【Hurricane lily】悲願の花の少女

【Hurricane lily】悲願の花の少女(前編)

◆プロローグ:未知の力の継承◆

俺は【ガングイ】。

本名ではない。

反政府組織を立ち上げたときに本当の名前は捨てた。

一般人だった俺に国家に喧嘩を売る力があったのか?と誰もが疑問に思うだろう。

本来は俺に関わらず、普通はそんなことは一生かけてもできない。

とくに日本では武器が出に入らないのだから。

だが・・・この世界で出会うはずのない人物に出会ったことで、俺は力を手に入れた。


それは1年前の話・・・捨て駒派遣社員の仕事を見つけては解雇され、また新しい契約を見つけては使い捨てられ・・・そんな生活が嫌になっていた。

人は努力しろというが・・・ここまで落ちぶれるとそれも簡単な話ではない。

勝ち組・成功者の話は俺に言わせれば【後付け設定の塊】だ。

そもそもこの国には弱者を救済するシステムが無いに等しい。

平等を掲げつつも、【持つもの】が優先され・・・そうでないものは永遠に追いつけない。

政治家が事実上の世襲であるのがいい例だろう。

【偽りの平等】と【建前の正義】・・・それについて気づいている者も少ない。

いや・・・それを語った瞬間、【社会不適合者】のレッテルを張られてより苦しむことになるから、気づいても黙っている者が多いというのが正しい。

今日も解雇通知書を渡され、今月の家賃支払いの見通しが立たないアパートへ戻る。

『どうせ追い出されるなら、あるだけの金をもって旅にでるか。』

楽しむ為の旅ではなく、【死に場所】を探す旅。

俺はある地方の田舎町を旅行先に選んだ。

人の少ない地方なら死にかけても助ける者はいないと考えていた。

民宿すら予約していない行き当たりばったりの旅、たどり着いた場所は建物を探すが難しいほどの田畑だらけのド田舎。

当然宿も見つかるはずはなく、ただ歩き続けていただけで夕方になった。

・・・あれはなんだ?

茜色の明かりに照らされたコンテナハウスよりも一回り小さい木造の建物。

見た目からして民家ではない。

たぶんこれは・・・。

観音開きの入り口には鍵がかかっていなかった。

扉を開けて見えてきたのは・・・奥に神棚の飾られた部屋だ。

ここはきっとこの地方の神を祀る場所なのだろう。

電気も水道もないが、一晩止まるくらいは十分にできる。

真っ暗になる前にここに落ち着こうと思い、荷物を建物内に降ろしたとき・・・【アイツ】と出会った。

「!!!!?????」

部屋の中央が眩しく輝き、腕で目を守る。

光が収まった後、腕を下して俺が見た相手は・・・人間ではなかった。

信じてもらえないだろうが・・・目の前のこれは言うなら・・・【獣人】

「くそったれ・・・ココノエの女狐め・・・。」

そう言い放った男に人間の耳は無い。

褐色の皮膚に白銀の毛色の狼耳と尻尾。

体の半分が血だらけだった。

ここまで傷が深いと止血も意味がないだろう。

医療知識が全く無い俺でも、彼が酷い怪我を負っていることは分かる。

戦国武将が着用するような上質素材の着物からは吸収しきれない血が流れて出ていた。

血がしみ込んでいない部分から判断すると青色に金の刺繡の着物だったようだが、一度大量の血を見てしまうと・・・そっちばかりが気になる。

「ち!!奴の手下が先回りしてたか!?」

30代くらいの無精髭の狼耳の男は、俺が両手でも持てないような大きな刀持っていた。

(野太刀というらしい。)

「・・・いや。そんなはずはないな。

ここはワシしか知らない転移座標のはず。」

この男は何を言っているんだ・・・。

もうすぐ日が落ちる中を闇雲に逃げ回るのも正解の選択肢とは思えなかった俺は、彼が何者なのかきいた。

「ふ・・・いいだろう。

【継承】相手を探す手間も省けた。」

「継承?」

「後で説明する。

今はこちらの事情を説明してやる。」

ずいぶん上から目線だな・・・。

今まで出会ってきたクソ上司どもを思い出して吐き気がしそうになったが・・・この話が俺の運命を大きく変えることになる。


この世界とは次元が異なる場所・・・そこに彼のような獣人達が住む世界がある。

獣人といっても人種は色々だ。

狼・猫・イタチ・兎・・・・その他。

そして今、獣人世界では戦争が起きていた。

目の前の男、阿南・・・こいつは東の地方に所属する将軍らしい。

【領土を広げる為の侵略戦争】

読んで字のごとくのことをやってきた男だ。

歴史的な出来事としては珍しくない。

こいつが【あるチート】をしていたことを知るまではそう思っていた。

彼は人間世界の権力者と秘密の転移ゲートを通じて、最先端技術の武器を取引していたのだ。

人間世界の権力者は歩兵用の武器を。(戦車や戦闘機を渡しても操縦できないし、整備に限界がある。)

阿南は獣人世界でしか手に入らない薬の材料を。

こうして阿南の軍は獣人世界の【術】に加え、人間世界の武器という力を持って自軍を強化していった。

同じ組織の中にはその武器を嫌い・・・または不信に思って使わない者も多かったが・・・圧倒的な力を手に入れた阿南には従うしかなかった。

しかし、敵対する西軍を6割ほど追い込んだところで状況が一変する。

東軍武将の1人、女性武将にして最高位術師・妖狐【ココノエ】の裏切りである。

彼女は彼の力の元を突き止め、追っ手との戦いで後に不妊の原因になるほどの重症(確率は極めて低いが内臓へのダメージが原因で不妊になる説もある)を負いながらも西軍武将の【大狼】に助けられ阿南支配下を脱出、東軍・西軍問わず情報を公開したのだ。

これにより東軍はココノエ軍と阿南軍に分かれ、ほとんどの兵士を味方につけたココノエは西軍の代表武将、のちの夫となる銀狼族【大狼】と共闘を誓う。

阿南軍は孤立し、東軍と西軍の両方を相手にすることになった。

獣人は術札に術式を書くことで様々な術が使える。

ココノエは【対銃火器用障壁】の術式を作成した。

銃弾・ミサイル等を防ぐ障壁を作ることに成功したらしい。

正しくは一定以上のスピードで飛ぶ物体を遮断する効果だそうだ。

一説として弾丸の初速度は秒速300M・弓矢は秒速100Mという話を聞いたことがある。

つまり・・・【秒速200M以上の物体は通れない】と術式で設定すれば敵の弾丸は遮断され、味方の矢は結界をすり抜けて撃てることになる。

(術は【物体】ではないのでこの術式に判定にはかからない。)

実際にはそんな単純な話ではないだろうが、理屈はそんな感じだ。

最先端の武器を持っていたとはいえ・・・無効化され・・・長期戦になれば【限られた武器で戦える者】の方が強い。

阿南は兵士を失い、ある要塞最奥でココノエに追い詰められ、さらなる予想外の策でダメージを受けることとなる。

相手がココノエ1人と油断し、術を無効化できる術札を使った。

範囲が狭く、効果時間は一瞬。

しかもお互い同じ効果範囲にいるならどちらも術が使えない。

「相手は術師・ココノエ1人。斬り合いなら一瞬で勝てる自信があった・・・が・・・。」

今日の今日までココノエには秘密にしていたことあり、それが彼女の切り札だった。

大狼から教わっていた居合切りで反撃してきたのだ。

彼女の策は2つ。

・あらかじめ術札で刀を【見えない】ようにしていた。

・居合切りを戦場では一度も使わなかった為、その情報を知るものが阿南軍にいなかった。

【情報を伏せた不意打ち】に阿南は敗れ・・・なんとか転移ゲートをこじ開けてここへ逃げてきたらしい。

「でもな阿南さん、俺にそんな話してどうするつもりだ?」

「お前は・・・・・・代償を払ってでも強くなりたいと思ったことはないか?

