新卒メイドの冒険

ゆめは樋口さんの方ですよ
@lei_ol_zet

其の二:研修

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「武装探偵社という便利屋がヨコハマには存在していてね。元々我々は敵対していたんだけど、今は敵対禁止だよ。マリエも街中で出会ったら挨拶だ。挨拶は大事だからね。これが武装探偵社の社員たちだよ」



森鴎外はそう言って数枚の写真をマリエに手渡す。



「有難う御座います鴎外様。…わぁ…!」



「どうかしたかい?」



「皆さんすっごい美男美女…!」



マリエは写真を見ながら目を輝かせている。

この予想外の返答に流石の鴎外も苦笑した。


新入りメイドのマリエが『就職』したのはヨコハマを牛耳る組織・ポートマフィアである。

とある縁でポートマフィアのエリス専属遊び相手として『採用』された。


早速首領である森鴎外からメイド服が『就職祝い』として支給され、そのまま『研修』を受けていた。



「じゃあマリエの『インターンシップ先』は武装探偵社にしようか」



「え、良いんですか!?」



「今から色々話をつけるから数日掛かるかな?とりあえず今日の『研修』はここまでにしようか。また後日『研修』を受けて貰うよ」




*********




マリエが鴎外の『研修』を受けている頃中原中也は尾崎紅葉との会議を終え、自分の目の前にテーブルに置かれた焼き菓子をジッと見ていた。



「姐さんこの焼菓子は一体…」



「マリエの手作りの無花果タルトじゃよ」



「…え…マリエの、て、手作り…!?」



「なかなかの出来栄えであろう。食べるのが勿体無いくらいじゃ。『エリーゼ』の新作の試作品を作ったから食べで感想を聞かせてほしいと言っておったからのう」



中也の表情は完全に固まっていた。

そんな中也の驚き様に尾崎紅葉は袖で口を隠して笑う。



「何をそんなに驚いている。マリエはお前が思っている以上に優秀なメイド。この位できなくてはあの幼女趣味の首領の目には留まらぬだろうに」



紅葉は続ける。



「それだけではない。掃除洗濯炊事、マリエに掛かれば何でも完璧にこなしてしまう。だから近頃の首領の機嫌も良いのだ。…まぁ性格には少々問題があるようじゃが年頃の娘故の生意気さじゃ。お前には何かと懐いておるようではないか」



「……俺に懐いているようには到底思えませんけどね」



「マリエはわっちらに猫を被っているというより、お前に見せている表情のほうが本来の『マリエ』の姿にも思える。大目に見てやってはくれぬか?」



「姐さんも首領も…何故マリエをそんなに贔屓しているんですか?」



「マリエのことをちゃんと知れば自然と贔屓もしたくなるぞえ?お前には分からぬのか?」



「は、はい…済みません」



「では教えてやろう。わっちがマリエを贔屓する理由。それは――――」



緊迫した空気が2人を包む。



「マリエは兎に角可愛くて小動物のようだからのう。見ていて愛おしく思えるのじゃ」



紅葉の予想外の返答に、中也はガクッと肩を落とす。



「何をそんなに落ち込んでいる。さてタルトを食べようではないか」



無花果のタルトはなかなかの美味で、中也はまたマリエの才能を思い知らされた。

そして再び先程まで自分が目を通していた書類を見る。


2人が見ていたのはマリエの『学歴』についての書類だった。

マリエの学歴は申し分ないものではあるが、不審な点が幾つもありこれで納得するのは無理があるものだった。



「全く…こんな紙切れ1枚でわっちらが納得するとでも思っておるのかのう…あの首領とやらは」



「想像力だよ紅葉君。マリエがどうしてポートマフィアに辿り着いたのか…それを考えれば良いだけの話さ」



森鴎外だった。

ドン引きする紅葉を他所に鴎外は席に着く。



「いやーそれにしても、マリエの手作りタルトは天下一品の美味しさだったろう」



「……はい…なかなかの美味でしたね。……正直言って彼女には驚かされっ放しです」



中也の言葉に鴎外は御機嫌だった。



「そうだろう。私もそう思っていたんだよ。マリエは兎に角女子力が高い。何より可愛いし能力も存分に備わっている。彼女が異能力を持っていたら嘸かし素晴らしい能力を発揮してくれたと思うよ、きっとね」



