ずぅっと、ずっと 第1章

ゆ៎き៎こ
@yuki178115

第17話(最終話)

私は知らなかった。

ご飯の味がわからない理由を。

「主、おはようございます。」

恐怖や不安なんてないと思っていた。

「主さん、ご飯できてるよ!」

みんながいれば怖くない。

みんなといれば不安なんてない。

「主、早くしないと、冷めちゃうよ。」

それは私が私自身についていた嘘。

本当の気持ちじゃなくって。

「主、先食べてるぞ。」

恐怖と不安。

決して気持ちいい感情ではない。

けれど、あった方がいいのかもしれない。

「いただきます。」

目の前に置かれた朝餉のメニューは

「お粥に味噌汁。お粥は前より固め。少しずつ普通の食事に戻していこうと思ってね。」

「いつもありがとね。」

箸とお椀を持ち、そっと覗き込んだ。

長ネギとそれからお豆腐。

箸を入れてかき回すと、ふわっとしたに溜まっていた味噌が浮き上がってきた。

美味しそう。

ほんのり温かいそれをそっと口につける。

程よいしょっぱさ。

味噌の風味。

「どう?」

燭台切が緊張した面持ちで私の顔を見つめてくる。

「ふっ……。なんだろ、これ…。」

私の頭を彼がそっと撫でた。

「美味しい?」

「うん…!とっても、ね。」

高鳴る鼓動。

震える手でスプーンに持ち替え、お粥を口に運ぶ。

噛むたび、口の中に甘さが広がる。

「ああ、これが…。」

味を再び知るには、不安や恐怖を取り除くのではなく、不安や恐怖と向き合うこと。

「もう、嘘つかないでよ?」

みんなにも、自分自身にも。

「主君、朝餉が終わったら、一緒に馬小屋行きませんか?」

秋田くんがふわっと笑った。

頷くと、満足げに桜を舞わせてバケツを取りに行った。

馬当番か。

「ごちそうさま。」

「おそまつさま。」

空になったお皿を燭台切が片付けてくれる。

「主君、早く行きましょう!」

庭からそう声がかかった。

「うん、ちょっと待って。」

車椅子によじ登るのもずいぶん慣れてきた。

まあ、机に思いっきり乗っているから、あまりお行儀が良いとは思えないけど。

「もう1人は誰だっけ?」

「鯰尾兄さんです。」

「いい予感がしないんだけど…。」

「まあ、なんとかなりますって!」

「鯰尾くんの真似?」

「はい!」

縁側には、私が庭に1人でも降りられるようにとスロープがつけられていた。

みんなの優しさに心暖まったところで鯰尾くんと合流、3人で馬小屋に向かう。

「あ!主君、アサガオが咲いています!」

秋田くんが指した指の先に、明るい桃色と紫のアサガオが咲いていた。

「アサガオって、朝にしか咲かないんですよね?」

鯰尾くんがそっと触った花は、よく見るとしおれているようにも見える。

もうこの花は枯れてしまうのかな?

「儚いですね……。」

「そうね。だけどアサガオの花言葉って〈固い絆〉なんだよ。」

私の言葉に2人が不思議そうにこちらを見た。

「花言葉ってのは、その花に込められた想い。」

「想い、ですか?」

「うん。どんな花にもあるのよ。」

「「へぇー……」」

じゃあ、と言い、鯰尾くんが馬小屋の脇の花壇を指した。

そこに咲くのは向日葵。

「アレの花言葉はなんですかね!」

「私は貴方だけを見つめる。」

「じゃあ主君、あそこにあるサルスベリの花の花言葉はなんですか?」

「雄弁。おしゃべりさんだってこと。」

「「ほへぇー……」」

「主さんって、物知りですね!」

「本読むの好きだから。」

ベラベラおしゃべりしていると、いつの間にか馬小屋に着いていた。

2人がテキパキと仕事を始める。

私も手伝おうかとバケツを手に取ると、秋田くんがそれを奪い、見ていてくれればいい、と笑った。

時折私のところに来て楽しそうに話す2人。

親バカ、いや、主バカと言ったところか。

凄く可愛い。

「ちょっ!鯰尾兄さん!馬糞どこに持っていこうとしてるんですか。」

「馬糞はー、嫌いな奴になげるー。」

「投げなくていいです!」

「えー。」

こんな一瞬でさえ幸せに感じるだなんて、元気な頃はなかったと思う。

「主さん、終わりました!」

「戻りましょう、休憩した方が良いですよ!」

「うん…!」

散々迷惑かけたさ。

これからもかけるだろうね。

「2人とも。」

「なんですか?」

「…………やっぱなんでもない!」

これからもよろしく。



(完結 第2章に続く)

著作者の他の作品

ずぅっと、ずっとの第二章です。ややこしくなりそうなので新しく作りました。...

ずぅっと、ずっとの第3章、最終章になる予定のお話です。めっちゃ長いお話もあ...