『このまま死ぬのを待つ人生なら、残りの人生を全て捨ててでも一瞬の開花に賭けたい。』と願ったことはないか?」

「ある。」

迷わず肯定してしまった自分に驚いた。

無意識・意識的に溜まっていた欲望がそうさせたのだろう。

「ワシの能力と記憶を含めた知識を受け取れ・・・。」

「そんなことができるのか?」

「ここにある最後の術札を使えばな。」

血で真っ赤になった手で野太刀の柄の底を外すと・・・そこには丸めた紙が入っていた。

「代償というのは?」

これは絶対確認しておきたい。

代償と効果のつり合いが取れるか確認する為だ。

「この術式には効果をより高める為、呪いが併用されている。

お前は確実にワシの能力と知識を引き継げるが・・・残りの寿命は強制的に5年となる。」

「おいおい・・・ずいぶん短命になるな。」

「よくワシの言葉をきけ。

【強制的に5年】・・・これを言い換えれば、お前は5年は絶対に死なない。

肉体が丸ごと消滅しない限り。」

「俺がお前の期待通りに動かない人間だったらどうする?」

「ふ・・・ははははは!!」

天井を見上げるように笑う阿南。

「構わぬ!!5年間を好きに使え!!」

阿南は俺の言葉を否定しなかった。

こいつは継承そのものが目的なのか?

だったら何の為にそんなことを?

このときの俺は【阿南】という獣人をまったく理解してない。

彼がどんな人物だったのか・・・俺なりに答えをだすのはまだ先の話。

「早く始めるぞ・・・ワシが先に死ねば意味がない。」

笑いは最後の空元気だったのか・・・苦しそうに言葉を発していた。

・・・俺が迷う理由、拒否する理由はない。

「阿南・・・お前のすべての力、俺にくれ。」


そして現在・・・俺は反政府組織を立ち上げ、同志と武器をあらゆる方法でかき集め、日本を支配した。

阿南から受け取った能力は人間の限界を超えた身体能力・獣人の術を使う能力・そして彼の記憶・知識と天才科学者レベルの知能。

記憶の中には人間世界の最新兵器の情報もあり、核兵器の情報もあったから驚きだ。

さらに5年は不死身ときた。(肉体が一部でも残っていることが条件だが。)

人の心と言うのは力を見せつければ面白いほど動く。

今まではどんなに国に不満があったでも嘆いて生涯を終えるしかなった者たちが、勝てる可能性が見えてきた瞬間・・・俺のもとに集まってきたのだから。

けれどもこれは、まだ準備段階にすぎない。

本番はこれから・・・。

【獣人世界の制圧】が俺の願いを叶えるのに必要だった。

最新兵器すら封じる術という別次元の技術は脅威だが、基礎研究と情報技術に関してはこちらが圧倒的に優位・・・勝てる可能性は十分にある。

むしろ日本が大国相手に正面から戦争するより簡単だ。

そして、先にこの国を制圧したのには理由があった。

【転移ゲートを大型に安定させ、多くの人員を送り込めるようする】為だ。

最先端武器に対策を取ってくる相手がいるが、俺にも考えがあった。

まずはあちら側に【機材】と【人間】を送ることが重要だ。

獣人世界には、こちらの世界にない【ある材料】も手に入る。

別世界が1つ支配できれば、こちらの国で勝てない国はなくなるだろう。

弱者だった俺が【世界で一番強い存在】になる・・・これはもう夢物語ではない。

実現可能なのだ。


◆REPORT:Hurricane lily_No.1◆

獣人世界のとある島。

コンピューターやインターネットの言葉すら知らない文明レベルの獣人達には、あいつらも把握しきれていてない地域が存在する。

この島のその1つだ。

俺はここに2つの技術を持ち込んだ。

【クローン】と【人口子宮】だ。

世間ではどちらも外道扱いされている技術だ。

クローンに関しては所詮コピーなのでいろいろ難があるのは認めるが・・・人工子宮まで反対する考えが俺には理解できない。

あれだけ『少子化だ!!』『高齢化社会だ!!』と騒ぎながら、なぜ自然の流れのままの人工繁殖に頼るのだろうか?

『どうすれば結婚率が上がるのか?』今更そんな対策を考えても手遅れなのだ。

直ぐに確実に増やすには人工子宮で増やし、そこで生まれた子供を育てる施設があるほうが効率がいい。

人工子宮はまだ実用段階ではないので研究を重ねる必要があるが、上手くいけば【遺伝子を選定】した優秀な人間ばかりを増やすことができる。

かつての俺のように【持たざる者】として苦しむ人間を無くせるのだ。

さらに技術が進化すれば【遺伝子組み換え】も・・・いや、もっと先の進化・・・キメラ遺伝子を取り込んだ超人的な身体能力を与えることだってできる。

俺が一番欲しい遺伝子は・・・【獣人の遺伝子】だ。

そう・・・それが『こちらの世界にない【ある材料】も手に入る。』の意味。

知能・身体能力ともに極限にまで進化した人種ばかりが暮らす国。

彼らに最先端の武器が加われば・・・最強の国が完成する。

そして俺は最強の国を作り上げた1人として歴史に名前が残せるのだ。

とりあえずこの世界で最初にやることは・・・戦力の用意だな。

人間世界の兵士も連れてきてはいるが、それだけでは足りない。

戦争にはまず数がいるのだ。

(特に飛び道具が主体となる場合は、数が2倍側の戦闘能力は2倍ではなく2の二乗となる説がある。)

