あの子は作家なヒーロー志望

ミケ
@mike_OwO

あの子は作家なヒーロー志望1

この小説は夢小説 (名前変換ができる小説) です。
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夕日が差し込む図書室の隅で、一人の少女が唸っていた。

彼女の目の前には一枚の大学ノートがある。それは何度も書きなぐられ、消されての繰り返しで少し薄汚れていてよれてしまっている。


「……なんだか、思っていたのと違う」


脳内で繰り広げられている温かくて優しい物語のはずなのに。

それをそのままに書いた…のだけど。だが目に入るのはなんとも陳腐な寸劇で。…こんなの幼い子供だって放り投げてしまうだろう。


「うああぁ、これもお蔵入りかなぁ…」


遂には頭を抱えて机に突っ伏した。

これが上手く出来なければ、また授業で酷評されてしまうかもしれないのに。前回はペアだった幼馴染みがフォローしてくれたからまだ良かったものの、次もまたペアになれるとは限らないし。

もしも担任があの相澤であったら既に除籍されていたかもしれない。


「やだな、どうして上手く書けないんだろう…」


閉じていた瞼の裏が熱くなり、閉じる力を強くする。

いちいち泣いていたらキリがないでしょ。そう自分を叱責してみるけども、あまり効果は得られなかった。グスリ、鼻を鳴らす。

別に今日くらい泣いてもいいじゃない。ちょうどここには私しかいないし。

心の中でもう一人の声が聞こえる。……うん、今日くらい。今日だけだから。

集中するためにかけていた眼鏡を外し、机に突っ伏したまま感情に任せて、ジワリと滲むものが瞳から溢れたときだった。


「……あ゛?」


物凄く怖い声が聞こえた。たった一文字だけなのにそれはもう、ものすっごく恐ろしかった。

鬼も裸足で逃げ出すと思う。…あれ、鬼っていつも裸足だったっけ?

いや、そんなことよりも。待って。ここには私しかいないとさっき思っていたじゃない。

入室した時には図書委員も担当の先生もいなかった。…うん、ここには自分一人しかいない。


「チッ…人いんのかよ」


……はずだった。

もしかして、もう完全下校の時間を過ぎていた?この声の主は鍵を閉める前に確認に来たのかな…寝ていたかと思われたかもしれない。

先程より近くで聞こえたそれにビクつきながら、慌てて袖で目を擦って顔を上げる。


深紅の瞳が私に向けられていた。


鮮烈で、情熱的な赤。光が差し込むと燃えるようにキラキラと光って、とても綺麗。

生まれてから沢山の色を見てきたけど、こんなに目を引く赤はないなぁ。宝石とは比べ物にならないや。

うん、とても綺麗。


「ああ!?何ジロジロと見てんだテメェ!!!」


「ひえっ!?」


そんな私をつゆ知らず、惹きつけた瞳の主は苛立ちを隠すことなく声を荒げる。

漸く我に返り、そこにあった般若のような形相を見て震え上がってしまうのだった。




「……なんだぁ、まだ時間あったんですね。良かった」


そっと安堵の息をつく。

彼は鍵を閉めに来た図書委員ではなく、利用するために訪れたらしい。どうやら自分の勘違いだったみたい。

それにしても、薄い金髪のツンツン頭、ネクタイを外し腰パンの着崩した服装に、これでもかと不機嫌そうに寄せている眉……つまり、如何にも不良な姿の彼が図書室に用があるとは。これがギャップというものか。

心の中でフムフムと頷きながら、さり気なく…本当にさり気なく開いたままだったノートを脇に置く。未完成であるし見せられる程の内容ではないから。


「………」


だがこれは失敗だったようで。ノートが控えめに動く様子を目敏く見つけた彼は訝しげにそれを見ていた。




机の上にはノートと筆記用具だけ。問題集や教科書類は見当たらない。

つまり自習している訳ではないと判断した少年―――爆豪勝己は、どこかで見たような既視感を感じ(何コソコソしとんだコイツ)……不意に思い出してしまう。

幼馴染みの無個性……だったアイツ。


途端に気分は急降下する。オドオドしている様子が奴と被って更に彼を苛立たせた。

その感情に従い、勢い良く左手を伸ばす。少女は彼の行動に驚いているだけで、大した反応は出来ていない。


以前デクにしたように、この女のノートも自分の個性でボロボロにしてやろう。

素早くノートを引っ掴み、空いている右手で―――


「…………」


爆破するつもりだった右手が火を吹くことはなかった。

その前に視界に入ったものが衝撃的過ぎた。


“来る日も来る日も広い広い海で彼は探し物をしていました”


乱暴に取ったせいか、ページが捲れてその中の一部が見えてしまったのだ。一瞬だったが、自分の動体視力ならどうってこともない。…いや、今それはどうでもいいことだ。


来る日も来る日も広い広い海ぃ?繰り返し使いまってウゼェわ。つか海が広いのは当たり前だろが。


「………………ヘッタクソだな」


変なものを見てしまった。その心情を含んだ言葉が口から零れた。


「っ、返して!」


ヘタクソ女が思わず悲鳴を上げてこちらに手を伸ばしてきた。その直後だった。


「……は?」


自分とヘタクソ女の間に鯨が現れたのだ。………子供の落書きのような雑さで見れたものではないが。

その巨躯に思わず一歩距離を置く。鯨はチラリと横目で見てから悠々と泳ぎ始めた。雑なので様になってない。


「…んだよアレ、てめェの個性か」


一瞬、本当に一瞬だけ虚を衝かれて身体が固まったが、すぐに持ち直す。

ここには俺とコイツしかいない…つまりはそういうことだろうが、一応確認はしておく。


「え、ええと…そうで、す。」


個性を使ったと思われる当人も驚きを隠さずに視線をあの鯨に向けていたが、こちらが声をかけたことで状況がわかったらしい。


「“ストーリーテラー”と言いまして、その、考えた物語を具現化させる個性で、それで………上手く出来ないとあのようになるんです」


俯いてモゴモゴと話すヘタクソモブ女。

視界の隅で鯨が相変わらず自由気ままに泳いでいるのが映ったがそれを無視して、ノートを突き返す。既にやる気は失せていた。


「え、あ。……ありが、とうございます」


奪った相手に礼言うんかよ、アホかコイツ。