SILVER TRACE - 銀色の軌跡 -

しりおん
@SHIRION_04

終章 力を合わせて

案の定、アーヴァインはすぐに来た。

よほど急いで来てくれたのだろう。肩で息をしている。


" …呼んで来た "

「ありがとセナ!」

「えっ、ど、どういう状況なの、これ…」

「そんな事言ってる場合じゃない!このままじゃシルバーが…!!」

「っ…取り敢えず、応急処置しよう。守護獣達にも手伝ってもらってさ」

「セ、セナとロンに手伝ってもらう、って、事…?」

「そう。僕の守護獣は回復に長けているし、君の守護獣も比較的回復魔法は得意でしょ?応急処置ぐらいは出来ると思うんだ。で、少しでもシルバーを回復させよう。ちょっとでも彼の生命力の足しにはなるはずだから…」

「う、うん…」

「大丈夫だよシーリス。彼は死なない。…大丈夫だから」

「っ…うん…」


普段のシーリスなら、状況把握スピードは誰にも負けないとさえ言われるぐらいで、ずば抜けた判断能力や冷静さも兼ね備えている。だがシーリスは、シルバーの事となると、普段とは打って変わって冷静さを失う。

以前起こった事がトラウマとなってそうなってしまったらしいが、アーヴァインはそれだけしか知らない。どんな出来事がトラウマになっているのか調査しようかと少し思ったが、それは少しやり過ぎな気がして止めた。暗に本人たちが隠したいと言っているところを追求するのは控えた方がいいとも思ったのだ。

前にシルバーが血塗れで任務から帰って来た時にも、シーリスは酷く取り乱していた。しかし、それと比べても今回の方が落ち着きが無い。身体は小刻みに震えているし、顔なんて真っ青だ。


「…よし、始めようか。ロン、セナ。回復魔法の準備はいいかい?」


守護獣達は揃って頷く。


「君達が使える最高の回復魔法を掛けて。彼の生命力を養わなくちゃいけない」

" 分かっている "

" 任せて御主人 "


2匹は真剣な眼差しで応え、詠唱を始める。


" …天にまします我らが神に、畏み、願い奉る。その御慈悲を雫に宿し、幸無き傷を癒し給え…!朧月!!"

" 聖なる光よ、彼(か)の者を癒せ!ホーリーフィジシャンッ!!"


2匹の魔法の効力のお陰でシルバーの傷は一応塞がったものの、今だに症状は回復していなかった。出血こそ収まったが、呼吸は荒く、とても苦しそうだ。


「くそっ、駄目なのか…」


苦虫を噛み潰したような顔のアーヴァインの服の袖を、シーリスが震える手で少し引っ張った。


「で、出来るかどうか、分からない、けど…や、やってみたい事があるの…」


シーリスは、今にも消えてしまいそうな声で懸命にアーヴァインに自分の案を伝えた。その案とは、シルバーの召喚獣をシーリスが召喚するといった内容のものだった。


「そ、そんな事出来るの!?」

「っ…それは…やってみなくちゃ、分かんない、けど、さ…。前に、シルバーが言ってたのを思い出して…一度、その召喚獣と、少しでも友好的な関係を結ぶ事に成功していたら、鍵を使って召喚獣に呼び掛けると、その召喚獣が、呼び掛けに応えてくれる可能性がある、って。……私は、その、可能性に、賭けてみたい」


パニックに陥っていたはずのシーリスは、いつの間にかしっかりとした眼をしていた。相変わらず身体は震えているのだが、多少、落ち着きを取り戻したようだ。


「…分かった。僕は信じてるよ、シーリス」


彼女の顔は青白く、頼りなさが全面的に出ていたが、シーリスはしっかりと頷いた。

そして、シルバーの腰の鍵ホルダーから、白銀に輝く鍵を取り出し、胸の前に持ってくると、両手で鍵を包み込むようにそっと握る。


「…癒・聖を司りし神龍、白龍スターレイヴァーよ。我、汝が主、シルバー・ローズクォーツの友である。急を要する為、我(われ)が汝に呼び掛けている。汝の主は、今、危機に瀕している。我は汝の主を救いたい。それを成す為、汝の力を、貸してはくれないだろうか…」