俺の部隊で主力になるのは・・・。


◆REPORT:Hurricane lily_No.2◆

主力として用意したのはクローンだった。

ただ人間をコピーしただけでは使えないので、阿南の記憶と【政府の研究機関】から得た知識で改良をいくつか加えた。


・寿命は1年未満。

作り手が最も恐れるのは、無駄に知恵が身について反乱を起こすことだ。

短命にしておけば最悪裏切っても、活動できる時間が限られて被害を抑えることができる。


・性別はすべて女性

ある聖書においては男から女が作られたという記述があるが、科学的には逆だ。

一度女性の肉体が作られ、そこから女性のままか男になるかが分かれる。

クローンで男を作ると余計なひと手間がかかるので無駄なのだ。


・肉体年齢は14歳前後

年齢の高いクローンほど形成に時間がかかる。

だからと言って低年齢では身体能力が不完全だ。

形成時間と身体能力的スペックのバランスを考えるとこの年齢が量産には最適だった。


・容姿は統一

これも量産の効率化が目的だった。

スレンダーなショートカットの少女達。

俺の女性趣味ではない。

シンプルな容姿の方が低コスト量産できる。

ただそれだけの理由だ。

左頬に印刷された【QRコード】で個体情報を確認可能。


だがこれでも未完成だ。

俺が求めるクローンにはある素材・・・【獣人遺伝子】が足りない。

最終的には【人工子宮】から生まれる人間にこの技術を応用できてこそ完璧なのだ。

今あるクローンは素材入手の為の【一時凌ぎ】である。

残り4年も無い俺の命の時間。

あまり時間はかけていられない・・・さてどうアレを手に入れようかと考えていたとき、思ってもいない形でチャンスが訪れた。


◆REPORT:Hurricane lily_No.3◆

かなり冷えるな・・・。

俺のクローン兵も身体能力の低下が心配だ。

本土の東部地域の一部が凍土と化していた場所に俺は出向いていた。

この世界では年に1度、出現した場所を手当たり次第に氷漬けする魔人が現れるそうだ。

魔人の出現は年中温暖な気候の獣人世界に一時的な冬をもたらすと言われているが・・・。

目の前の実際の光景は冬というよりも、神曲の凍結地獄のようだった。

こんな化け物との遭遇は絶対に避けたい。

人の力ではどうにもならない自然災害の一種と考えていたほうがいいだろう。

俺が今日ここへ来た目的は魔人を見るためではない。

氷漬けされたコレが欲しかったのだ。

クローンに指示をだして切り出した氷の塊の中に入っていたのは【猫族の若い獣人女性】だった。

生き死には関係ない。

肉体サンプルさえ手に入ればそれでいいのだ。


◆REPORT:Hurricane lily_No.4◆

氷の中の女性は息絶えていたが・・・発見だらけの貴重なサンプルだった。

他にも凍土から集めてきた獣人の体を研究した結果、分かったことをまとめると次のようになる。


・見た目=年齢ではない。

これは人間の年齢感覚が崩壊するような事実だ。

最初の凍土で見つけた猫族の女性・・・見た目は20歳前後だが、実は数100年以上生きている。

俺は阿南から引き継いた知識で知ってはいたが、そうでない者に説明する証拠がなかった。

しかし今日、それを世間に証明する手段を手に入れたのだ。


・驚異的な身体能力・術を扱える素質

これも俺が阿南から引き継いだ能力と同じ。

ただ、先ほど解説した寿命と能力には(個人差もあるが)種族によるばらつきがあるようだ。

例えば寿命に関しては、妖狐と狼系の種族がダントツ長い。

身体能力は狼族。

術能力は妖狐・・・これは桁外れだ。

個体数が少ないが身体能力と術能力の高いハイブリッド種族・・・銀狼。

銀狼は俺に力を渡した阿南と同じ種族。

純粋な特化という意味では狼族と妖狐には劣るが、両方に高い適性があるのは魅力的だ。

今言った3種族が獣人世界では身分の高い地位に多いのも分かる。

人間もこうやって分かりやすい適性単位での種族分けがあれば、納得のいかない現実に対してまだ割り切れる部分があったのかもしれない。


もう1つ発見があった。

これは阿南すら知らなかった事実・・・俺たちの国の歴史的考えを根本的に覆すものだった。


・【放射能】の影響をまったく受けない。

放射能に対する完全抵抗。

かつて原子爆弾によって敗戦したはずなのに、原子力発電を発電手段とするおかしな国にとって・・・これは何が何でも欲しい能力だ。

爆発の被害は別として、放射能の悪夢を心配することなく施設を拡大し、安全な日常を送れるのだ。

この完全抵抗を全ての日本人が持ったなら、原発の大規模運用だけでやめるはずはない。

日本に大量にある材料・・・プルトニウムを使って核兵器も量産するだろう。

もし【世界を一撃で滅ぼす核】の開発に成功すれば、日本は世界最強の国となる。

使用前に地下へ逃げて全滅さえ防げば、放射能まみれの地上でても生きていけるのだから。


阿南から能力を引き継いで2年が過ぎようとしたころ、俺はこれらの特徴を新型クローンに反映することに成功した。

見た目は変わっていないが、中身は獣人の遺伝子が組み込まれた強化タイプである。

ただ1人のクローンを除いて・・・。


クローンの中に1人だけ銀色の髪に、銀狼の耳と尻尾を持つ褐色肌の少女がいた。

この子は一番最初にできた獣人遺伝子反映型クローン【Rev.B_プロトタイプ】だ。

はっきり言って失敗作だった。

獣耳と尻尾があるといずれ【人工子宮で量産する】予定の人間には使えない。

寿命のリミッター設定も上手くいかず、オリジナルと同じ寿命は量産型クローンとして使い勝手が悪いと判断し、この子以降は設定を1から見直すことになったのだ。

だが・・・戦闘スペックはとても高性能で、単騎で阿南を上回っていた。

処分するにはもったいないと思った俺は側近として彼女を残している。

でもこれが・・・自分自身を変えるきっかけだったことに、このときの俺はまだ気づいていなかった。

俺自身の年齢のせいもあり、次第に彼女を娘のように見てしまうのだ。

ある日、俺は少女に名前をつける。

獣人の女性には花の名前が多い。

そこで俺もこの娘に花の名前を付けることにした。

俺の【悲願】と【彼岸花】をかけて・・・【ハリケーン・リリィ】と名付けたのだった。


◆REPORT:Hurricane lily_No.5◆

継承から3年が経過。

獣人達とは情報収集の為に局地的な戦闘を繰り返していた。

敗北するクローンも多く、そのたびに形成データのアップデートを繰り返す日々が続いた。

クローン兵士の訓練は成型時の記憶の刷り込みよって行われる。

もともとの身体能力は高い為、このやり方が短時間で戦場に大量の兵士を出せるのだ。

兵士達は徐々に戦闘能力を向上させている。

ただし、1人だけは俺が訓練をつけてた。

「【ハリィ】、今日はここまでにしよう。」

そう呼んだ少女はハリケーン・リリィのことだった。

いつからこう呼んでいいるのか自分でも分からない。

一方でハリィも

「お父さん、まだしばらくお仕事?」

俺を『お父さん』と呼んでいた。

側近として置いた処分を見送ったこの子は・・・いつの間にか俺の娘となっていた。

通常・クローン兵に感情はない。

命令を忠実に兵士として、そう【設定】されている。

しかし、この子は俺と接しているうちに感情が芽生えたのだ。

見た目は小柄寄りな14歳ほどの少女だが、知能・性格としては9歳前後といったところか。

他のクローンと同じように専用の戦闘服を着せていたが、親馬鹿になってしまったのか・・・彼女に個性を持たせたくなり、真っ白なワンピースに真っ赤な彼岸花の花の柄が描かれた服を用意した。

