ずっと先の未来の話

見た目の話

この時期のノーデン地方の日没は早い。気づけば辺りは薄暗く足元さえ見づらくなっていた。

この暗い中雪山を越えるのは流石に無謀だ。本当はすぐに帰るつもりだったのだが、焔羅の勧めもあり今日は泊めてもらうことにした。


「和也くんの部屋はここ。最近使ってないから何もないけど。今布団持って来るから」


「あ、自分でやりますよ」


「そうか?」


布団が置いてある部屋へ案内してもらいシーツと毛布を出して先ほどの部屋まで運ぶ。ベッドにシーツをかけ終わったところで焔羅が羽毛布団を持って現れた。


「ありがとうございます」


「夜は冷え込むからね」


焔羅によれば聖獣の羽毛で出来ているものらしい。普通のものより暖かいのだとか。

その後も和也が毛布を敷けば焔羅は枕を持ってきたり、その上に羽毛布団を敷いてベッドが完成したらお風呂の準備をしてきたと着替えとタオルを渡された。

なんだか、人を世話し慣れてる感じだ。


「なんか色々すみません」


「いいんだ、俺がやりたくてやってるんだから」


「楓さんにもこうしてたんですか?」


「和也くん結構意地悪だな」


そう言いながらも照れ臭そうに小さくそうだよと返す焔羅は和也にも可愛く見えてしまった。楓という人物が焔羅を好きになった理由が分かった気がする。


「一番風呂行っておいで」


「(新妻…………)」


その言葉はさすがに飲み込んだ。













「和也くん流石力持ちだね」


翌朝、夜間に降り積もった雪が家の入口を塞いでいたため、朝食を食べたあとに二人で雪掻きをした。とにかく焔羅の家のまわりだけでも歩けるようにしなければならない。

雪掻きと言っても、焔羅が魔術で寄せた雪を邪魔にならないところへ積み上げるだけの作業だ。しかし、結構力がいる。

和也はパーンの血が入っているため普通の人間よりは力がある。


「和也くん、それ積み上げたらこっち来て」


言われた通りに家から少し離れた場所に立つ焔羅の元へ向かうと、焔羅はぱちんと指を鳴らした。瞬間、屋根に積もっていた雪が一気に滑り落ちドサッと鈍い音をたてる。


「よし、終わり」


「豪快ですね…」


「楽でいいだろ?実は難しくてすんなり出来るようになるまでは時間かかった」


「雪を落とすのがですか?」


そんなに複雑な魔術ではないような気がするのだが。


「雪”だけ”を”全部”落とすってのがさ。屋根ごと落としたこともあるよ」


「え、屋根ずり落ちたんですか」


「うん。さすがにその時は慌てた」


屋根がずり落ちた家の前で慌てる焔羅の姿を想像した和也は思わず噴き出してしまった。咄嗟に手で口を覆ったが既に遅い。

少し拗ねたような目で和也を見遣った焔羅は、それでも楽しそうに笑った。


「和也くん笑うと可愛いな」


「はっ!?」


「歳相応って感じだ。うん。クールなのもかっこいいけど、笑ってる顔のほうが好きだな」


「……あ、ありがとうございます」


焔羅のことだから他意はないのだろう。しかしこうストレートに褒められると勘違いする人も出てきそうだ。

もしかしなくても天然たらしか、この人。

楓さんの苦労が目に浮かぶ、と和也は会ったこともない人物に同情してしまった。

しかし実際は楓が焔羅を遥かにしのぐ天然たらしっぷりだったため、苦労したのは焔羅のほうだったのだが、それを和也が知る由もなく。


――屋根は楓が直してくれた。笑い転げながらね。

そう話す焔羅の顔を見れば他の人間の入る隙などないことは明らかだった。



そんなこんなで雪かきを終えた二人は家に戻り身支度を整える。近くの、といっても山を越えた先なのだが、街へ行くことになったからだ。これは焔羅が朝食を食べながら和也に提案したことである。


「……焔羅さん目悪いんですか?」


「え?ああ、これ?」


焔羅はさっきまではかけていなかった眼鏡に指先を添える。

和也はそこで、焔羅の瞳が黒いことに気がついた。


「もしかして」


「察しがいいな。変彩眼鏡だよ」


かけると瞳の色が変わって見える魔道具だ。やはり焔羅の赤い瞳は目立つようで、人のいるところではいつもかけているのだという。


幸いにも今日の天気は快晴、氷点下ではあるが昨日よりは幾らか気温も上がった。街へ行く手段として空を飛んでいく、という選択肢もあったが、いくら青空だからといってこんな気温の中空中に留まったら凍ってしまう。

無難に炎馬を召喚することになった。


吹雪いていないおかげで昨日よりも速いスピードで炎馬は進んだ。炎に覆われた体はポカポカと暖かく、険しい雪山越えがそこまで苦ではなかった。






「雪国での炎馬は心強いな」


炎馬を撫でながらそう言った焔羅は、街まで乗せてくれたお礼にと炎馬の好物の木の実を渡していた。


街を歩きながら焔羅はキョロキョロと辺りを見回す。


「ウン十年ぶりの街だ」


「やっぱり、変わってますか?」


「うん。全然ちがう。建物も、人も」


和也から見れば普通の街だ。人々は和也の頭の角を不思議そうに見ながら通り過ぎていく。いつものことだった。


「和也くんは目立つね。いい意味で」


「そうですか?」


「昔はそうはいかなかったよ。先祖返りは必死に自分の体を隠して生きてた」


昔の人々は自分たちと違うものを酷く嫌う傾向にあった。瞳の色や肌、角や尾など、普通の人間とは違うものを持っている先祖返りたちは肩身の狭い思いをしていた。

和也のように、堂々と街を歩くことは出来なかったのだ。


「いいことだと思うよ。和也くんの角のかっこよさに気づく人も多いだろうし」


「たまに言われるんですけどかっこいいですかこれ?」


「ヤギの角は強さの象徴だしな。強そうに見える」


そう言えば梅さんも同じようなことを言っていた。

学生時代に告白してきた女の子は守ってくれそう、なんて和也の性格を勝手に想像していたが、もしかしてそれも角が関係しているのだろうか。


「男としては羨ましいよ」


「でも、焔羅さんの目の色も強そうじゃないですか。綺麗な赤で。隠すの勿体ない」


「え?」


焔羅が立ち止まった。和也もつられて立ち止まる。

不思議そうに和也を見てくる焔羅に、何か変なことでも言ってしまったのだろうかと不安になっていると、彼はふわりと笑った。蕾が花が開くような、あの微笑みだった。


「和也くんモテるだろ」


「は、」


「嬉しいよ」


じゃあ、眼鏡外そうかな。

焔羅はそう言って眼鏡を外した。元通りの綺麗な赤色が和也を捉えた。


どうやら焔羅は和也の言葉に喜んでくれたらしい。


そのまま歩き出した焔羅のあとを追いながら、度々可愛い人だな、と和也は思った。

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