ずっと先の未来の話

続・見た目の話

ノーデン地方最大の街、シュニーベルク。

最大と言っても首都のシークティネスと比べれば小さいが、小さな村がぽつりぽつりと点在するノーデン地方の中では唯一街と呼べる大きさをしていた。


「実は和也くんに会わせたい人がいてね」


「この街にいるんですか?」


「おそらく」


「おそらく…」


「何十年も会ってないからな。…あ、」


焔羅が青果店の前で足を止めた。様々な野菜や果物があり、店先では女店主が果物を並べている。首都ではよく見る光景だったが、植物の育ちにくいノーデン地方ではこういう店は重宝されるだろう。

焔羅は並んでいる果物をじっと見つめていた。


「買うんですか?」


「え?ああ、お土産にでもしようかと」


確かにアポなしで会いに行くなら手土産くらい持っていったほうがいいかもしれない。だが和也のお土産のイメージはお菓子やタオルなどで、寒いノーデン地方で生の果物は考えていなかった。お見舞いならまだしも。


「その人果物が好きなんですか?」


「ん……まあ、好きだと思う」


「(………これは、)」


和也への返答もそこそこに果物を手に取って見定める焔羅。そこへ女店主がにこにこと話しかけた。会話をする二人の様子を見ながら和也はピンときた。

果物が好きなのは、焔羅本人であると。


「……何笑ってるんだよ和也くん」


「いえ、俺はりんごが好きです」


「あら!りんごならいいのがあるわよ!」


「美味しそうですね。食べたいです」


「そう?じゃあ買おうかな 」


あれよあれよと果物が袋に詰められていく。もはやお土産の量ではない。

たくさんお買い上げの客に店主は上機嫌だった。


「坊やたち可愛いからおまけしてあげるね!」


「ありがとうございます」


可愛いとは初めて言われた。おそらくほとんどが焔羅に向けられた言葉なのだろうが、それにしても焔羅は店主よりもずっと歳上なのだ。不思議な光景である。

そしていずれ自分にもこういう日が来るんだろうなと思った。








そこは活気のあった商店街を抜けてしばらく歩いたところに存在していた。レンガ造りの小さな家だった。


「留守みたいだな」


「?」


家を見上げていた焔羅が突然呟いた。チャイムを鳴らすこともノックをすることもしていない。


「あの人は存在感っていうのかな。いるとすぐに分かる」


それはどんな人間なんだ。

和也の頭の中でこの家の住人が想像されていく。存在感があるってことは、大きいのだろうか。

和也の中で巨漢で強面な人物が出来上がったとき、焔羅が髪を揺らして後ろを振り返った。和也も連られて同じ方向を見る。


「おや、」


今しがた帰ってきた、という風貌の男性が立っていた。焔羅の姿を見て穏やかな笑みを浮かべる。

その瞬間和也の想像の人物が崩れ去った。


一言で言えば、紳士だった。


「お久しぶりですね」


「お久しぶりです。お元気そうで良かった」


見た目に違わぬ穏やかで丁寧な物言い。彼はローブを揺らしながら近寄って来た。

そして近寄ってきた紳士の姿を和也が視界に入れて目を見開く。

鋭い金の瞳。顔や首に広がる淡い緑の鱗。

焔羅の言う存在感の意味が分かった気がした。神秘的な雰囲気の紳士は、ついていた杖を脇に抱えて焔羅と握手をする。その手にも鱗が広がっていた。


「突然どうしたのですか、と言いたいところですが。お連れ様がいるようですね」


「ご察しのとおりですよ。彼を貴方に会わせたかったんです」


「そうですか。さ、寒いでしょう?中へどうぞ」


鍵を開けた彼は二人を家へ招き入れる。

状況を把握出来ない和也は戸惑いが勝ってしまい、その場で足踏みをしてしまう。

それを見た彼は和也にも穏やかな微笑みを向けた。


「お話は中で。はらからに会えて私も嬉しいのです。あまり高くないので頭に気を付けてくださいね」


その言葉に後押しされた和也はその扉を潜った。初対面で角への気遣いまでするなんてとてもいい人なんだろう。

そのやり取りを見ていた焔羅が小さく笑った。