この服を着せた理由は、獣人世界のある習慣に興味があったのだ。

獣人世界の女性は自分の名前と同じ花の名前の柄の服を着るらしい。

(毎日着ているか、特別な日だけ着るかは地方・個人によって異なる。)

そこでこの服を着せたわけだ。

訓練中に激しい動きをしてもいいようにタンクトップとスパッツ姿の上からワンピースを着せている。

最初は嫌がったが・・・親としては色々見えてまうのは心配なのでなんとか言い聞かせた。

「このあと研究室にいってくる。

直ぐに戻ってくるからね。」

ハリィは女の子としてのおしゃれ感覚はそれなりに持っているようで、カラフルなビーズで自作した首飾りを身に着け、波打つクセ毛をツインテールの髪型にしていた。

ツインテールの先端は鎖骨までの長さがあり、彼女がリアクションを取るたびにゆらゆら動く様子が可愛らしい。

正直、左頬にQRコードを印刷したことを後悔している。

「う~ん。もうちょっと練習しちゃおうかな?」

無邪気な顔で振り回していたのは2本の野太刀。

俺が阿南からもらった野太刀とは別物で、彼女の為に調達した名刀だ。

阿南から能力を継承した俺も片手で持つことはできるのだが・・・【ただ持てる】ことと【器用に操れる】ことは違う。

彼女は後者が可能なのだ。

「今日はもうやめて、執務室で待ってなさい。

夕方、少し島を散歩しような。」

研究室に行った俺は、室長から報告書を受け取って目を通す。

アップデートを繰り返したクローンは期待通りの性能を発揮していた。

「現在の最新Ver.にて形成データを最終調整。

それを俺の権限でRev.Cとして承認する。

量産を1週間、限界数までやれ。」

最新型クローンの量産指示を室長に言い渡し、執務室へ移動する。

いよいよ・・・すべての準備が終わる。

1週間後に全面戦争が始まるのだ。

「お父さん、お帰りなさい。」

執務室に戻るとソファーに座ったハリィが趣味のビーズアクセサリー作りをしていた。

2色のビーズを組み合わせて腕輪を作っていたようだ。

もっといい娯楽を彼女に与えたかったが・・・彼女の存在は人間世界側にはクローンの特別個体として報告している以上、露骨な娯楽品を持ち込むのが難しい。

(こちら側の関係者には友好的に接してもらっているが・・・向こうは【あの人】以外は分からない。)

服装に関しても獣人世界で極秘ルートで調達し、人間世界からは誤魔化せる範囲内で持ち込むのがやっとだ。

汎用的な下着や軍服以外が見つかれば、あちらさんになんて言われるか・・・。

それよりも心配なのは・・・全面戦争が始まった後のハリィの運命だった。

兵士として剣と術の訓練はさせているが、親としては参戦させたくはない。

けども俺は人間世界の軍の司令官・・・司令官の立場としては出撃命令は当然だ。

親心と使命が心の中で1年近く衝突を繰り返している。

いっそ衝突でどちらかが完全に壊れてくれたほうが楽になれるのかもしれない・・・。

「どうしたの~?おとーさん、つかれてる?」

ソファーから立ち上がって目の前にきたハリィが俺の顔を見上げている。

せめて・・・【弱い父親】は見せたくない。

「ハリィ、散歩にいこうか?」

「行こう♪行っこう♪」

出来上がったばかりのビーズの腕輪を右手に着けたハリィは上機嫌で俺の手を握ってくる。

これからどうなるか分からないが・・・もう、後戻りはできないのだ。


◆REPORT:Hurricane lily_No.6◆

侵略は順調・・・とも言えないが確実に進んでいた。

継承からもうすぐ3年と半年が経過する中、50%が俺の軍の支配下となっている。

俺は願っていた。

『このまま量産クローンだけで決着がつけばいいと。』

そうすれば【娘】に切り札としての出撃命令を出さなくて済むのだから。

最新の戦況報告を受け取り、執務室の机で読んだ後にそんなことを考えていた。

ハリィはソファーの上で横になって寝ていた。

耳をすませば『すぅ~・・・すぅ~・・・。』という小さな寝息が聞こえる。

彼女の寝顔を見た俺は、視線を報告書に戻す。

・・・このままいけば、娘の身に何事もないままこの世界での戦争が終わる結末もありえるだろう。

続いて行われる人間世界の戦争では理由をつけて引退すればいい。

だが・・・その考えは俺の気づかなかった【裏切り者】がいたことで、打ち砕かれる。


◆REPORT:Hurricane lily_No.7◆

「おかしい・・・どういうことだ。」

継承から4年近く経過しようとしていたとき、異変はおきた。

支配領土は7割に達成していたが・・・腑に落ちない点があったのだ。

【進行指示を出してない領土が支配されている】

それどころか、身に覚えのない戦闘区域が発生していた。

なぜだ・・・ありえない。

「どこに行くのお父さん?」

「ここで待ってなs・・・。」

待っていろと言いかけて嫌な予感がした。

表向きは側近用の特殊個体として報告している以上、彼女を置いて出かけるのは不自然だ。

こちら側の関係者は何もいわないだろうが、人間世界のやつらに対して面倒なことになる。

でもそれだけでなはい・・・彼女と離れてはいけない気がした。

「ハリィ!!戦闘用意だ!!」

俺は阿南からもらった野太刀を背中に背負い、術札の専用ホルスターを軍服の内側左胸に取り付けた。

ハリィは術で別空間に2本の野太刀をいつも隠しているので、いつも持ち歩いているようなものだ。

俺は指揮官としての威嚇の意味もあるのであえて見せている。

「術札はよういできた?」

「うん♪ちゃんとあるよ。」

左足太ももに巻き付けた術札のホルスターをアピールしてきた。

獣人式の術は、術札に漢数字の組み合わせを書くことで術式を作りあげる。

それらを一定範囲に置いて干渉を行うことで術式が発動するのだ。

通常はこのように専用ホルスターに入れて身に着ける。

所有している術札から発動できる術ならそれぞれの集中時間・クールタイムはあるものの自由に使用できる。

これは言い換えるなら、相手もこちらの所有する術札の術式を認識・理解してしまえばそれを使えるということだ。

このようなデメリットを発生させないように術者各自が他の漢字を用いて暗号化した出札を用意するのが常識で、フォントも暗号としてカウントされるので組み合わせは莫大な種類になる。

作成した本人にしか所有している術札は使えないと思っていいだろう。

術札の代わりに魔法陣を用いれば召喚術も使えるが・・・いかせん魔法陣の描き方が面倒極まりない上に判定も厳しい。

威力が高い反面、暴走事故の多い超上級者向けの術になるので俺はオススメしない。

「ハリィ!!キミの初陣だ!!

