闇を愛した魔女

ルーノ
@Luno_Kreuz

第二十三話 「いつでも帰って来い。お前さんのハイラルでの故郷はここじゃ」

「…ラナ。ちょいといいかな?」

「村長さんっ!」

「いやはや、ラナも気に入ったのか。この美しいラトアーヌの泉が」

私は、考え事をするときによくここを使う。

…この場所は、とてもいい場所だ。

美しく透き通る水があって、輝く木々がある。

冷たすぎず、温過ぎない水に足を浸せば、心地よい風が流れてくる。

「…リンクから、例の男のことは聞いたね?」

「はい。ダークと言う名前の…リンクのお父さんそっくりで…」

「ゲルドの出身じゃ」

「…何を、しに来たんでしょうか」

「それは、本人がいない今となっては…わからんな」

村長さんが私の隣に座ると、一緒に水に足を浸す。

気持ちよさげに目を瞑った村長さん。…だが、心の底はスッキリしていないはずだ。

先日現れた男、ダークが突然消えてしまったため

しばらくは厳戒態勢でいたものの、何事もなく日々は過ぎ去った。

私としては、彼から聞きたいことが山ほどあったのだが

彼と接触したファドさんは口を閉ざし、リンクは喋ろうともしない。

いつもの日々が過ぎているだけだが、明らかに二人の様子はおかしかった。

「…ラナ。お前さんは…このハイラルをどう思う」

何処となく、正しい答えを探していたけれど、私は本音を吐き出す。

「わかりません。私は、この世界のことを知らない…」

「そうじゃな…ラナ。それが今のお前さんの正しい答えだ」

「え?」

「知らなければ知ればいい。そう、思ってきているのだろう?」

「…流石、村長さんですね」

「伊達に長く生きとらん」

私は苦笑する。村長さんが私の肩を抱きしめる。

イリアちゃんのお父さんとしても、この村を守って来た人間としても

一人の人間としても、強く、暖かく。

「私、彼が…ダークが、呟いているのを、聞いちゃったんです」

「ほぅ」

「シア…って」

「そうか…それで、ラナ、お前さんの覚悟が固まったのだな?」

「固まった…の、かな」

しかし、行くべき場所が定まった。それは確かに言えている。

ダークと言う男は、私の片割れシアを知っていて、ゲルドの出身である。

…一体、どうすればゲルドに行けるのかわからないし…

ゲルドが安全なのかどうかもわからない。

それでも私は行くべきなのだと、心の奥が訴えている。

「私…モイさんに、相談してみます」

「ふむ。このトアルの外についてはモイが一番詳しい。賢明な判断だ」

「…でも、リンクはどう思うだろう…」

「ラナ…」

「リンクは…きっと、あまりよく思わない。そう思うんです」

リンクにとって、一緒に住んでいる人が突然消えることがトラウマであり

私はもう彼にとって家族のような存在だと思っている。

…私が外に行くと決めたら、彼はどう思うだろうか。

心の奥では、ゲルドに行くと決めたものの、迷っているその一番の理由。

…リンクが悲しむところは、見たくない。

「ラナよ。リンクがそんなに弱く見えるか」

「え、いや、そんなつもりじゃ」

「…確かに、リンクは父を失った心の傷が癒えとらん。

ましてや、先日現れた男が、父親とそっくりなのでは…な」

「そう、ですよね…」

私は下を俯く。泉に反射する空の景色が、相変わらず透き通るほど青い。

「だがな、リンクには我々がいる」

村長さんが断言する。

「そして、ラナ。お前さんにもな」

「えっ」

「このトアルの村の者は全て家族同然だと思っている。

それはラナ。お前さんもじゃ」

「私も…」

「いつでも帰って来い。お前さんのハイラルでの故郷はここじゃ」

「村長さん…」

「リンクには我々が付いてる。安心して、ラナの信じる道を生きなさい」

村長さんが再び強く私の肩を抱きしめる。

泉に写った村長さんの顔はあまりにも優しくて、涙が滲んできた。

だけど、今は泣くべきじゃない。

「私、行きます。ゲルドへ。

危なくても、大変だったとしても…そこに、手掛かりがある」

「うむ」

「だから、私が帰って来るまで…リンクのこと、よろしくお願いします」

私は少しだけ離れて、頭を下げる。

「ラナ、モイに相談しなさい。

彼が一番この村の外を知っておる」

「モイさんに…」

“だが、本気で行きたいと…危険を犯してまで行くべきなのだと

しっかり自分で決意してから、俺に言いに来い。ラナ”

「私、すぐに言ってきます」

「うむ。善は急げ、じゃな」

「ありがとうございました!」

私はスクッと立ってモイさんの家へと走る。

その途中、リンクとすれ違ったが、後で説明をしようと思った。


「…ボウさん、なんで俺に意地悪なの」

「リンクよ。いつまでもラナをここに閉じ込めておいてはならん」

「…だって、寂しいじゃん」

「それは、皆同じ気持ちだ…彼女は、暖かい太陽のようじゃった」

「…ラナは、帰ってくる…よね」

「彼女を信じて待つのが、男の運命さだめよ」

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