国語の教科書で見かけた人たち

100色@夢・ヲタ垢
@Hanab785100

運命の人

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 その日、私は運命と出会った。



 うちではご贔屓にしてくれていると言うことと、近いと言うことから探偵社にワンコインのランチサンドイッチ(カップコーヒー付き)宅配販売をしている。普通でセットで買うよりも200円安い。(当日10時まで電話予約)

 あまりにも探偵社に行きたくなかった私は率先して店の接客に専念していたが、ついにこの日が来てしまった。


 予約は4人。

 全員女性職員のようで、買ってくれた人の名前が領収書にかかれてある。この名前の人たちに渡せば良いわけだ。


 エレベーターで探偵社の階へと向かう。

 実は初探偵社なのでかなり緊張している。誰か先輩が付いてきてくれてもいいのに、お昼はランチタイムに突入しているので、人員は割かれない。

 先輩の話では名乗って入れば大丈夫らしい。


 そうこうしているうちに探偵社だ。

 普通のドアに「武装探偵社」と書かれているだけだが、ここが敦の仕事場である。


 ふぅーと深呼吸して、ノックをした。

 それから店の名前を告げて、宅配に来たことを言う。


 すると、出てきたのは、


「あら、カフェの新入りさんね」


 the事務という制服を身にまとった女性。

 ニコリと笑って探偵事務所に入れてくれる。

 ひとつ、会釈をしてお邪魔させていただいた。


「ちょっと待っててね」


 そう言うと、彼女はニコッとリップグロスののった艷やかな唇を三日月にして、事務所と書いた部屋へと入っていく。


 直ぐに彼女の「カフェの子来たわよー」という声がドアを隔てて聞こえてきた。


「あれ!どうしてここにっ!?」


 間抜けが現れたようだな。

 このバカっぽい声は敦で間違いない。

 というか、探偵事務所の構造自体が一望できるようになっているので、奇抜な髪型にありえない白髪の敦は入った瞬間に分かった。

 それから鏡花ちゃんも居る。

 うちの家主はいないようだ。茶化されても嫌なので丁度いいタイミングである。


 わたわたと寄ってきた敦にサンドイッチとコーヒーが入った箱を見せて言った。


「配達」

「あ、この時間になるといつも来てくれる奴だね」

「敦が買ってくれたら、この私が配達してあげるよ」

「い、いや…高いから…その、僕の財布には荷が重いって言いますか…」


 敦の財布はなんでかいつもカラカラだ。

 この間デート(敦と鏡花ちゃんwith私)したとき、足りない分をだいぶ貸してやった。


「おや、その子は………あれか、敦を追いかけてきてくれたっていう噂の」


 ふむふむ、と顎に手を当ててやって来たのは大人の女性。普通に美人だ。

 私が包帯だったら心中ではなくデートにお誘いしたい美人だ。

 真っ先に名を名乗り上げ、頭を下げる。


「こんにちは、初めまして。敦がお世話になっています。覚えが遅いですが、何事にも真っ直ぐで、人の為になると瞬発力が上がる優しい奴なので、」

「や、やめてよ!恥ずかしいから!」

「あっはっはっ!初々しいねぇ敦」


 こんな美人がいるとは聞いていないんだが。

 彼女は与謝野晶子さんと………与謝野晶子?どっか出ていたことある名前だが、残念ながら思い出せなかった。たぶん、文系の教科書で見たはず。


 与謝野晶子さんは快活な笑みをスッと引っ込めて、至極真面目な顔でこしょこしょと耳打ちしてきた。


「それで…大丈夫なのかい?」

「え?」

「あの太宰と一緒に住んでるんだろう。しかも、心中させられそうになったって敦から聞いてるよ」


 お喋り敦め。

 睨んでやったら「ひっ!」と馬鹿みたいにビビるので失敗したなと思った。

 なんと言おうかな。あんまり正直に言うのも包帯に伝わったら嫌だしなぁ。


「まぁ………問題なくて、逆に怖いくらいです」

「へぇー言うじゃないか」


 体を急に離したかと思えば、与謝野晶子さんはバシッと割りと痛めなダイレクトアタックをしてきた。

 雰囲気からそうかも知れないと思ってたけど、このひと手が出るタイプの姉さんキャラだ。


「そのくらい生意気なら大丈夫だね。何かあったらここに駆け込んできな」

「是非、お願いします」


 部屋を追い出されたときもここに駆け込んでいいだろうか。部署が違いますと門前払いされる予測しかないけど。 


「あ、すみません」


 その時、お財布を持った女性が事務局のドアから数人出てきた。

 丁度四人、theオフィスガールという風貌だ。

 順番に名前を確認して、サンドイッチとコーヒーを渡す。500円を貰って領収書を代わりに渡した。


「ありがとうございました」


 頭を上げて、撤収に入る。

 その時、敦と鏡花ちゃんが着いてくるが敦たちは今からご飯を食べに行くそうだ。