気を引き締めていけ!!」

「うん!!」

両手の拳を胸の前で上下させて、元気いっぱいに返事するハリィ。

戦争というのも理解してない少女はピックニック感覚でいるのだろうか?

そんな彼女を利用する俺には大きな罪悪感があった・・・。


問題の戦場で犠牲になっていたのは町に住む非戦闘員たちだった。

しかも犠牲になっていたのは町に住む非戦闘員たちだ。

町を壊され、焼かれ・・・逃げようと必死だったのか・・・ほとんど死体が背中に攻撃を受けて倒れていた。

・・・妙だ。

この死体には違和感がある。

損傷個所を詳しく調べなければ・・・。

死体の前に屈もうとしたとき

「お父さん!!」

肋骨に響くようなタックルで俺を押し倒したハリィ。

俺が立っていた場所、胴体があった高さを火の弾が通過する。

火球の術か!?

「そっこだあああ!!」

ハリィの視線の先に人影があった。

地面に右手を叩きつけると、尖った岩が人影の足元から現れる。

人影は後ろに飛んで回避した。

周囲を確認すると、量産クローン達が獣人達と戦っていた。

あっちは任せよう。

俺とハリィは人影の相手をしなれば。

「戦えない者たちを虐殺しただけでは満足できず、今度は死体でももっていくつもりで戻ってきたのかしら?」

声を発した人影の正体は妖狐の少女だった。

セミロングの黄色の髪。

紫色の着物を着ていて、平均よりも大きなバストの膨らみが大きく開いた胸元からはみ出ている。

見た目の年齢は17歳くらいだが、獣人の実年齢というのはよく分からない。

獣人同士は感覚で分かるらしいけど、阿南の継承能力にそれはなかったようだ。

人間がそれを知るには遺伝子を解析するしかない。

けど俺は阿南の記憶から、その少女を知っていた。

着物に描かれたある花の模様にあの容姿・・・獣人世界最強の術師、【ココノエ】だ。

「言い訳できる立場でないはないのよ。

覚悟はいい?」

ここで『違う!!俺達じゃない!!』と言っても信じてくれないだろう。

見て分かる証拠が無ければ説得はせきない。

そう思った俺の中でヤツの声が響く。

『説得する必要はあるのか?

お前は獣人世界を支配しにきたのではないか?

悲願を達成するのを諦めるのか?』

そんな阿南の声が聞こえたきがした・・・。

これが俺の心の迷いから生まれた幻聴である自覚はある。

でも・・・そいつの指摘は間違いではない。

しかしこの状況・・・想定外で片付けられるのか?

違う・・・何かが大きく狂い始めている。

「ハリィ、今からお父さんの言うことを良く聞きなさい。」

「わかってるよー。あのおねーちゃんをやっつけるんだね。」

空間から取り出した2本の野太刀を両手にそれぞれ持つ。

「そうじゃない。」

「ほえ?」

ハリィが目を丸めて首をひねる。

残念だが・・・あいつはたぶんキミでも勝てない。

そもそも対ココノエ戦は念い入りに準備をした上で、罠にかけたところを量産クローンが捨て駒になる覚悟で挑む予定だった。

『捨て駒』か・・・かつては俺がそうだったのに、この立場になったとたん・・・俺自信がそんなことをしているんだな・・・。

そうなる側の辛さを分かっていたはずなのに・・・。

人は強くなると弱かったころの辛さを忘れてしまう生き物らしい。

このタイミングで思い出すのもまた違った辛さがある。

とにかく今は・・・。

「【負けない】ように戦いなさい。

しばらく時間を稼いで・・・いいね?」

「は~い。」

二刀流の野太刀を明るい返事をして構えた。

このときすでに彼女はある術を発動させている。

【刃判定拡大】の術だ。

簡単に説明すると刃が見えない魔力の刃で延長されている。

元々リーチの長い野太刀の当たり判定が大きくなる上に、延長部分は対象(装備も含めて)に接触したときにしか効果を発揮しない。

障害物や味方を無視できる便利なリーチ延長術だ。

退治するココノエも鍔のない居合用の刀に手をかけている。

術師である以上は、確実に術と剣撃を組み合わせて攻撃してくるだろう。

刀のリーチだけ判断するとココノエが不利に見えるが、術と剣撃が混ざると話は変わってくる。

キィン!!ギィン!!ガキン!!

ぶつかり火花を散らす野太刀と居合刀。

時折混じる術攻撃は切り払うか、術と術をぶつけて相殺する。

手数と一撃の重さはハリィ。

術攻撃力はココノエが上回っていた。

油断していると剣撃の合間の術がハリィを捉えそうになるが、2本のうち片方を防御用にすることで防ぎきっている。

防御行動が読まれないよう、不規則に防御に徹する手を入れ替える器用さを見せていた。

攻撃用の手ですぐに反撃することで追撃を防ぐ意味もあったようだ。

俺は俺でやるべきことあった。

死体の傷がどうも気になる。

はやり・・・傷が一致しない。

俺の部隊の兵士が持つ武器だとこんな斬り口にはならない。

日本刀の技術が用いられた刃は通称【ハマグリ刃】と呼ばれ、これで斬られた傷口はバックリを割れて直りが悪いことで有名なのだ。

でもこの傷口は斬ったと言うよりも、切り裂いた・・・あるいは叩き切ったと表現するのが正しい。

ここまで考えて、俺の中で最悪な答えが浮かんできた。

・・・【別の侵略者】が来ているということだ。

「ハリィ!!そこまででいい!!」

俺は自分の背中がココノエの方を向くように、急いで娘を抱きしめて戦いを止める。

「あなた何をしているの!?」

ココノエは火球の術を止めようとしたが間に合わない。

火球は俺の左肩に直撃した。

膝をついた体勢で抱きしめたので、この位置に食らったのだ。

焼ける痛み・・・肉の焦げる臭い・・・。

「大丈夫!?お父さん!!」

涙目で俺を見るハリィ。

「心配しないで・・・【直ぐに治る】。」

例の5年間死なない能力により、ハリィを落ち着かせている間に傷は治っていた。

(服の破損までは直せない。)

