【黒バス】accelerando

緋寄@🍏🍎
@Enph_hiyo12

Largo

accelerandoアッチェレランドとは音楽記号でだんだん速くという意味。これまでゆっくり進んだ二人の関係が動き出す。



 俺があの人に初めて会ったのは中学一年の夏。

 バスケ部が使う体育館の舞台で彼女は楽器の練習をしてた。特徴的な音質でありながら、吹いている本人の気品が伝わって来るような美しく優しい響き。俺もピアノをしていて他の楽器の演奏者と関わることは幾度かあったが彼女はその中でもかなりの腕だと一瞬で判った。

 恐らく曲の主旋律を吹いて居たのだろう。其処を吹き終わるとその女性は入口で頬けていた俺に声を掛けた。


「バスケ部の人だよね?ごめんなさい、貴方たちの練習が始まるまで使わせてもらってたの」


 楽器を一度スタンドに置いたあとスタンドごと持ち上げそれの側面を持って楽器を抱えた。舞台から降りて俺のいる出入り口に歩いてきた。

 鮮やかな緋色の髪が美しく揺れていて、彼女の上品な身体を包んでいる。


「…いえ、俺は早く来て自主練を」

「ううん。もういいの。ボールがあると危ないし。それに君も集中出来ないだろうし」


 にっこりと笑顔を浮かべて彼女は日光を避け日陰を歩いて行った。

 彼女の名前を知ったのは彼女が中学を卒業する時だった。彼女は学年主席で卒業証書を代表で受け取っていたので判った。

 名前を知ったあと、楽器の上手さから少し気になり、名前の検索を掛けると確かに名前はあった。彼女はジュニアのソロコンテストで優勝経験が何度もあり、高校でも活躍を期待されているという。しかし学校は音大付属の高校ではなく一般の高校だという。

 その学校は――……




 朝7時。この時間帯でいるのは強豪のバスケ部と、朝練を自主でしている生徒だ。

 そして微かにバスケ部が練習をしている体育館まであの美しい音色が聞こえて来る。


「真ちゃんって休憩時間の時って大体、ぼーっとしてるな」


 話しかけてきたのは同い年で同じレギュラーの高尾。此奴には先輩のことは話していない。揶揄われるに決まっているからだ。しかし恋愛には鋭い奴なのでいつか気づかれるだろう。


「綺麗な音だよな…吹奏楽の人だろ?」

「…音楽に無知な高尾でも判るのか」


 貶してるだろ。と言われたが無視だ。高尾と話しているぐらいなら先輩の演奏を聞いていたい。


「上手いか下手かぐらいなら判るっつーの。それに花宮さんって美人じゃん」


 此奴は人をまず顔で判断する気か。まあ第一印象は大切だ。そして第一印象は基本見た目だ。だからといって見た目がいいから狙うのか。そんな考えが浮かんだあとそれを飲み込んだ。


「吹奏楽の本番は8月の上旬だよな~。合宿と被らなかったら見に行くのに」

「…顔ファンはやめておけ、貴様なら他の学校の演奏を聴いている間に寝る」

「顔ファンって…宮地先輩の用語移ってんなぁ」


練習に戻ろうぜ、と漸く話題が外れ俺たちは練習に戻る。練習の間は彼女を忘れバスケに集中出来るが、練習が終わり着替えている間や、授業の合間、それらはあの先輩のことばかりをいつも無意識に考えてしまう。そうしているといつかバスケの時も思考を先輩に支配されてしまうのではないかと思ってしまう時もある。




 花宮先輩とは昼休み、図書室で出会う。他にも委員が全員集まる集会でも会うが、一番頻度があるのは、昼休み、彼女が委員の当番の日だ。

 先輩と会うために本を貸し借りする日は彼女の当番の日に合わせる。他の日でも彼女は図書室にくるが話しかける勇気はないので、一番自然な状況を狙うと自然とそうなってしまう。


「緑間君もとうとう外国人著者だね」

「はい…」


 彼女の笑顔は正直直視できない。人事を尽くさぬ者に良い結果は来ないがこれはどうしようもない。目を反らさないと話す処ではないからだ。


「チェーホフか……戯曲とかが良いよね」


 チェーホフはロシアの作家で、戯曲の『桜の園』が有名だ。俺も今その本を借りた所だ。


「ロシアの登場人物って本命と愛称が全然違って難しいから判らなかったら言ってね……緑間君なら判るか」


俺は咄嗟に首を横に振り、何とか声を出す。


「その…判らなかったら聞いてもいいですか…?」


 彼女は少し驚いたように瞬きを何度かしたあと、いつものように笑みを浮かべて頷いた。


「勿論」


 少しは進展出来たのだろうか……。ただ今の俺にはこれが精一杯だ。




 今日の帰り道は一人だった。リアカーの運転手である高尾は今日は家の買い出しに繰り出されているからだ。住宅地を一人で歩くのも偶にはいいだろう。そう思った時、前を歩いている人物に目が止まった。先輩だ。しかも一人ではなく他校の制服を着た男子を一緒だった。

 俺は見てられず、不自然にならない程度に歩く速さを速め、二人を追い抜こうとした。


「あ、緑間君。今日は高尾君と一緒じゃないんだね」


 まさか、先輩から話しかけて来た。

 追い抜いてすぐの所で俺は振り返った。先輩の横にいた男に俺は見覚えがあった。


「…花宮真」

「緑間……同じ秀徳だったな、緋美」


 花宮が彼氏なのかと思ったが恐らく違うのだろう。二人は同じ苗字。つまり兄妹なのだろう。


「二人って知り合い?」

「同じバスケ部で、しかも緑間は有名だからな」


 あ、そっか。と先輩は呟いた。スポーツに関心がないと聞くので彼女が知らないのは仕方ないだろう。そうなると花宮のことも知らないのだろう。


「真はやること非情だから試合に当たらないようにね」

「え…」


 先輩は知っているのか。花宮がラフプレーをし、相手選手を潰していることを、そしてそれを判っている上で普通に接しているのか。

 俺は先輩を心配に思うと同時に凄いと思う。


「じゃあね、緑間君」


 暫く一緒に歩いていたあと二人は駅の方に向って行った。


「人事を尽くさねば……」


 今まで見ているだけだった先輩を絶対に手に入れると今日、この日に決意した。例え障害があっても必ず。人事を尽くし、先輩を……

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