赤いゼラニウム

柚餅子
@akg_165

もう一度この場所で

ーピピピピ、ピピピ


「んー、うるさい」


手を伸ばして必死で目覚ましを止めようとする。しかし時計は手に届く範囲になくて結局ベッドから起きてしまった。


「うーん、なんだよもう」


目が覚めた筈なのに体を起こすのがだるくて、眠りの余韻に浸る。落ち着いたブラウンのカーテンから射し込んだ朝日は柔らかかった。目を閉じて、右腕で目許を隠す。


「眠い……」


俺は、生きている。

いや、正確には死んで生き返った。

上坂瑞樹は確かに死んだんだ。


しかし、死んだと思ったら生きていたのだ。どういうことなのか。気がつけば赤ん坊になっていたのだ。どうしたものかと思った。だって、こんなこと望んでいなかったし、まさかこうなるなんて誰が予想できたか。


しかしまぁ、輪廻転生してしまったのなら仕方ない。俺は体が動くようになってからこの世界のことを調べた。

その結果わかったのは、この世界は、俺のいた世界よりもっと前の二十一世紀半ばらしいことだった。しかし歴史が微妙に違っていて、ここが元いた世界じゃないと分かった。なんというか、昔に習った歴史や有名な文学の内容や世界地図がほんの僅かに記憶と違うのだ。だが、物理や生物といった原理的なものは何も変わらない。


ここは似ていても、違う世界なんだ。


この世界で上坂瑞樹が存在していたという証拠は、たったのこれっぽっちも存在していない。もちろん光太郎さんも。


俺だけが光太郎さんを知っている。


今の俺は高校二年になったばかりだ。

流石に勉強は病院内でだけど一度やったことがあるわけで、スムーズに成績をあげることができた。顔に関しては変わってないからなんとも言えないが、普通よりは整ってる方だと思う。


文句を言えば、背が小さいことだな。

165しかない身長は物足りない。男としてはもう少し欲しかった。前世では170はあったから尚更だ。


「二度寝しよ…」


転生したばかりの頃は絶望した。

死ぬことも許されずに、光太郎さんのいない世界で生きていかなければならないことがとてつもなく寂しかった。だが、心の傷も時間が癒してくれて、かさぶたとなって、ついに傷跡となった。


光太郎さんのことはまだ忘れていない。けど、今はもう過去のこととして見れる。今の俺はただの高校生だ。



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