反政府組織時代はこの再生能力で何度ごり押しをしたことか・・・。

「聞いてくれココノエ、この世界に・・・俺の知らない部隊が来ている。」

量産クローン達にも戦闘中止の指示を出した。

「・・・いいわ。言い訳をきいてあげましょう。

でも・・・あなたも恨まれ・・・倒される存在であることを忘れないで。」

彼女も自軍に戦闘中止指示を出す。

俺は彼女に死体の傷口と自軍の武器を見せて説明を始めた。


◆REPORT:Hurricane lily_No.8◆

俺達はひたすら走っている。

ココノエに説明を終えた後、謎の部隊の襲撃を受けたのだ。

不意打ちではあったが、速攻でココノエの兵士と俺の量産クローンを全滅させた手練れだった。

個々の高い戦闘能力に周囲を囲えるほどの大軍。

陣形が縮まって全周から距離を詰められるまえに、ハリィと一点突破した。

「待ちなさい!!どこへいくのよ!!」

ココノエもついてきている。

彼女が援護攻撃をしてくれたことで確実に突破できたのだから、無視するわけにもいかないだろう。

「考えるのは後だ!!追跡してくるやつらを何とかして振り切れ!!」

後方からは大軍が追いかけるくる足音が聞こえていた。

「仕方ないわね・・・。

その子の手、そのまま離しちゃだめよ。」

言われなくても、娘と繋いだ手を放す気はない。

ハリィも分かっているのか・・・俺の手をより強く握った。


◆REPORT:Hurricane lily_No.9◆

ココノエが転移の術を使ってくれたので、追っ手を振り切ることができた。

転移された場所は西部地域のある山の中。

山頂まで目算往復1時間くらいか。

目の前には人工的に植えた形跡のある植えたばかりの若い木があった。

その木の高さはハリィと同じくらいだろうか。

阿南の記憶から検索すると、この木は何千年という時を生きる大樹らしい。

「おねーちゃん、ここどこ?」

「ここは私と夫の約束の場所。」

「俺の中の阿南の記憶では、キミは独身じゃなかったか?」

「その記憶、大狼って人は出てこないかしら?」

・・・西軍の武将か。

もしかして・・・そういうことか。

「なるほど。記憶もアップデートしなければいけないな。」

ここに植えた木は夫婦の約束であり、獣人世界が平和になったら家を建てようと約束しているとのこと。

平和になっても獣人世界全体の被害を考えると・・・すぐすぐ新居を立てるのも難しいかもな。

ここから見える麓の町の被害も酷いものだ。

・・・ここも俺は進軍指示をだした覚えはない。

地理的に制圧する意味がないと進軍候補からは外してた場所だ。

恐らく何者かが【何かしらの実験】を行ったのだろう。

「だいたいねえ・・・こっちの陣営に連れて行ったらどうなるか分かるでしょ?

あなたがこの世界で多くの命を奪ってきたのは事実だし、そこへ行けばどうなるか容易に想像つくわよね?」

キミのいうことが正しい。

そしてここへ転移した判断もね。

「これからあなたはどうするの?」

どうにかしようにも情報が無い。

いいや、よく思い出して分かっていることを整理しよう。


・謎の部隊の姿は?

人間だ。

だけど・・・容姿から判断すれば日本人でないことが分かる。

でもこれはおかしい。

転移ゲートと獣人世界の存在を知るのは日本政府だけだったはず。


・謎の部隊の人間の特徴は?

やつらの軍服にはある寒い国の国旗が描かれ、その手には某国の竜騎兵達が愛用したサーベルが握られていた。

しかし・・・なぜあの国の人間がここへ?

なぜ転移ゲートと獣人世界を知っているんだ?

【なぜ】ばっかりだな・・・。

もう1つ気になったのは・・・俺はずっとクローンを見てきた影響なのか、オリジナルとクローンの見分けが感覚的に判断できるようになっていた。

あいつらはオリジナルの人間。

だけど・・・獣人のような身体能力を持っていた。

何かトリックがありそうだが、現段階でははっきりしない。


・・・今分かっているのはこんなところか。

おっと・・・獣人世界自軍本部から通信が入ってきたようだ。

何かあったのだろうか・・・またしても嫌な予感がする。

『司令官!!襲撃を受けています!!

敵は・・・人間です!!

外国の部隊と・・・』

痛々しい声だった。

無線機の向こうで力尽きたのか・・・そこまで言って声が途切れる。

そしてすぐに違う人物の声が聞こえた。

『久しぶりですね指令・・・。』

この声は!?

「【日下部】・・・なんの真似だ?」

声の主は日下部、反政府組織時代はサブリーダーを務めた男。

色白にボサボサ髪のガリ男で牛乳瓶の底のようにレンズのでかい眼鏡をかけている。

(青春時代のあだ名は、平成生まれは知らない裏名曲【ホネホネロック】)

国営の研究機関を人員削減で解雇された経歴をもつ元研修者だ。

日本制圧後は人間世界に残ってもらい、あちら側の仕事を任せていのだが・・・俺の知らないところで何があったんだ・・・。

『あなたより先に人工子宮を完成させただけですよ。

そしてより効率のいい方法を思いついた。』

やつが継承後の俺よりも賢いことは知っていたが、極秘に人工子宮を成功させていたとはな・・・。

それよりも問題なのは・・・。

「お前はそれをどう使った?」

『司令官、昔、SFアニメでエンジンエネルギーを120%チャージするとチート級の破壊砲を撃てる戦艦の物語があったのを覚えてますか?』

「歴史上実在した旧日本軍の戦艦を改造した設定のあれか。」

『あの技術の実用化を研究したとしましょう。

そして苦労の上に完成した。

しかし、大事なのはここからです。

僕とあなたはこの先異なる判断をしました。

あなたはその技術を【自分で使う】道を選んだが・・・使いこなすのに苦戦している。

僕はその技術を【一番高く買ってくれる国に売った】・・・そしてその国に必要な人間として雇われ優遇されている。

今回の件はこの状況なのです。』

「わかってきだぞ・・・お前、【第二次世界大戦末期に日本の北の領土を火事場泥棒した前科】のある某国に売りやがったな。」

『そのとーりでーす!!

だいたいですね・・・あなたの研究条件も面倒だったんですよ。

人工子宮に関しては【自然成長】にこだわるなんて・・・。

クローンの急速成長と刷り込み技術を応用すれば、オリジナルの人間を強化状態で量産できるじゃないですか?』

「急速成長と刷り込みは一定確率で肉体・精神崩壊のリスクがある技術だ。

短期間の入れ替えが前提の量産クローンと違い、本来の寿命を生きる人間には危険過ぎる!!」

『面白いこと言いますね?

クローンはよくてオリジナルはだめなんですか?

同じ【命】なのに?

僕とやり方は違うけれども、虐殺までしてきた人がそんなこと言えるのですか?』

「お前のやったことは、【同じ組織】の人間に対する裏切りだぞ!!」

『あなただって【裏切って】ますよね?ある意味。』

まさかこいつ・・・。

俺は横目でハリィを見た。

『可愛いですよね・・・ハリケーン・リリィちゃん。』

くそ!!

やはりばれていたか!!

『これを知ったときはもう、笑い過ぎて腹筋崩壊ですよwww

あれだけ同じ人間を恨みに恨んで・・・阿南という【悪魔】と契約までした後、過去の自分の大量コピーのような【使い捨て】クローンを改良を繰り返して量産してきたのに、その中の【失敗作】に情が芽生えて娘としてそだてちゃうなんてさあwww

漫画だとよくあるパターンだけど、本当にやっちゃうバカがいるんなんてねえwww』

俺だって最初は、便利な手駒としてキープしようと考えていた。

でも・・・すぐそばでいろいろなことに興味をもつ彼女と接するうちに、彼女を【モノ】として見られなくなったのだ。

それどころか、日々会話を重ねていくうちに笑顔を見せてくれる少女を【モノ】だと言われることに憤りを感じるようになったいた。

純粋な笑みが影響を与えたのは俺だけじゃない。

周囲のスタッフ達もハリィをクローン兵士ではなく、【施設に親と同居している子供】として扱ってくれるようになり、俺が手が離せないときには代わりに面倒をみてくれるスタッフもいた。

とくに独身の俺にとって子育て経験のある年配スタッフのアドバイスは嬉しかった。

「俺は・・・ハリケーン・リリィの父親になったことを後悔していない!!

