死にたがり化学者

初弦
@Cr_sc_nt

現実主義者のスパイたち

「……そんなの、信じたんですか?」



呆れ顔のバーボンは、開口一番冷めた目で言い放った。


「どうせマジックのトリックの類で誤魔化されたんでしょうに。第一、スコッチあなた検死もしなかったんでしょう?」

「いや俺も騙された説は濃厚だろうと思ってるんだが……」


ウイスキートリオの三人が一堂に会したこの機会、わざわざ話さない意味もないだろうとスコッチはつい先日起きたレスの件を残る二人に語った。

だがもちろん、生き返った、やら不死なので殺せるわけがない、やらの話は信じるはずもなく。バーボンの極々当たり前な指摘が返って来たわけである。


スコッチも頭から情報全てを信じたわけではない。何かのトリックのようなものを使ったのではないか、と睨んでいる。



睨んではいる、のだが。



「だがバーボン」


いつも感情の起伏が見えにくいライ。


何か諍いがあるときくらいしか饒舌にならない彼はスコッチが話している間もずっと押し黙っていたのだが、口を開いたかと思うとバーボンに疑問を投げつけた。



「騙したところで何の意味があるんだ?」



その問いにバーボンは、ぐ、と言葉を詰まらせた。


そう、結局はそこに尽きる。あれを素直に信じる人間は殆どいないし、いたとしても信じさせて何になるのか。闇の組織が子供の悪戯もしくはドッキリのようなものを行う意味があるのか。


そもそも。


「シェリーはまあわかるとしても、なーんでジンが乗っかってんだって話だよ……」


頭脳明晰にして冷酷非情、無駄を嫌い、役立たずならば仲間であろうと容赦なく射殺する、組織に最も忠実な幹部のうち一人。



それが、ただのおふざけに加担。


仲間も数多く殺されている警察組織からすれば、笑い話にもなりやしない。



「……レスというのが最古参に近い幹部なら、ご機嫌取りとか……」

「あのジンが」

「しませんね」


何せボスにかなり長い間仕えている、組織の中でも比較的地位の高いピスコに対しても同じ態度。更には組織の№2と名高いラムにもわりとぞんざいだと噂されているのだから。


そういう意味を含めてスコッチが確認の意を取れば、バーボンもあっさりと掌を返した。


「大体、彼女は二十代前半に見えたんだけどな……なんで最古参に近いなんて言ったんだジンは……」


ぶつぶつと呟くスコッチに、バーボンとライは目を見交わすと同時に告げた。


「ベルモットが前例としているじゃないか」

「ええ、あの年齢不詳な女狐がいるでしょう」

「お前ら特にバーボン、それベルモットの前で言ってみろ? 殺されるぞ?」


最も怒らせたくない女性の一位二位は争うだろう人物の陰口を平然と叩く二人。

指摘されてもライはわざとらしく肩を竦め、バーボンなどはあろうことか「本人がいないのだから問題ないでしょう」とのたまった。


「おい」

「まあ冗談はここまでにして」

「冗談だったのか」


いや八割方本気でしたけどね、と恐ろしいことを言ったバーボンに、頭痛がしたような気がしないでもないスコッチ。


彼の疲れたような顔を気にしようともしないライは、口元に手を当てて呟いた。


「実際メイクで少し程度年を誤魔化して、幼い頃から組織に属しているとすれば何ら不思議はないな」


その言葉にこの間の険悪さはどこ吹く風、「ええ」とバーボンも真面目な表情で頷いた。


「童顔だと普通に一回りくらい間違えられることもありますし」

「コードネームを貰っていない中で最古参の幹部……ならまだコードネームが与えられてない幹部級の中で、一番長々と候補期間を彷徨っているんだろう」


淡々と情報から予測を詰めていく二人。お前ら本当に気が合うな、という台詞をぐっと飲み込み、スコッチは溜息混じりに「まあ、ともかく」と告げた。


「一応二人にも伝えて良いとお達しされたもんだから、シェリーから言われた取り扱いに関しての注意を説明しておく」


話を変えるようなスコッチの物言いに二人はぱしりと瞬き一つ。



そしてバーボンが訝しげに尋ねた。



「……危険物か何かの、ですか?」

「残念ながら《彼女》の取り扱いって意味だな」



今まで出てきた人物の中で《彼女》と言えば三人だが、そのうち誰のことであるかは明確。


やっぱり位としては高いらしいですね、とどこか諦めを含めて落とされたバーボンの言葉に続けるように、スコッチは少し視線を巡らせて志保が言っていた台詞を思い返した。


「《彼女》が出没するのは、基本的に組織の建物内でも初めて俺が遭遇した部屋のみ。話しかければ応答はするが、非常に怠そうで会話自体に積極的じゃないのはいつものことだから気にしないこと」

「コミュニケーションの取りにくそうなタイプだな」


ライの評価にバーボンも二、三度頷いているのを見ながら、お前らがそれを言うのかとスコッチは頭の片隅で思いつつ。


「あと」


普通なら一笑に付す台詞なのに、あの現実主義者の志保が笑みすら浮かべず言った最後の台詞を口に出した。



「“彼女は他人に毒を盛ろうとはしないけど、自分が飲むために何かを取り出したら大抵致死毒が入ってる”らしいから、話している最中は絶対に飲み物を飲ませないようにと」



妙な沈黙が、部屋の中に下りた。



「……本気ですか」

「シェリーはな」


騙すにしても妙にお粗末で妙に手の込んでいるこれに、さてそこまでする必要があるのかどうか。


組織の意図がまた違った方向で全く読み取れないのはこれが初めてのことで、三人は揃って微妙な表情を浮かべて顔を見合わせた。


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