【お題】背筋を伸ばして

カエ
@kae_niji

背筋を伸ばして

普段は気にしたこともない路地裏。

少し暗くて、少しだけ嫌な感じがする。

だけと今日私はその路地裏にいた。

何故かって?以前一時保護した子にそっくりな子がいたからだ。

だからと言って本人(?)とは思ってはいなかったけど。

路地裏の入口から奥までその猫についていくと、弱々しく鳴く猫。

あぁ、この子があの時の子だ。


「どうしたの君。また虐められちゃった?」


話しかけるとなぁーおと小さく鳴いて、目を閉じた。

ぐったりとしていて、よく見ると傷も多い。

頭の端で、きっと助からないという考えが浮かぶ。

私をここに連れてきた猫が不安そうに私を見上げて悲しそうに鳴く。

悲しいその声にハッとしその子を抱き上げて走る出した。

この近くには前にお世話になった動物病院がある。

このまま静かに眠らせてあげた方が良いのかもしれない。

だけど、放っておけない。

解ってる。ただのエゴだ。だけと、それでも。元気になって欲しい。







結局助からなかった。病院に着いた頃にはもう心臓は止まっていた。

元の路地裏に戻ってくると、あの時の猫が寄ってきた。

しゃがんで、抱き抱えた子を下ろしてあげた。

きっとこの子の友達だったんだろうな。

ごめんね、助けられなかった。


暫く2匹を眺めていると、人の気配がして顔をあげた。

猫背な男の人が、じっとこちらを見ていた。

男の人の足元には、猫が数匹すり寄っている。

猫がきっと好きな人なんだろうな、猫があんなに寄ってくるなんて。と考えながら抱上げて立ち上がる。


「あの、この子のこと知ってますか」


「……」


彼が無言で頷いたのを見て、話始める。

彼は興味はないかもしれないけれど、私が聞いて欲しかった。

なんて自分勝手なんだろう。


「この子、半年前に見つけて。怪我してたんです。病院に連れていって、怪我が治るまで一時保護したんです。大家さんに治るまでしか許可もらえなくて、あの時、私が飼えるように、契約内容変更していれば、この子はもしかして、こんなに…苦しまなかったかもしれない……でも、私しなかったんです。迎えに来てくれた子がいたから。きっと大丈夫だ、なんて…勝手に思って…」


この子と別れたとき、きっと迎えに来てくれた子は今日私をここに連れてきてくれた子なんだろう。

助けられなかった悔しさと、あの時の後悔で涙が溢れる。

言葉が進むにつれて涙が増えて、俯いてしまう。


「ありがとう」


目の前の彼から発せられた言葉に思考が停止する。

ありがとう…?


「こいつ、きっとあんたに感謝してる」


「…ありがとうございます」


「こいつは俺が埋めといてやるからあんたは帰ったら?…服、汚れてる」


そう言われて初めて自分の格好を見る。

泥と、この子の血とでドロドロになっていた。

この格好で街中を走っていたんだ…道理で戻って来るとき周りが見てくると思った…


「あの、この子の最後、お願いします。」


今度は真っ直ぐ、彼を見つめて。

この子とはお別れだけど、きっと彼もこの子を可愛がってくれていたんだと思うから。

彼に、最後を託したい。

抱えていた子が彼の腕に移る。

ごめんね、ありがとう。さようなら。

彼の腕に移った子の頭をもう一度撫でた。これで最後。


彼の背筋が少し伸ばして、静かに頷いた。

もう一度お願いします、と呟いて路地裏の入口に向かう。

後ろから、小さな声で「俺からも、ありがとう」と聞こえた。