女子高生のトリップ奇譚

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次の日、いつものように1階の洗面所で歯を磨いていた私は、ふと昨夜の話を思い出していた。


――能力、かぁ……。


私は口をゆすいだあと、何となく蛇口から出ている水に意識を集中させてみた。


――例えば、水を球体にして浮かせる。とかできるのかな……。


ジッと見つめ、少しの間意識を集中させていると流れ出している水の周りにぼんやりとした何かが現れた。そして、重力に従って下に流れ落ちていた水はその形を変えて大小様々な球体へと姿を変えてその場に浮いた。


「朝っぱらから鍛錬とは意識が高くて宜しいことだな、春希。」

「おわっ!」


突然後ろから声をかけられた私は、驚いて水から意識を外してしまった。その瞬間、球体状になっていた水は全て元に戻って下に落ちた。


「い、いきなり声をかけないでよ……びっくりするじゃん……。」

「そんな驚くことか?まぁいいや、力の使い方は何となく分かってるみたいだな。」


蛇口の根元横にあるレバーハンドルを下げて水を止めると、後ろに浮いている千影を見た。

千影は相変わらず飄々とした顔で私を見下げていた。


「なんだ?」

「なんでもないよ。」


洗面所を出てリビングに行くと、夜遅くまでリビングで撮り溜めたアニメや借りてきたアニメを見ていた妹がこたつに入った状態で寝ていた。


「ったく、あいつは……。」


小さな溜息を1つ吐いた私は、冷蔵庫を開けてオレンジジュースのパックとピザなどによく使われているチーズを取り出すと、朝食の準備を始めた。

今日はチーズトーストとオレンジジュースだ。


「あー……お腹空いた。」


コップに注いだオレンジジュースを飲みながら、パンの上にチーズをたっぷり乗せてオーブントースターに入れてタイマーをセットする。

ジジジ、という音を聴きながらリモコンを操作してテレビをつけると朝のニュース番組にチャンネルを合わせた。


『おはようございます!―月―日―曜日――――』


ハキハキと喋る女性アナウンサーは、今朝入ってきたニュースを順番に紹介していった。

都心で起きた窃盗事件、どっかの県で起きた車の事故、芸能人の結婚報道など特に代わり映えしない内容だった。

そんなニュースを流し見していると、チンッというパンが焼けた合図の音が鳴った。

食器棚から適当な平たいお皿を取ってきて、その上にパンを乗せて取り出した。


「いただきます。」


パンを真ん中から2つに割り口に運ぶ。テレビでは有名芸能人がドラマの宣伝をしていた。


――今日はどうしようか。


―――


「行ってきます。」


少年は玄関の扉を開ける前に、奥に居る両親へそう声をかけた。

昨夜に現れた少女―少年は彼女を“男”と思っているみたいだが―のことが頭から離れない少年は、登校中ずっと彼女のことを考えていた。


――一体何者なんだろう。超能力者なのかな?また会えるかな。


『それじゃあ、“また”。』


去り際に彼女が発した言葉が頭の中で響く。


「“また”、か……。」


おもむろに見上げた空には、空の青色に映える白い雲が浮かんでいた。


―――


「んー……あ、お姉……おはよ。」


私が食器を洗い終える時に、こたつで寝ていた妹が起きた。


「おはよう。何か食べる?」

「んー……自分で作るからいいよ。」

「そう。」


歯磨きしてくる、と言って洗面所に向かった妹を見送りながら、私は今日何をするか考えていた。


――あー、どうせならモブ君の部屋にまた行けたらなぁ。あーでも、霊幻の所にも顔を出してみたい。あーでもでも、テル君の所にもお邪魔してみたい。


「欲が多いなぁ、アンタ。」

「人の頭の中を勝手に見ないで、千影。」

「顔と口に出てたぞ。」

「えー……。」


手元のリモコンを操作して適当にチャンネルを回す。しかし、どのチャンネルも同じようなものばかりだったりつまらなかったりして、結局元のチャンネルに戻した。


「あー……暇だー……。」

「そうだなぁ。今は春休みだし、アンタはバイトしてないし暇を持て余してるな。」

「そうなんだよねー。あー、カラオケ行こっかなー。」


善は急げ、なんて意味違いの言葉を呟きながらリビングの扉をくぐって自室へと向かった。


~~


向かう場所は最寄り駅の近くにある安いカラオケ店。自転車で風を切りながら目的地まで向かう私の後を千影が追っている現在の姿は、霊が視える人が見たら滑稽に思うだろう。

カラオケ店に着くと、お店のすぐ横の駐輪場に自転車を停めて鍵をかけた。


「いらっしゃーい。」

「どうも。1人フリータイムで。」

「学生さん?学生さんなら学生書の提示、お願いね。」


そこのお店の店主であるおばさんは、とてもフレンドリーな人で学生など若者にはタメ口で接客をする人だった。一部の人はそういう接客にあまり好感を抱かないみたいだが、私は意外と交換を抱いている。