お前はあの子の面倒を一緒に見てきたスタッフまで・・・」

【お前は仲間を殺してきた。】

そう言いかけて俺は迷った。

俺にそのセリフを言う資格はあるのか?

同じ人間への憎しみを暴走させ自国を支配しただけでは止まらずに、獣人世界を支配していようとしていた俺が・・・。

そしてそれを人間世界の完全支配への足掛かり程度にしか考えていなかった。

攻め込まれる側からすれば毎日のように大事な人を失う地獄だっただろう・・・。

どれだけの人が親や子を失ったのか・・・。

なんで今までそんなことを一度も考えなかったんだろう。

何度も立ち止まる場所はあったはずなのに。

「ガングイ!!」

無線で日下部と話す俺にココノエが声をかけてきた。

「今更後悔しても、攻め込まれた私達としては誰もあなたを許さない。

でも・・・今できることをやりきらなければ、ハリケーン・リリィも失うのよ。」

今俺がやらなくてはいけないこと・・・。

そう・・・日下部と某国の部隊を止めなければ!!

「日下部、お前と某国の目的は何だ?」

『半分は察しがついているんじゃないですか?』

某国の出現場所とタイミングから考えると・・・あれが答えだな。

麓の破壊された町をみて答える。

「人工子宮によって誕生した兵士の実験だな。」

『は~い。正解です。』

「日本で普及の名作と言われるロボットアニメのシリーズに遺伝子改造受けて生まれた人種が登場する物語があったが・・・お前に先に実現するとは思わなかったぞ。」

『あそこまで汎用性のある人種ではないですね。

僕の設定では【身体能力特化】ですから。

性能をこれに絞り込むことにより休息成長を適応した場合のリスクが減るんですよ。

まあ、知能や性格はクソガキレベルですが・・・指揮する側とっては部下は賢くないほうが都合がいい。

中途半端に賢いと人間というのは勝てないくせに嚙みつきますからね。

心当たりあるでしょ?』

あるさ・・・継承前には腐るほどな。

「数が手当たり次第に暴れたら同じじゃないのか?」

『ちゃんと保険はかけてあります。

昔スパイ映画で脳に超小型の爆弾を仕掛け、脳だけを壊して対象を殺す仕掛けがあったでしょ?

僕はあれをヒントにマイクロチップ型の爆弾を作りました。

脳ではなく心臓用ですけどね。

爆発の威力は武器として使い物にならないですが、心臓の機能に異常を起こすには十分です。

これは便利ですよ。

爆発する日を設定すればあなたが量産クローンにしたように、強制的な寿命制限も可能です。

某国の軍では寿命制限よりも【指揮する側の都合】に合わせて細かい条件を設定し、利用してます。

予定外の行動をとった瞬間、サヨナラ。

いや~便利ですよね。

すごいの作りましたよね僕って。』

「は・・・。てめぇもなかなかの悪党だな。」

『でも僕は、あなたのようにケモノの遺伝子は使ってませんよ。

そんな異物を混ぜなくても、強化に成功しましたから。

・・・て言うのは嘘でうちのボスは人類としての最強にこだわり、獣人を下等な生き物として見下す人だったので・・・獣人遺伝子の組み込み案は却下されたんです。』

この世界の文明レベルだけを見て獣人を下等というのは間違いだ。

文明レベルが低いのは彼らの能力が低いからではない。

生まれ持った【高い身体能力】と【術】が根付いた世界では、【高い文明】が必要でなかったのだ。

【術】ときくと過去の文明のように考える人がいるが、その考えは術式を教わった瞬間に崩れ去る。

並みのサーバーでは収まりきれないような術式パターンが古来より存在し、現存する術者達により日々新しい術式が生まれている。

術式の作り方は【漢数字の組み合わせ】。

これは何かに似ていないだろうか?

そう、プログラミングである。

術札とは高度な進化を遂げた【仮想コンピュータ】なのだ。

もし誰かが獣人にパソコンの使い方やプログラミングを教えたら驚くスピードで修得するだろう。

よって獣人は下等な生き物ではない。

見方によっては我々人間より高度な生き物と言える。

獣人を下等というのは、獣人のことをまったく知らない証拠だ。

「で・・・残りの半分は、この世界の支配か?」

『いいえ。

はっきりいってこの世界、私の【今の】ボスにとっては邪魔です。』

某国にとっての邪魔な理由・・・それはたぶん・・・

【放射能への完全耐性】。

核兵器に興味津々なあのボスにとって放射能がきかない相手は確かに邪魔。

爆発に巻き込めるなら有効だが、効果範囲を外れた者は無傷で反撃してくるのだ。

けど邪魔と言う方には消したいということだ・・・強化兵よりも確実で全ての獣人を始末するには・・・爆発そのもので全てを破壊する?

この方法なら確かに放射能がきくかどうかなんでどうでもいい。

しかし・・・そんな兵器は実在しな・・・いや、まさか・・・。

「お前まさか・・・【ラグナロク】を完成させたのか!?」

『正解です。

最終調整が残ってますが、完成といっても間違いではないでしょう。

そりゃ分かりますよね?

もともとはあなたが【世界を一撃で滅ぼせる核】の研究を僕に任せていたのですから。』

自分のやろうとしていた悪夢のような計画が・・・本気で嫌になる瞬間だった。

当時の俺はそれの完成した未来が輝く世界に思えていた。

威力も世界が終わるレベルと聞けば最悪なことは誰にでも分かるだろうが、そのような兵器は完成までの過程の中でも大きな犠牲を払うのだ。

そんな愚かな正当化ができてしまったのは、犠牲を【誰かの命が失われるもの】と捉えず【材料を消費する】程度に考えていたからだろう。

【神々の黄昏=ラグナロク】の名を持つそれは・・・それこそ・・・かつての俺が目標の1つとしていた【世界を一撃で滅ぼせる核】だ。

放射能がきかなくても、世界を火の海にされれば獣人達は滅びる・・・。

獣人達に対核兵器用地下シェルターを作る技術はない。

術で障壁を作るのはどうか?

