変化特異点  魔術戦争領域都市 日本

夜詩 蛇桜
@hebisakura

第3節-3 南東へ

 しばらく湖を眺めていた一行。その場には静寂が訪れていた。

 フードで見えないが、何処か顔を歪ませているアヴェンジャー。そして反対岸から戻ってきた零。何も言わずに沈んだ人型を見届けるダルズやレンズ。そしてマシュ。

 風が吹く。その風で踊る木々の葉音さえもうるさいと感じる静けさの中、フォウがマシュの盾の裏から顔を出した。

 マシュが首を傾げる。フォウは何かを伝えたそうに小さく「フォウ」と鳴いた。

 その鳴き声で立香は「何か忘れているような気がする」と思い始める。なんだっただろうか、考え込んで礼装のポケットに手を突っ込む。やや冷たい鉄が手に触れる。ああ、これは確かダ・ヴィンチちゃんがこっそり用意してくれたものだった。確か……ネックレス。

 ……ネックレス?

 ここでハッとなる。危ない。このアヴェンジャーを追っていた根本的な理由を立香はすっかり忘れる所だった。

「君に渡さなきゃいけないものが」

 危ない危ない。と思いながら立香はマシュに声をかける。彼女は小さく頷くとしまっていた十字架のネックレスを取り出して、両手に乗せると、そのネックレスをアヴェンジャーの前に差し出した。

「あれ、いつの間に外れてたの。ありゃと」

 ネックレスを受け取るとアヴェンジャーはそれを付け直す。その工程を見ながら零がふと問い掛けた。

「で、アンタ何者なんだ。あの敵の弱点知ってるって事は中々の強者って感じだけど」

 その問い掛けは的を得ていた。立香やマシュのカルデア一行はともかく、レンズや零やダルズと言った現地のサーヴァント達でも知らなかったことを、彼はさも当然のように知っていた。中々の観察力の持ち主なのか、それとも別に理由があるのか零は気になっていたのだろう。

 そしてそれは別のメンバー達も知りたいことだった。だが、アヴェンジャーは零の真面目な問い掛けに対してひらひらと手を振りながら。

「さあ~、どうだろうね。そこはみなさんの想像に任せるわ」

 あまりにも軽いトーンで答えた。煽られるような話し方に思わずイラッとしたのか、レンズから僅かに殺気が漏れる。やばいと思った立香とマシュが静止をしようとしたが、それは不要だとダルズが2人を止めた。

「それでは単刀直入に聞きます。面倒なんで。敵ですか、それとも味方ですか?」

 思ったよりも静かな声でレンズは言う。アヴェンジャーはそれを聞いて誰にも聞こえないような、小さな、小さな音で口端から少しだけ笑い声を漏らしていた。もちろん、それが誰かに聞こえていたとしても何が面白いのか、何が彼を笑わせたかなど分かるはずもないだろう。

 アヴェンジャーは笑っていない。それはのに立香は、何故か嘲笑っているような感覚に陥った。

「さあ」

 そのまま彼は答えになっていない答えを返す。思わず「はあ?」と低い声がでたレンズだったがわアヴェンジャーはそのままフワリと欠伸をしてしまう。彼女は埒が明かないと思ったのかそっぽを向きながら呟いた。

「狂化スキルでもついてるんですか」

「ついてるのは君だけどね!」

 すかさず突っ込みをいれたのはロマンだ。突然のロマンの登場に辺りがシーンとなる。気まずい(ロマンが)。

 ロマンは静かになったその場に対して何かコメントをしようとしていたが、それよりもはやくアヴェンジャーが口を開いた。

「さっきから気になってたけどさ、魔術の一環?」

 ロマンの声がした方へ歩くと、アヴェンジャーは不思議そうにそのあたりを眺める。だが何かあるはずもない。本来ならロマンが映し出されているのだが通信が悪い影響でそこにはロマンの姿がなかった。ジロジロと見るアヴェンジャーに対してロマンは咳払いをしたあと答え始める。

「そういうことにしておこうか。ボクはロマニ・アーキマン。そこにいるのはマスターの藤丸立香とそのサーヴァント。マシュ・キリエライトだ。ほかの3人はここで出会ったサーヴァント。レンズ、胡麻田零、ダルズだよ」

「え……求めてもないのに自己紹介された。でもそーゆーのされちゃったらこっちも名乗るしかないな~」

 アヴェンジャーがフードを外した。黒い髪に毛先にかけて白くなっていく不思議な髪色をしていた。

 顔立ちもやはり中性的。男性にも見える気がするし、女性にも見える気がする、なんとも断言しがたいもの。まあ、正直なところサーヴァントの性別はどちらでも構わないのだが。