「お前の趣味はどうでも良い。早く話を進めろ」



紅葉が話をすっぱりと斬る。



「マリエの『インターンシップ先』は武装探偵社に決定したよ」



「…やはりか。まぁ分かってはいたがのう。太宰辺りの写真を見せればああいう小娘は直ぐに釣られるからな」



「近々マリエの『履歴書』と『成績表』を武装探偵社に届けるつもりだよ。マリエの働きっぷりを是非武装探偵社の連中にも見せてやろう。…それと、」



森鴎外の顔が一気に豹変する。

その表情はマリエやエリスに見せている穏やかな表情ではなく、『ポートマフィア・首領』としての表情だった。



「―――私があれ程『マリエに血を流させてはいけない』と言ったのに理解しようとしない連中がいるようでねぇ…。困ったものだよ。マリエはエリスちゃん専属遊び相手。傷つけるわけにはいかないからねぇ。……でも、この際マリエの力を見せつけてしまうというのも一種の方法だ」



鴎外はそう言って卓子の上で手を組みながら不敵に笑む。



「しかし、マリエは『あの能力』を嫌っているようですが…」



「中也の言う通りじゃ。無理に力を発揮させてもマリエの精神状態が不安定になるだけ。わっちは反対じゃ」



「無能な連中共はマリエを自分達より格下だと思っている。私はそれが許せないんだよ。精神状態については心配ないさ。マリエもかなり成長したからね。分を弁えているさ」



鴎外は立ち上がり窓からヨコハマの街を眺める。



「今日はマリエの帰りは少し遅いだろうねぇ。マリエの作るディナーは素晴らしいから直ぐにでも口にしたいのだが…」




****




「お疲れ様でした。お先に失礼します」



夕方。私はバイト先のエリーゼを後にした。

今日は早く帰って鴎外様の夕食を作らないといけない。


ヨコハマに来てからの毎日は目まぐるしいけど、毎日が新鮮でとても楽しかった。



『異能力』なんて私からすれば選ばれた人間が神様から与えられた力みたいなもので、私の憧れるものだった。



『マリエのその力は決して悪いものではない。其の力は誇って良い事なんだよ』



鴎外様はそう言って私を励ましてくれたけど、私は自分のこの力を好きになることは少し難しかった。

この力のせいで辛い思いをたくさんしたからだ。



…私は優秀な人間じゃない。

でも鴎外様は口癖のように『マリエには沢山の才能がある。それを一つ一つ見つけることがマリエへの命令だね』と私に説いていた。

自分で自分の良い所を見つけるなんて…尚更難しいことだと思う。


でもここで生きて行くって決めたから。


―――ヨコハマで『マリエ』として生きて行くって決めたんだから。




私の肩に激痛が走ったのは正にその時だった。

私は地面に倒れ込む。どうやら撃たれたみたい。



「首領に気に入られているからって、新入りメイドの分際で良い気になるなよ」



と頭上で声が聞こえた。



私が鴎外様に気に入られている?

それは間違いだよ。

そんな畏れ多い。


私は起き上がってきちんと説明しようとした。

そんな事無いって。本当だったら嬉しいけれど私は鴎外様から戦力としては見られていないもの。

エリスちゃんの専属遊び相手。

ただ、それだけの存在だ。


私が起き上がったのを見て、彼らは直ぐにまた銃口を向けてきた。

そして叫びながら何発も何発も撃ってきた。



何でなんだろう。



私、貴方達に何かした?



…そっか。やっぱりそんなもんなんだね。



やっぱり私は、全く過去から解放されていないんです、鴎外様―――。