お財布から学生書を取り出してキャッシュトレーに乗せると、店主さんはそれをチラッと見て確認してありがとねーと言って返した。


「はい、1人様フリータイム。お部屋は階段上がって右側の2階、203号室ねー。ドリンクバーは右側にあるからねー。」

「はい、ありがとうございます。」


マイクや予約機などが入った小さなカゴとドリンクバー用のコップを受け取った私は、荷物を置くために早速203号室に向かった。


「あの店主、中々に馴れ馴れしいやつだったな。」

「フレンドリーって言うんだよ。私、ああいう人結構好きだよ。」

「ふぅん。」


荷物とカゴを置き、コップを持って再び1階に向かうとふわり、と何となく嫌な感じの風が頬を撫でた。


「春希、気をつけな。」

「え?」

「近くに、この世界の悪霊がいる。」


千影が私の耳元でそう囁いた。辺りを見回したが私と千影以外で居るのは前方にあるガラスがはめ込まれた扉の向こう、レジで店主のおばちゃんに接客を受けている数人の男の子達だけだった。


「千影、どこにいるの?」

「あの男どものとこだ。」


私はそこから数歩後ろに下がって彼らのことをジッと見つめてみた。

すると、1人の男の子の背後から時折何かが顔を覗かせてこちらを見てきた。


「もしかして、あの奥の男の子の……?」

「当たりだ。」

「あの状態、もしかしてあの子に憑いてる……?」

「そうだな。だが、様子を見てる限りアイツはアンタに憑こうと思ってるみたいだな。ずっと様子を伺ってやがる。」


私は彼らが手続きを終えてそこから出てくる前に自分の部屋に戻った。


――取り敢えず、様子を伺っておかなきゃ。


「安心しろ、もし万が一アイツがここにやってきたら、アタシがアンタの身体に入って席を埋めて入れないようにしてやるし、アタシがアンタの力を使って何とかしてやる。」


そう言って千影はニヤリと口角を上げて笑い、私の頭に半透明に透けている手を乗せた。

2人で静かに扉にはめ込まれていたガラスから見える外を見つめていた。

彼らが借りた部屋はどうやら201号室だったらしく、私たちのいる203号室の前をぞろぞろと通っていった。

そして、その団体の一番後ろにいた男の子が、確かにこちらを、私たちを見た。ニヤリと口元を歪めた後、また前を向いて去っていった。


「狙いはやっぱりそうだったな。」

「ど、どうしよう……。すぐ出た方が……。」

「そんな状態で逃げられるのか?」


今の私は、恐怖のせいで体が硬直してまるで金縛りにあったかのように動けなくなっていた。


「ち、千影が入ってくれたら動けるかもしれないよ?」

「そうかもしれないが折角だ、いっちょここで超能力の扱いに慣れるっていうのも兼ねて一戦やってみろよ。」

「ばっ!!バカ言わないでよ千影!!まだまともに使えない上に除霊方法だって知らないのにどうやれって言うんだよ!!」


悲痛な叫びにも聞こえるような声でそう言うと、千影は悪役みたいな笑みを浮かべて私を見下し言葉を発した。


「そんなの、決まってるだろう?実践あるのみ、その場でやってみりゃあ身につくだろ。どうしてもやばくなったら、アタシがどうにかしてやる。」

「やばくなるまえにどうにかしてくれっ!!」


必死の私を相変わらず悪役みたいな笑みを浮かべながら見下す千影。多分今ここでタバコを吸ったら絵になるだろう。

緊張と恐怖で喉が渇くが、ドリンクを注ぐ前にここに逃げ込んできてしまったせいで飲み物がない。

必死に分泌される唾液で喉を潤しながら、じっと外を見つめていた。


「千影、そういえばあの男の子に憑いてる悪霊ってどんなやつか分かる?」

「ん?あー、多分蛇か狐じゃねぇか?雰囲気からしてそうだった。」

「蛇か狐、かぁ……。」

「なんだ?それがどうかしたのか?」

「いや、もし万が一その悪霊と戦って除霊するんじゃなくて仲間?になったら、どうなるんだろうなぁって思って……。」

「春希……随分と呑気なこと考えるもんだなぁ……。」

「斜め上のことでも考えてないとどうにかなりそうなんだから仕方ないでしょうがっ!」


なんてやり取りをしていると、ふらりと私たちの部屋の前に人がやってきた。

その人は今話に上がっていた悪霊が憑いた男の子だった。


「ほら、相手さんが来たぞ春希。」

「わ、わかってる……!」


下唇の裏側を噛みながら、彼の様子を伺った。彼は扉を開けて部屋に入ってきた。

予想通りの動きではあったが、この先をどうすればいいのかは全く頭に浮かばなかった。


――ど、どうすればいいんだろう……。


彼は相変わらずニヤリと口元を歪めて、どす黒くていかにも危なそうな霊気―というのだろうか?―を背中に背負ってこちらに1歩1歩近づいてきた。


「春希、身構えとけ。」

「う、うん……。」


ジリジリと縮む距離に、私は冷や汗を垂らしていた。この先はどうすればいいのだろうか、除霊の方法は?そもそも私に除霊なんてできるのか?様々なことが頭に浮かび、それらが私の不安を掻き立てた。

金縛りにあった様にその場から動けなくなっている私の目の前に来た彼は、私の両方に手を置いてそのまま強く掴んだ。

尋常じゃない力の強さに両方がキシキシと悲鳴を上げる。声も出ないくらいの恐怖と両方に与えられている痛みで私の目にうっすら涙が浮かんだ。


「見つけたぞ……オマエみたいに、力を持っていてなおかつ憑依しやすいヤツを……。」


彼は舌なめずりをした。唾液で濡れた唇がてらてらと輝いていた。