 フードを取った時に少し乱れた髪を頭を軽く振り直す。

「オレはアヴェンジャー。死導者ウリエル。まあ適当によろしく」

「本当にアヴェンジャーなんですか?」

「うん」

 反射的に問い掛けたマシュに小さく頷きながら返すウリエル。確かに霊基はアヴェンジャーで間違いはないのだがアヴェンジャーという感覚があまりしないのがマシュの本音だった。

 アヴェンジャーと言えば復讐者だ。何かを憎悪する存在だ。それにしては何処か静かな印象を受ける。

「なんか、今まで見てきたアヴェンジャーの中でも1番アヴェンジャーらしくないかも」

 立香が言うと、ウリエルは「そうかな」と首をかしげた。

 立香が見てきたアヴェンジャーは2騎だ。1騎はジャンヌ・ダルク・オルタ。聖処女ジャンヌ・ダルクが反転し、救ったはずの祖国フランスを憎悪する存在となって召喚されたものだ。彼女も何処か抜けたところはあるがただならぬ気配は確かにアヴェンジャーそのものである。

 もう1騎は巌窟王と名乗ったアヴェンジャー。彼は監獄塔で出会ったサーヴァントだ。掴み所がなく、何処か優しいような気もするが、やはり言動がアヴェンジャーという雰囲気を醸し出していた。

 その2騎に比べると、やはりウリエルはアヴェンジャーという感覚がない。ならば何かと問われればアサシンが一番性格的に近そうだと立香は思ったがそれは口には出さなかった。

「あの、アヴェンジャーってどんなクラスなんですかね」

「アヴェンジャーは、復讐者のクラスだ」

 話を聞いていたレンズが疑問に感じたことを問い掛けると、ロマンがその問い掛けに答えを返す。レンズは思わず言葉を失う。それは零やダルズも同じだった。

 この場に召喚されたサーヴァントは何処か知識が欠けている。だからなのだろう。3人は顔を見合わせたあとウリエルに視線を注ぎ。

「……そう、なんですね」

 小さく、レンズが呟いた。

 それを気にすることなく、アヴェンジャーは立香の方へ歩くと彼をのぞきこんだ。

「で、アンタ達どこに向かうの?」

「ついてきてくださるのですか?」

「ついていくなんて言ってないけどさ、方向同じっぽいし」

 それは否定しなかった。立香達はこの先にあるだろう建物に用があるのだ。「この先に用がある」と立香は答えようとしたが、その前にウリエルに聞いておこうと返事を置いておき、別の質問を投げかける。

「あのさ、この先に何があるか知ってる?」

「ん、ああ。図書館があるね。表向きは」

 図書館ということは危ない場所ではないだろう。だがそれは、本当に図書館ならばの話だ。

 表向きは。という言葉に引っかかる。裏に何かあるということなのだろうか。考え込んでしまう立香にウリエルが言葉を加えた。

「いや裏向きが何してるのかしらないし、表向きって言ったのは裏に何かありそうっていう俺の勘だけどね。入ったことあるわけじゃないし」

 「なーんだ」と安堵の溜息と共に言葉を漏らした立香だが、いつの間にかマシュの盾から自分の肩に移動してきたフォウに頬を前足で叩かれてしまう。

「え、ちょ」

 動揺する立香の肩からフォウを抱えあげると、マシュではなくダルズが呟く。

「なーんだで済ませることじゃないだろ」

 それもそうだ。あくまでもウリエルの勘ではあるが、それだけで何も潜んでいないと断言出来る訳では無い。つまりダルズは注意を怠るなと言いたいのだろう。立香は力強く頷いた。

「えーっと、それじゃあよろしくね。マスターさん」

「事情とか、聞かなくていいんですか?それについてこないって」

「別になんて呼んだって構わないでしょ。それにアンタ達はこのおかしくなった世界をどうにかしようとしに来たんだろ。それくらいは分かる」

 ウリエルの言葉に間違いはない。ここが特異点となったから立香とマシュ、そしてフォウはここに居るのだ。それにウリエルが自分のことをなんと呼ぼうと立香にとってはどうでもいいことらしい。彼はウリエルに対して手を差し出す。ウリエルはそれを見てその手を軽く握りしめた。

 マシュとロマンは納得しきれていないようがったが、立香がいいならと特に口を出すこともしなかった。

「自由な方ですね」

「アンタもな」

 馬が合わなさそうなレンズとウリエル。2人がどうなるのか、立香はとにかく不安になっていた。突然レンズが喧嘩をし始めなければいいな。なんて思いつつそれが叶うとは断言できない状況に思わずため息が漏れそうになるが、大きな戦力は味方についたと言っても過言ではない。

 それに何かを知っている気がする。立香はどこかでそう思っていた。一緒にいれば少しづつわかっていくだろう。

 まだまだ始まったばかりの特異点の探索は長くなりそうだ。

「それでは、行きましょうか」

 マシュの声に合わせて、立香は頷いた。

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