちまう!!』比較的軽傷だった薬研が本科の背にすがったが、本科は後ろ手でそれを制しそのまま薬研を後ろへと押し戻す

ピシっ


次ははっきりとした音が響く

止めて、これ以上は駄目です、お願いだから、まだ俺たちは戦えるからと哀願する声をしりめに本科は最後の検非違使を倒すまでその刀を振り続けた

ぐしゃりと最後の一人を地面に沈めてから、本科は自分の刀を掲げ刀身を流し見た

少し離れた場所から見てもわかるほどにひび割れた刀身

振り向いた本科はうっすらと笑っていた

『悪いな、どんなにお前らに恨まれようと俺の為に傷ついていくお前らを見てられなかった。それくらいなら本来ここにいるはずなかった俺が消えた方がマシだ』


それが本科が言った最後の言葉だった


パラパラとまるでガラスのように光を反射しながら砕けていく刀身を呆然と見つめた

『…嫌だ、もう俺を1人にしないでくれ』

山姥切の泣き声が聞こえたと思ったと同時に不思議なことが起こった

ピシッ

中傷だったはずの山姥切の刀身にひびが入りそして本科の後を追うようにパキリと折れた

そしてそれを皮切りに次々と、まだ折れなかったはずの刀剣達が次々と折れていった


もし俺が審神者だったのならこの光景に発狂していたことだろう

今までそこにあったモノたちがいなくなる

その光景に涙が流れるが、頭の中でストンと納得している自分がいた


この本丸は本科の為の本丸だった

歴史修正者達を倒す為でもない、歴史を守る為でも、ましてや政府の為の物でもない

自分達を救ってくれた人の子の為に神様達が作り出した優しい本丸

それがこの本丸の正体だった


チャリ

金属同士が触れる音がして俺は音のする方へ向き直る

視線の先には地面に散らばった本科の欠片を集めている小さい山姥切がそこにいた

『……ちび広、一体何をしてるん、だ?』

『本科を集めてる、こんな所に本科を置いては行けないから』

『……行くってどこに?』

『もう、二度と離れないよう一緒に溶けて鉄になるんだ』

そう言い邪魔をするなとばかりに細められた目に俺は唾を飲み込む

『それはいいね、じゃあ僕も手伝うよ』

『そうだな、俺らもそれにのっかかるとするか、岩融、お前はまだ折れてくれるなよ

ちびどもは自分以外の刀剣の事を置いていこうとするだろうからな、折れてしまった皆を1人で炉まで運ぶのは爺には骨がおれる』

『ああ、誰か1人でも置いてけば未練が残る、全員連れていってやらねばな』


小さな燭台切が山姥切と一緒になって本科の欠片を拾いだし、三日月と岩融が折れていった刀剣達を集め本丸の中へと消えまた戻ってくる

何度それを繰り返しただろうか


『二人とも切りちゃん集め終わったよ』

小さな手を血だらけにしてなんとも嬉しそうに燭台切が言った

『そうか、では俺らも行くとするか』

いつもと変わらない朗らかな声色で三日月はそう言い、本丸の中へと足を進める

少しずつ離れていく4人の後ろ姿に向かってたまらず俺は口を開いた


『間違ってる、本科はお前達を助けるために折れたんだ。それなのにお前らが生きることを放棄したら本科が折れた意味がなくなる』

止めれるとは微塵も思っていなかった

それでも、誰かが、本科の最後を見ていた俺が言わなければと思った

『そうだな、無駄死にする俺らをややは怒るだろう。だが何が悪いと言うのか、誰も守ってなど欲しくはなかった

あの子を守って折れることが俺らに許された最大の誉だったものを、その機会を失い愛おしいあの子を失い、どうして生きていけというのか』

言葉面は激しいものだったのに三日月の声はとても落ち着いていた

その声にほんの少しの感情が乗っていれば、まだ頑張れたのかもしれない

まるで遠くを見るように落ち着いた声は、俺ではこいつらの感情ひとつ目覚めさせることができないのだと物語っていた

『やめておけ、俺達に人の気持ちがわからぬように、お前達に俺達、モノの気持ちがわかるはずもない』

岩融が一瞬だけ気遣わしげに視線を俺に向けたが、その視線は早々に本丸へと戻る


ああ、いつの間にか小さな二人の足音も声も聞こえなくなった


先ほどまで確かに聞こえていたものがなくなったことに気付き、その意味に歯を食いしばる

ふと三日月が立ち止った

立ち止った三日月に岩融が先に行くと声を掛け、三日月はそれに小さく頷き振り返って俺を見た

『もし、俺らを憐れに思うのなら俺らが溶けた鉄で刀など作ってくれるなよ。俺らはもう刀になどなりたくない』

薄く口元に笑みを浮かべながら三日月は言った

『……じゃあ、お前らは何になりたいんだよ』

刀であった事は彼ら刀剣男子にとっての誇りだったはずだ、それなのに


俺の問いに三日月は口元の笑みを濃くする

『………そうだな、もし許されるなら長義と同じ人に』

三日月はそう言い、もう二度と振り返る事なく本丸の中へと消えた


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