お詫びするなら石でも食べ物でもなく

郎太郎
@rotaro12


ぐぅ、と情けない音を奏でた腹を撫でて購買に向かう。お昼休みの前半は戦場と呼ばれるほど荒れている購買だが、それが過ぎると生徒がまばらに訪れるだけで遊び盛りの高校生は体育館やグラウンド、教室で話に花を咲かせて貴重なお昼休みを思い思いに過ごす。

リツカは入学して二ヶ月で購買のおばちゃんに顔を覚えられたので、今日も明るく出迎えてくれた。

「リツカちゃん、いらっしゃい!揚げパンとチョコチップパンとメロンパン残ってるよ」

弁当はもうお腹の中だ。先ほど腹が鳴ったのは弁当を消化していたからで、空腹というわけではない。

だからと言ってお腹いっぱいとも言えないので、こうして毎回購買で余り物を購入している。特に嫌いなものはないので余り物で充分だ。

「全部ください」

「毎度あり!しかし、そんなにほっそい体によくこんだけ詰められるねぇ。ブラックホールでも飼ってんのかい?」

「ブラックホールって生き物なんですか」

食べないと放課後まで保たない。これでもギリギリだし、放課後は寄り道して何か腹に入れてからじゃないと帰り道の途中で倒れる。もちろん夕飯もしっかり食べる。おばちゃんが言うように、リツカの腹はブラックホールだ。

教室に戻る廊下で、先生がいないのを確認して窓から外に出た。死角になりそうな場所でメロンパンに齧りつく。お茶でも買えばよかったな、とちょっと後悔した。

機械的に咀嚼して機械的に喉に流し込む。リツカにとって食事は楽しんでするものではない。だから、なんとなく友人と一緒に食べることが苦手だ。楽しんで語らいながら食べることが苦手だ。

それにしても、喉渇いたなぁ。

−−−−ごんっ。

「痛っ!」

何か降ってきた。頭に当たってリツカの手の中に収まった落下物はパックのお茶。中身は入ったままで開封もされていない。リツカはよく晴れた空を仰ぎ見た。

「神様の施し……!?」

「−−−−あ、っと、すいません。人がいるとは思わなくて」

青い空を遮って男の人の顔が現れた。

リツカは顔には出さないががっかりした。幽霊の類は信じているので、自分にもやっと霊感的な能力が備わったのかと喜んだのに。

「あー、一年生か……。よかった、先輩ならどうしようかと」

後輩でも軽んじるなよ、と寄った眉で訴えてみる。眩しさに目を細めたみたいな顔だからきっと気づかないけれど。

ちなみに胸元のリボン、ネクタイの色で学年が分かれていて、彼はそれで判断したようだ。一学年は赤、二学年は緑、三学年は青。リツカのリボンは赤で彼は緑のネクタイを締めている。

何も言わないままのリツカに困った顔で笑う。

「それ、お詫びにあげます。食事中に邪魔しちゃったみたいだし」

「や、別に気にしないでください。でもこれ、捨てる予定のものですよね」

窓から外に投げたし。それってお詫びにならないんじゃ……。

「そこ突っ込むか。生意気」

先輩は、気まずいのか誤魔化すように少し乱暴な手つきでリツカの頭を掻き混ぜてきた。

「痛いですっ」

「っはは、すいません」

−−−−あ。

落ちた。

太陽より濃い色の髪に目を奪われる。いや、違う。彼の屈託ない笑顔に。

リツカはその日、昼休みにパンを食べるのを忘れて午後の授業で盛大な音楽を奏でた。

クラスメイトに奇異な目を向けられながら決意したことがある。


「ロビンフッド先輩、付き合ってください」

「……え?」

リツカ、初めての恋をしました。