そう言って再度、鍵を握る。

数秒後、シーリスの耳に綺麗な声が届く。


『…汝が願い、聞き届けたり。我は汝に力を貸そう。我が主を救う為に』

「!!…ア、アーヴァイン…!!」

「うん、僕にも聞こえた…成功したじゃないか…!」

「うん…っ!」


まもなく、白銀の鍵から、白い光と共にスターレイヴァーが姿を現した。


『あっ!やっぱりシーリスだったんだね!シルバーがどうかしたの!?』

「傷は塞いだ。出血も止まってる。…でも、容態が一向に回復しなくてね。君ならどうにか出来ないかと、縋り付いた訳さ」

『ちょっ、私だって万能な訳じゃないんだよ!?もし、出来ない、ってなったらどうするつもりしてたの!?』

「「信じてたから」」

『〜〜〜~っ!もう!そんな事言われたら頑張るしかないじゃない!…泣かないでよシーリス、シルバーは私が助けるから、必ず』


どうやらシーリスはいつの間にか泣いていたようだ。スターレイヴァーに言われて初めて自分の頬が涙に濡れている事を知った。


「うん…お願い、スターレイヴァー」


涙を隠すように俯き、か細い声で言ったシーリスに、スターレイヴァーは力強く頷いた。アーヴァインもお願いねとスターレイヴァーに言い、同じように力強く頷くと、癒しの神龍はシルバーの全体が見えるようにと少し上へ飛んだ。


っ…確かにおかしい…。傷はしっかり塞がっているし、出血も無い。まさか…毒?


スターレイヴァーは毒の反応を見る事にし、体内に毒の有無を調査した。


『…!』


毒の反応こそ無かったが、肩に何かの破片を見つけた。明らかに邪悪なオーラを放っている。

シルバーの容態が回復しないのはこの破片の所為だろう。


『原因っぽいの、見つかったよ。シルバーの肩の所に何か埋まってるみたい。多分、その所為で彼は苦しみ続けてる』

「ど、どうするの、それ…」

『取り除く』

「どうやって…!」

『……肩を切り裂いて、除去するしか無いよね』

「それで、もし、取り除けたら、シルバーは回復するのかい…?」

『恐らく、ね』

「…なら、手伝うよスターレイヴァー。僕は…いや、僕達は何をすればいい?」


そう告げたアーヴァインの顔は、真剣そのもの。彼の足元で待機しているロンや、シーリスの傍らにいるセナも、真っ直ぐスターレイヴァーを見つめていた。


『…じゃあ、アーヴァインは私のサポート。セナは術後のシルバーのケア。ロンは術中のシルバーのケアをお願い。君達が手伝ってくれるのなら、私は異物除去だけに集中出来る。ありがとう』

「わ、私も、何か…!」

「シーリス…君は無理をしない方が…」

『シーリスはシルバーの手を握ってて。絶対に離さないでよ?しっかり握っててあげて』

「そ、それだけ…?それだけ、で、いいの…?」

『それだけ、じゃない。大事な事だよ。一番、ね。痛みで自我を保たせるより、他人からの影響で自分をしっかりと認識させる方が精神的に安全なんだ』

「そ、そうなんだ…。分かった、絶対離さない」

『OK、みんな、準備は良い?シルバーすごく暴れると思うんだ。覚悟しておいて。半分抉り取るような荒い作業になるかもしれない。そうなったら尋常じゃない痛みが彼の身体を駆け巡る事になる。そもそも肩を切り裂くって時点で、常人には発狂ものだからね』

「だ、大丈夫…」

「君が集中出来るように、全力を尽くすよ」

" 了解 "

" 分かりました…!"