 敦がドアを開けてくれる。

 荷物で両手が塞がっているので、めちゃ有り難い。

 失礼しますと礼をして事務所の外へと出る。は~緊張したー。


「君でも緊張するんだね」

「何が言いたいの」

「え、えと……特に、ないで、…あっ」


 敦が「あっ」と言って見る先には和服の、


「……敦くんか」

「はい、社長はお昼を食べてきたんですか?」

「そうだ」


 和服の、


「僕達はこれから行ってくるんです。あ、そうだ、この子は前に話した幼馴染です」

「そうか、キミが」


 過去にこれ以上ないほど敦に「イイネ!」した。敦ナイスアシスト、神か聖獣か。

 和服の男の人。顔のシワを見るに歳は私よりかなり上そうで、推測40~50才。しかし、その壁のように大きな背はピンと釣り鐘で釣られたようにスッとしており、和服が和服が和服が和服が和服が和服が和服が和服が。

 和服から覗く鍛え上げられた腕が眩しい。

 浮き出る太い血管、ゴツゴツした関節、突出する喉仏、着崩したら見えるであろう太い鎖骨。

 なにより、この人の為だけにあるその美声。


「…どうし…、げっ!」

「…ゆるキャラみたい」


 敦が「げっ」なんて汚い声を上げる。耳が汚れるわ。

 鏡花ちゃんのコメントは何とも言えない。


「私は福沢諭吉。この武装探偵社を預かるものだ」

「ふ、ふくざわ…さん………」

「敦くんの事は任せてもらおう。彼もよく学び働いてくれている」

「ごっご迷惑をかけてないようで……その…、良かったです……はい」


 うっ直視できない!

 それどころか身長が高すぎて、ご尊顔がマジ太陽。なんだか弱々しい自分の声を聞いてると、ますます恥ずかしくて耳まで赤くなっている気がする。


「仕事中、引き止めて申し訳ない。これで、私は失礼させて頂こう」

「こ!こちらこそ…すみません……!」


 そう言って美丈夫はドアを開けて探偵事務所に入っていってしまった。パタン…と閉まるドアに名残惜しさすら感じる。


「…はぁ…かっこいい…好き…運命感じた…」

「…ああ言う感じの人がタイプだったのか。知らなかった」

「ふくざわ…さん。福沢諭吉さん。………ん?」


 運命を感じた人の名前を心に刻みつけようと呟いていたが、その聞き慣れた名前に気がつく。

 福沢諭吉?

 一万円札の?

 え、あの福沢諭吉?

 学問のすすめの?


 まぁ、そんなのどうでもいいか。


「あっ!こんなところにぃっ!!」


 変質者が現れたようだな。

 しかし、トキメキに心を弾ませる私にはただのハエにしか見えない。


「今日も一緒に出勤したのに、お店に行っても居ないから心配したのだよ?GPSも動かないし」

「え…」


 思わぬ発言にドン引きしたのは私ではなく敦だった。だから、なんでお前が…etc。

 包帯も失言したと気づいたらしく、態とらしい顔で口元を手で隠して言った。


「あっ…うふふっバレちゃった」


 完全にわざとバラしたようだ。

 だが、まぁ…そんなことはどうでもいい。

 塵よりも小さくどうでもいいことだ。


「太宰さん、あとで教えてもらいたいことがあるんです………」

「えっ……」


 こんなモジモジした私を初めて見たであろう包帯の驚く声が耳に入ってくる。それすらも恥ずかしい。

 ほてるように熱くなった両頬を冷ます為に手で抑えて、赤くなった顔を隠すためにやや下を見る。

 あぁ、こんな事聞くのもなんか恥ずかしい。

 何もかもが恥ずかしい!ドキドキする!


「……………もしかして、やっと?」


 両肩をガシッと掴まれる。

 下を向いて隠していたのに、長身をぐっと縮めて包帯は下から攻めてきた。

 今までで1番近い。

 彼は見たこともないほど凝視するように真面目な顔をしている。

 ちょ、まつ毛は入るから、それ以上近づくな。


 や、止めてよぉ…恥ずかしいのに。


「やっぱり運命だ!私達は何が起きても何度でも必ず結ばれる運命にあるとーーーー、」

「やっぱり運命ですよね!私はひと目見て福沢さんと結ばれる運命にあるとーーーー、」


 見事にハモった。


「「え?」」


 お互いに何を言ったか分からず、クビをかしげる。

 敦にも助けを求めるが、赤い顔で首を振られた。


 スッと包帯が離れる。


 私もすっかり恥ずかしさが抜けてしまった。


「なんて言いました?」

「キミはなんて?」

「福沢さんに一目惚れして運命を感じたので、あとで福沢さんのプロフィール教えてくださいと言いました」

「僕はキミが何時までもこんなところで油を売ってるから、同僚の子が怒ってるよって伝えたかったんだよ」


 完全に嘘だろう。

 なんとなく聞こえた言葉とか雰囲気とか諸々から違うことは分かるけど、ツッコむのもだるい気がして「そうですか」と流した。


「じゃ、失礼します」

「仕事頑張ってね」

  

