平凡くん。千尋×真琴←要←宮城→真琴

小日向 奏
@kohinata_kanade

目線(宮城 涼)「恋しい」

とある日の休日。

俺は用事ついでに、長瀬組の事務所に寄ることにした。

あ〜〜、可愛い俺の弟に会いてぇー。


鼻歌まじりにビルの一階の玄関をくぐると、俺に気づいた構成員達が「宮城さん、お疲れさあっす!」とドミノが倒れるように頭を下げていく。


事務所の奥でヒロと談笑していた真琴は、その大きな挨拶の声で俺の存在に気づき、こちらに目を向ける。

が、ふいっと興味なさげに目をそらし、ヒロに再び話しかけ始めた。


ひでぇ……!放置プレイですか、まこちゃーん。

仕方がねぇから、真琴達から10m離れた位置にいる要くんに話しかけてみる事にした。



「要くーーーん。元気?」


「うぇ…っ!? あ、はい」


「相変わらずぼっちだな。若頭のお気に入り若手側近だと、みんな距離の取り方分かんねーもんな。

かわいそうに、よしよし」


「ちょ…!お尻さすらないでくださいっ」



いい撫で心地。

程良い柔らかさを堪能した後、少し真面目なトーンを装って要くんに話しかけてみる。



「要くんってさあ……」


要「はい…?」



ごくりと唾を飲み、訝しげな表情で俺を見つめる要くん。

若干上目遣いで可愛いー。


俺は3拍ほど間を置いた後、へらっと笑って要くんの背中を叩いた。



「本当に可愛いなー!すんげーイケメンなわんこ。俺も飼いて〜!」


「はあ…」



真琴なら「意味深な前置きやめろ」って怒るんだろうが、要くんはほっと安堵の表情を浮かべて吐息を漏らす。

若干、呆れてはいそうだが。



「そういやさ、要くんってノンケ?それともやっぱ男もイケんの?」


「え?ぁう…」


「タチ?ネコ?つーか童貞?えっちいことするときはリードされたい?それとも本能的にぶちかましちゃう感じ?」


「そ、そういう質問は困ります…っ」


「ベッドの上の要くん見てみてえ〜!」



赤面しながら、両眉をひそめて慌て出す要くん。

ちらっとヒロ達のほうを見ると、俺に絡まれてる要くんの方に真琴がちらりと目だけを向けていた。


ふーん。常に気にかけてもらえてるわけね。へー、そーなんだ。

弟の目線からかっさらうように、俺は要くんの首に片腕を回すと、声をひそめて耳打ちをした。



「ちなみにさあ……手は出したらいけねーけど、真琴は?真琴とはどーしたいわけ?えっちいことしたい?」


「…!わ、若は尊い存在ですので、俺なんかが手を出していいわけないので、その…」


「妄想はタダだろー。ほら…言ってみろよ。

真琴とナニしたい?ほんとはヤりてぇんだろ?」


要「…っ!」



ほら、つっつけばすぐ傾く。

片想いなのに、ましてや相手には恋人がいるのに、その人を想い続けるなんて中々できねーもんよ。


要くんだって……本当は…。



「下心あるのに黙ったままだと、むっつりスケベ認定しちゃうぞ〜?」


「違…っ、俺は…その…。

……せっくすまではいかなくても、き、きき…キス、くらいは…したいと…」



顔を赤らめ、消え入るような声で呟く。

俺はそんな要くんの耳元で嘲笑して文句をつける。



「聞こえねーなあ。もうちょい声大きく頼むわ」


「き、キスがしたいです」


「誰と?」


「わ、若と…」


よし、乗ってきた。

間髪入れず、要くんに畳み掛ける。



「繋げてもう一度!」


「若と、キスがしたい、です」


「声ちっさいな〜。要くんの真琴に対する想いはそんだけなわけ?」



煽り言葉をおくり、要くんの顔を無表情で覗き見る俺。

そんな俺に屈することなく、頭に血が上った要くんは食ってかかってきた。




「な……っ!違います…!俺は、俺は……!」


「じゃあもう一度、大きな声で!さんはい!!」


「ぅ〜…っ!──俺は…っ、俺は!!若とキスがしたいですううう!!!」



両手に拳を作り目をぎゅっとつぶった要くんが、事務所に響き渡る声で赤裸々に告白する。


構成員達の間にびりりと電流が走る中、少し離れたところにいた真琴は頓狂な声を上げた。



「……え?はあ?」


「ああ”?」



真琴の声に被さるように、ヒロが唸り声をあげて要くんを睨みつける。

刺すような姿勢を送られた要くんは、肩をすくませ、首を左右にぶんぶん振り始めた。



「アッ…!?いや、これは、その……!」


「要。来い」


「ヒロさ……っ、違、違うんです、これはただの妄想で、ごめんなさい、ごめんなさ──」



泣きべそをかきながら、引け腰でヒロの元へとへろへろと向かう要くん。

その可愛い子犬ちゃんを、俺は「ひゅ〜」という口笛で見送った。



──ゴンッ

鈍い音と共に、「ぎゃん」と小さな悲鳴が鼓膜を揺らす。

うわ〜、痛そー。



「あうぅぅぅ〜〜〜〜っ」


「……悪ぃな。おさまらねぇからもう一回殴らせろ」



にこやかにヒロと要くんのやりとりを眺めていると、真琴が眉間に皺を寄せて歩み寄ってきた。



「宮城。俺の犬でからかって遊ぶな」


「だって〜あんまり可愛くてさ」


「可愛いつーか……単にうらやましかったんだろ、やきもち男」


「……!」



的を突かれ、どきりと心臓が音を立てる。

相変わらず……鋭い。


俺が真琴のことをきょとん顔で見つめていると、目の前の少年は伏せ目で声のトーンを落とし囁いた。

薄桃色の唇が妖しげに艶めく。



「それとも…お前も千尋さんに殴られておくか?

宮城は俺にキスをした、とってもわるーいお兄ちゃん…だって」


「……!たぎる!えろ!じゃなくて、つかまじですみませんしたーーー!」



手のひらをぱんっと合わせ腰を軽く折って平謝りする。

そんな俺にため息を浴びせた真琴は、背中を向けて立ち去ろうとする。


が、突然踵を返して、俺の首の後ろに手をやり、ぐっと引き寄せてきた。



「いでっ!? もー、何すんだよ」


「……心配しなくても、俺はちゃんとあんたの事を見てるよ。…宮城」


「──…」



はっと思わず息を飲んでいると、真琴は微苦笑をもらし、俺の首からするりと手のひらを滑らせて背を向けた。


思わず、その小さな背中に手を伸ばしかける。

が、俺はその手をゆっくりと下ろし、弟の姿を目だけで追いかける。


真琴はヒロの元へ戻ると、要くんを守るように二人の間に割って入った。



……恋人、飼い犬。

あの二人は、いつも真琴のそばにいることができる。


でも、”兄”の俺は……。

これ以上の幸せは望まねぇ。けど…。



「……恋しい」


そう、ただそれだけ。