『ふぅ……じゃあ、行くよっ』


そう言うと、スターレイヴァーはシルバーの耳元で


『…ごめん…』


と呟くと、その鋭い龍の爪で、彼の肩を一気に切り裂いた。


「っ…ぁぁあぁ!!」


最初の数秒、耐えようとして声を抑えていたが、耐え切れなかったのだろう。

激痛に身悶えし、声を上げるシルバーの手をぎゅっと握るシーリス。


そんなに大きくは切り裂いていない…過去に彼はこれ以上の事をされてもこんなに身悶えはしなかった…。なのにこの反応…これは早く済ませた方がいいかもしれない…


『ごめんねシルバー、今すぐ取り除くから…我慢してね。ロン!アーヴァイン!止血!!』


ザックリ切り裂かれた彼の肩からは大量の血が流れていた。

アーヴァインはすぐさま布で傷口を抑え、ロンは魔法で止血を試みる。彼らのお陰で血は徐々に止まり、埋まっていた破片が顔を覗かせた。


『(良かった、見当違いだったらどうしようかと…)あの破片が見える?みんな。これを今から取り除く。ゆっくりやっても彼が苦しむだけ。なら、一気に取る…!その後はみんなの出番。私がシルバーからこれを取り除けたらすぐに回復させて。……お願いします』


アーヴァインらは力強く頷き、それを見たスターレイヴァーは破片に手を伸ばし、引き千切る勢いで抉り取った。


「っ〜〜〜〜〜ぁぁっ!!」


シルバーは声にならない叫び声を上げる。


「かはっ……っあ…はぁ、はぁ…」


苦痛に喘ぎ、顔を歪める。


『回復っ!!』


スターレイヴァーの合図と共に、彼の身体を色とりどりの優しい光が包み込んだ。緑、水色、黄色、橙色…本当に様々な色がある。

数秒の間、シルバーの身体を包んでいた光は徐々に消え、完全に消えた頃にはすっかり傷が塞がっていた。

シルバーの呼吸も次第に安定してきている。


「『はぁ……』」

" " 終わった…… " "

『もう大丈夫だよシーリス。傷は完治した。……もう、大丈夫だから』

「うん…うん…」


シーリスの滑らかな頬を涙が伝う。

施術中、シルバーの手をずっと離さなかったシーリスは、彼からそっと手を離す。割れ物でも扱うように、そっと。

彼の手から離れたシーリスの手は、震えていた。


『お疲れ様、みんな。君達のお陰で、効率的且つスピーディーに施術出来た。ありがとう。シルバーを…我が主を…救う事が出来て、本当に嬉しいよ』

「……お礼を言うのは私達の方だよ、スターレイヴァー。私の…私達の大切な仲間を救ってくれて、ありがとう。私の呼び掛けに応えてくれて、ありがとう。…とても、感謝しきれないよ」


シーリスは涙を流しながらもスターレイヴァーに向かってにっこりと微笑んだ。


『そ、そんな事…』

「僕からも礼を言わせて。君のお陰でシルバーを救えた。君が冷静沈着だったから、僕達も冷静でいられた。ありがとう」

『えっ、いや…』

" …シルバー、運ばないのか?このまま床に寝せておくのはどうかと思うが "

「そ、そうだよね。早くシルバーをベットへ…!」


セナに言われ、慌ててシルバーをベットに運び、一息つく。


「……ねぇ、スターレイヴァー。それ、何だと思う?」


アーヴァインが、おもむろにスターレイヴァーが手に持っている破片を指差して言った。


『うーん…私にも分からない。調べてみる?私が幻獣界に持って行って調べる事は可能だよ』

「いいや、僕が調べてみたい。もしかしたら、ギニグロウドやソリドールと関係があるかもしれないからね。だから…調べさせてくれないかな?僕に」

『それは全然構わないよ!でも、分かったら一応教えてくれる?覚えてたら、で、いいんだけど…』

「OK、必ず教えるよ。シーリス、シルバーの事頼んでいいかい?後々交代するからさ」

「うん、大丈夫。シルバーの事、私に任せて」


そう言ってシーリスは微笑んだ。いつの間にか泣き止んでいたらしく、今のシーリスには、微かに涙の跡がついているだけだった。


『私ももう少し此処にいるよ。まだちょっと心配だし…』

「了解。頼んだよ、お二人さん」


そう言ってアーヴァインは部屋から出た。

その後、スターレイヴァーは一日現世に滞在し、シルバーの具合に異常が無い事を確かめると、シーリスに後を頼んで自分の世界へ帰って行った。何かあったらすぐに呼んで欲しいと言い残して。