【一定以下の衝撃・速度によるダメージをカットする】なら簡単にできるだろうが、相手の攻撃力が強すぎれば簡単に叩き割られて意味がない。

【特定の攻撃を完全無効】も作れるが・・・これには長い長い研究期間と莫大なデータを必要とする。(余談だが、【特定の人物に一定以上強力な呪いをかける】場合も同様だ。俺が阿南から継承のときにかけられた呪いは同意があったからできたらしい。)

つまりだ・・・【核兵器対して完全無効化できる障壁】の術式を完成させるには何度も同威力かそれ以上の威力の核爆発のデータを手に入れないといけない。

もうお分かりだろう。

世界を一撃で滅ぼせる核の威力のデータを何度も集めるチャンスはない=これに対する隔壁をつくる術はないのだ。

『司令官・・・いいえ、支配者モドキのガングイ!!

はっきり言いましょう。

もう・・・あなたは不要な人間です!!

絶望して自殺するか、時間切れで死んでください。

【使い物にならなくなったあなた】と違って、僕は忙しいのでこれで失礼します。』

そこで通信は切れた。

・・・このまま何もかもが終わるのか?

何もできないまま時間がだけが過ぎて、【契約の死】を待つことになるのか?

『クソみてーな人生だと思ったときこそ抗え!!』

頭の中にまた【阿南の言葉】響いた。

これはあいつが俺に継承をし、息絶える前に残した最後の言葉だ。

そういえば・・・あいつはこんなことも言ってたな。

『ワシと同じことを達成しろとは言わん!!

お前への継承はワシの自分の運命対する抵抗なのだ!!

ワシの最後の抵抗だ!!

ガングイ、ワシの力を受け継ぐなら・・・この力だけではなく、お前自身の意思の力で・・・最後までクソみてーな運命を壊し続けろ!!

何もしないで突っ立ったままで死ぬな!!』

このあと『クソみてーな人生だと思ったときこそ抗え!!』に続いたんだったな。

阿南・・・俺はお前のことを【代償と引き換えに力を与えた】【獣人の姿をした悪魔】だと思っていた・・・。

でも違う・・・お前は【誇りある悪】だ。

それに・・・記憶を引き継いだ俺は、お前が【悪】なった本当の理由を知っている。

お前の【娘】の関わるあの事件がきっかけだったことを・・・。

俺達侵略者はされる側からすれば悪党・人殺し以外のなんでもないだろう・・・だが、同じ悪でも誇り無き悪はただの【腐れ外道】だ・・・。

それには今までの俺と・・・【裏切った日下部】が該当する。

ここで抗うことを諦めれば、俺は【腐れ外道】のまま死ぬ。

せめて・・・【誇りある悪】で幕引きをしたい。

俺は【悪の先輩】から受け継いだ野太刀を抜刀して、暗くなってきた空に剣先を向けて叫ぶ。

「【誇りある悪】として【クソみてーな運命】に最後まで戦いを挑む!!」

これは自らの運命への宣戦布告だ。

その姿を見たココノエが少し離れたところで笑っている。

ハリィは無言で俺に寄り添ってきてくれた。

ここからは今までとは違う・・・悪が悪なりの誇りをかけた戦いが始まるのだ。


◆REPORT:Hurricane lily_No.10◆

俺はハリィを戦災孤児という建前でココノエに預けることにした。

この先はたった1人の戦いになる。

獣人にとっては俺は侵略の司令官なので、彼女達の協力を得ることは不可能だ。

「あてはあるの?」

「いいや、1度島の本部に戻って手がかりを探すことになる。」

「そう・・・もし、他の場所にいくなら東部地方での活動は気を付けて。

【風魔悠将軍】がまた出たみたい。」

「もしかして、氷の魔人というやつか?」

あいつが大地を凍土化した後の光景は何度か見たが、直接それを見たことはない。

「今まで見たことないなら、それは幸運だったわね。

あいつを倒す術は今の私達も持っていない。」

【放射能を浴びた恐竜の生き残り】が狂暴化して日本に上陸してくる映画を思い出した。

人の力で勝てない存在・・・そう考えていたほうがいいようだ。

「でも・・・去年から・・・。」

「やつの行動に異変でも?」

「そこなのよね。

あいつって今まで年末に1度出てきて封印されたら、次の年末に封印が解けるまではおとなしくしてる存在だったのに・・・。」

「封印が弱い・・・いや、封印を極端に弱める原因が発生している?」

「まだなんとも言えないわ。

考えたくないけど・・・もしかしたら・・・。」

何者かが【意図的に封印を解いた】。

最悪なケースも思い浮かんだ。

でもそんなことをしてなんのメリットがある?

この世界の獣人でさせ制御できない存在を・・・。

「もっと最悪なのは・・・私達が術で封印したはずの風魔悠将軍が効果期間終了以外で外に出るということは・・・【術で術を解除する】ということ。」

ココノエの懸念内容は予想がついた。

術を使うには俺のようなイレギュラーを除き、獣人遺伝子が必要だ。

例えば獣人族やハリィやその姉妹の量産クローンが該当する。

「もしかしたら・・・向こう側に・・・。」

自分の狐耳を片手の指先で掴みながら悩むココノエ。

「まだわからないぞ。

結論を出すにはまだ早い。」

俺も気にはなるが、不用意に封印地域に近づくのは危険だ。

風魔悠将軍との遭遇は危険極まりない。

今は他の情報も集めるべきだろう。

予定通り一度島の施設に戻るべきだ。

「私もいきたい!!いくのおおお!!」

暴れるハリィをココノエが羽交い絞めで抑え込んでいる。

激しく動くハリィの頭が何度もココノエの顎に叩きつけられていた。

抑え込むココノエも負けてはいない。

「わがまま言っちゃだめよ!!

これはあなたを護る為なの!!」

「嫌だ!!ヤダヤダヤダ!!」

ハリィがココノエ腕に噛みつく。

「痛!!こ~のクソガキぃ~!!」

ゴッ!!

何かを鈍器で殴るような効果音がした。

ココノエがハリィの後頭部に頭突きをかましたのだ。

「きゅ~・・・。」

おとなしくなった・・・正しくは【気絶】したハリィ。

「ちょっとやりすぎじゃないか?」

「あんたが甘やかしすぎたのよ。

クソガキは多少痛めつけてでも、【悪いこと悪い】と教えるくらいでちょうどいいの。」

「溺愛は認めよう。

しかしだな・・・親としては今の頭突きは娘の方が気の毒だ。」

「それがダメだって言ってんの。

とにかく、この子は預かっておくわ。

勝てなくてもいい・・・この子を【親のいない子供】にしない為に、最悪でも生きて帰ってきなさい。」

『最悪でも生きる。』

この戦いから身を引き、契約の死がくるその時まで娘と過ごす選択肢もあっただろう。

しかしその選択では、俺が死んだ後に日下部達がどんな行動にでるか分かない。

時間が経過する分、奴らがもっと大きな力を手に入れることは十分に考えられる。

今倒さなければ、人間世界の最先端技術を丸ごとこちらに持ち込まれた後では対抗手段がないのだ。

「ココノエ、娘を頼む。」

「はいはい。1名様転送ごあんな~い♪」

転移術が発動し、足元から現れた光に包まれる。

俺を包んだ光は夜空へ伸びて消えていく。

ココノエは気絶したハリィを抱きかかえて、転移される俺を見送っていた。

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