 手をヒラヒラと振って、いつものニコニコした笑みを貼り付けた包帯。なんだか怪しいくらいにあっさりと武装探偵社に帰っていってしまった。

 軽く会釈を返して、私も敦たちを連れて一階に続く階段を降りる。


 階段を降りている途中、おずおずと敦が話しかけてきた。


「だ、太宰さんと妙に距離が近かったね…」

「近かったね。過去最高に近かった。お陰で何言ってたか分からなかったわ」

「私は分かる」


 鏡花ちゃんは分かったらしい。

 私も敦も分からなかったので教えてもらいたい。


「運命。必ず結ばれるって言ってた」

「え?それマジ?ガチ?いやだもぉ!包帯も正直にそう言ってくれればいいのにっ!保護者公認だよ!」

「うーん、まぁ…そんなような事だった気もするけど…違う気もするんだよなぁ…」

「言ってた」


 鏡花ちゃんがそう聞こえたならそうなのだろう。

 まさか包帯にまで援護射撃してもらえるとは思わず、私の口元は緩んで仕方がない。

 お店につくまでに元の顔に戻らないと。

 

「んふふっ、じゃっ!バイバーイ」


 敦たちに手を振って、ルンルン気分で私はお店に戻った。世界が色とりどりだ。

 世界はこんなにも美しく素晴らしいっ!


「まさか社長に恋なんて………誰も勝ち目ないよ」

「貴方はあの子が好きなの」

「えっ!?いや、どういう好きかは分からないけど…何があっても幸せになって欲しいって思うよ。僕に関わったせいで不幸ばかりだったと思うから」

「?不幸そうに見えなかった」

「今のは彼女に言ったらだめだよ鏡花ちゃん」


 まだ彼女のことを知らない鏡花に向けて「しーっ」と口元に人差し指を立てる。

 そんな自虐的なこと言ったら敦はまた殴られる。

 いや、もしかしたら「ホントだよ、バカ!」と怒られるかもしれない。どっちにしろ敦にいいことは無いので黙っていてもらえるのが一番の最善だった。


「……あの子の運命の人かぁ」


 一番最初に思ったのは「そう言うのに興味あったんだ」という漠然な驚きだった。

 孤児院に居たときは男とか女とか関係ない振る舞いをしていたので、敦には一周回って驚きだった。


「牛丼」

「あ、うん。行こうか、鏡花ちゃん」


 運命の人。

 運命とは未知。未来、将来。

 人間の意志にかかわらず、その身にめぐって来る吉凶禍福。めぐり合わせ。


 彼女にとっての「運命の人」とやらは、はたして彼女に幸せをもらたしてくれる者であるのだろうか。


 それとも………、


「今、戻りました」

「ご苦労さまです。でも、ごめんね、今忙しくてこれを5番テーブルにお願い」


 ホール一人で昼タイムをこなしていた同僚から助けを求める声がかった。

 今日はなんだか特別忙しいらしい。

 武装探偵で貰った代金をレジに入れて、厨房にある料理を運ぶことにした。


 メモを見ると5番テーブル、オムライス一皿と書かれている。


「お待たせしました。デミグラスソースのオムライスです」

「わぁ、美味しそう!ありがとうございます」


 運んだ先には私よりも年上の、推定20代前半の女性だった。

 薄化粧に好感のもてる黒髪で、すごく手入れされている事が伺えるキューティクルが眩しい。

 更に、女性の趣味なのかエレガントな今時ゴールド色の髪留めが激マブイ。これが清楚系美人。


「ご注文の品はお揃いでしょうか?」

「あ…。あの、1つ質問をしてもいいですか?」

「はい、どのようなご質問でしょう」


 と、一応は聞いておくが分からないことは「新人だから」と先輩に丸投げって寸法よ。

 横浜にだって全然慣れてないし、携帯だってないのに観光的な質問をされたら爆死だ。絶対に旅行雑誌読んでる観光客の方が詳しい。


 なので、私は彼女が言ったことをほとんど聞いているようで聞いていなかった。トイレがどこにあるか位ならば反射的に答えていたかもしれないけれど。


「貴方は「文豪ストレイドッグス」を知っていますか?」

「ぶんご…どっぐ?…申し訳ありません、それはどのようなものでしょうか」

「あ、いいえ。知らないのであれば大丈夫ですから」

「観光のお客様でしょうか?であれば、他の店員の方が詳しいので…、」

「いっ、いえ!いいんです、いいんです。ご丁寧にありがとうございます」


 お客様がいいと言うならこれ以上食い下がる必要はない。最後に決まり文句を言って退散しよう。


「申し訳ありません。それでは、ごゆっくりお寛ぎください。失礼します」


 彼女は笑顔で会釈してオムライスを食べ始めた。

 普通の客の一人として、なんの違和感もなく接していた。だから、ぶっちゃけると次に会う時には彼女のことを完全に忘れていた。


 まさか彼女が、横浜にはびこるギャングスター・ポートマフィアの構成員だなんて分かるわけもなく。


 運命の渦に巻き込まれることになる。