…それから、アーヴァインは2日で破片の正体を突き止めた。

破片はノエルの槍斧の刃の一部らしい。

彼も、自分の武器が邪気を孕んだ鉱石で作られたとは知らなかったようだ。本人も驚いていた。


その5日後、ようやくシルバーが目を覚ました。

話を聞くと、施術中の記憶はしっかり残っているらしく、ただひたすらに激痛に耐えていたという。


「…迷惑、掛けたな…」


目覚めて最初の言葉がこれだった。

こう言って、傍らにいたシーリスに力無く笑いかけたシルバーはシーリスの泣き顔を見る事になる。


「…!?」

「あっ、ご、ごめん…」

「お前…最近、本当に泣き虫、だな…」

「シルバーの所為だよ……」

「なっ、俺の所為かよ…」


そう言って互いにふっと笑う。


「みんなの事、呼んで来るね。特にフィリア様がシルバーの目覚めを待ってたんだよ。決断、したみたい」

「…そうか」


シーリスは小走りに部屋を出た。

交わした言葉が多かった訳では無いのだが、彼女がいなくなった後の部屋はとても静かで、少し、物悲しかった。 

暫くぼーっとしていると、ぞろぞろと大人数を引き連れてシーリスが入って来た。


「この人数でこの部屋に入ると、結構狭いもんだねぇ…」


苦笑して言うアーヴァインに


「悪かったな、狭い部屋で」


と、皮肉たっぷりにシルバーが返す。


「んで、フィリア。決断、って…一体何を決断したんだ?」

「えっと、わ、私の、決断、というのは…この国を、カタストロフィ王国を、治めるという決断です。貴方達が懸命に取り戻してくれた、この国の玉座には、ファブール王家の血を引くこの私、フィリア・ファブールが座ります…!」

「……」

「ですが、私一人の力では、国を統治するなど到底無理な話です。幾らお父様の行う政を間近で見て来たとはいえ、私にお父様と同じような事をする自信は無いのです。…ですから、貴方に手伝ってもらいたいのです。シルバー・ローズクォーツさん」

「…俺だけ、なのか?」

「いいえ!他の将軍の方々にも頼みました!既に了承は得ています。後は貴方だけなんですよ」

「……そりゃ断りにくいな」


苦笑して言うシルバーに、フィリアはぱあっと顔を輝かせた。


「で、では…!」

「…貴方様のご提案、喜んで受けさせて頂きます。今後共、私、シルバー・ローズクォーツを、よろしくお願い致します」

「あ、ありがとうございますっ!」


よほど嬉しかったのか、勢い良くガバッとフィリアは頭を下げた。顔を上げた彼女は、満面の笑みを浮かべている。

その後ろに控えていた10将軍達は驚きに満ちた表情の者ばかりだ。


「シルバー、あんた…丁寧な言葉遣い、出来たんだな…」


その中でも最もぽかんとしていたナイトウォーカーが喉から言葉を絞り出すようにして言った。


「あ゛ぁ?てめぇ俺をなんだと思ってんだよ。ぶっ殺すぞ」

「ひぃっ、悪かったっ」


凄むシルバーに怯えるナイトウォーカー。

そんな光景に、部屋の中に笑い声が響いた。


その後、傷も完治したシルバーを含めた10将軍とフィリア・ファブールは王都へ旅立ち、正式にカタストロフィ王国の王となる事を民に発表した。同時に、ギニグロウドの絶対王政が終了した事も国中に知れ渡り、各地は歓喜に包まれた。

発表から数日後、王都ではフィリア新女王の着任式が盛大に執り行われた。

ギニグロウドの命令で捕らえられたり、地方へ飛ばされていた忠臣や幹部達も、将軍の手によって開放されており、着任の儀の時には涙を流している者が多く見られた。

このお祭り騒ぎは一週間にも及び、この一週間は後世へと受け継がれる出来事になる。

前ベルスタ・ファブール国王の暗殺やギニグロウドの圧倒的絶対王政、数名の精鋭が、たった一日で王都奪還に成功したという事実と共に。


------------END-------------

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『この想いに名前を付けるなら』生徒と教師の隠し通した恋路の行く末